ハイキュー! 甘甘

□ずっと一緒にいよう ( 及川徹)
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仕事が終わり、彼女と同棲している部屋につくともう真夜中だった。
明日まるまる1日休むため、とはいえため息がでる。

リビングは電気がついていたけど、彼女はいない。

『帰ったら起こして』

メモが1枚、テーブルにのっていた。

ネクタイをほどき、ジャケットとスラックスはハンガーにかけた。
そのまま替えの下着を持ってシャワーに直行。
仕事をしながらいろいろつまんだから、お腹はすいていない。
湯上がりにミネラルウォーターのボトルをつかみ、クローゼットに隠しておいた小箱をつかむと、電気を消して寝室に向かった。

暗闇のなか、静かに少しカーテンを開けた。
今日は月が明るくて、スッと部屋に光が通る。
ベッドに腰かければ、愛おしい寝顔。

おかえり、と、言ってほしくない訳じゃない。
「でも、こうやって待っていてくれるだけで嬉しいとか、安心だとか思うのは俺も年かなぁ」
なんて、久しぶりに飲みながら岩ちゃんにいったら、
「もういい年だろ。っていうかいつになったら結婚するんだお前」
と、逆に聞かれた。
そういえば、今の暮らしが心地よくてずっとこのままでいいなんて思っていたけど、ここ数年で岩ちゃんも、マッキーも、後輩の金田一さえも結婚していった。
「名無しさんだって、待ってんじゃねぇの?同棲と、結婚じゃ、約束されたモノが全然違うだろ」
考えてもみなかった。
名無しも俺と同じだと思い込んでいたから。

出会った頃と変わらない素顔。
化粧がうまくなったぶん、ほんとの素顔は俺しか知らないと思うと優越感。
髪は数ヵ月前から伸ばしているから、大分長くなった。
これなら、アップにするのも問題ないだろう。

そっと、頬に触れる。
髪を、耳にかける。
あらわになった小さな耳にささやく。
「名無し、ただいま」
ん、とかなんとか声を漏らして、身じろぎする体を、ぎゅっと抱きしめる。
「ただいま」
もう一回いうと、もぞもぞ動いていた体から伸ばされた手が俺に絡みついた。
「んー、おかえりー」
胸のあたりに顔を押し付けて名無しがいった。
あぁ、本当にかわいい。

「名無し」
名前を呼ぶ。
「んー?」
顔を人の胸に埋めたまま返事をするからくすぐったい。
「こっちみて?」
素直にこっちをみる名無し。
俺も、まっすぐ見つめ返して。
「いいもの欲しい?」
ときくと、突然ちょっと嫌な顔をされた。
「え、それ、エッチな質問?」
「えぇ!?なんでそうなるの‼」
「改めて、しかもそんないい顔で言われたらなにか裏があるかと思って…」
「ひどい、ひどいよ名無し‼‼」
ちょっとちょっとホントなんなのさ、俺ってそういうキャラ!?
動揺したけど、落ち着け落ち着けと、自分に言い聞かせる。

名無しごと起き上がって、向かい合わせにベッドに座る。
「ちょっと、聞いてほしいんだけど」
俺が正座したのをみて、名無しは不思議そうな顔をした。
「徹?」
「手、出して」
俺が、小箱を握りしめた手を差し出すと、まるであめ玉を受けとる子供みたいに名無しは手のひらを上に向けて、両手を差し出した。

コトン

そこにおとした小さな箱が、遠慮がちな音をたてた。
名無しの目がまんまるに見開かれる。

「ほんとは、おしゃれなレストランとか、夜景が見える場所とか、夢の国とかいろいろあるんだろうけど」
息を、吸って吐く。
「俺は、ここにいて、俺のためにご飯作ったり待っててくれる名無しが1番愛おしいから、ここで言わせて」
小箱のふたを、そっと開ける。
「結婚してください。これからもずっと、一緒にいてほしい」
「…ははっ」
固まってた名無しが笑うと、涙がこぼれ落ちた。
「えぇぇぇ、ちょっとなんで泣くの!?」
「いや、違うの、嬉しいの」
にこっと笑って涙をぬぐった彼女がいう。
「もちろん!」
そして、小箱ごと俺の手を握りしめて引き寄せた。

触れる、唇。
「指輪、つけて」
唇だけが離れた至近距離で彼女が言って。
「いいよ」
俺からもキスを返して。
左手の薬指に、指輪をしてやった。
「キレイ。カワイイ。大事にする」
「そうして」
心底嬉しそうな名無しに頬が緩む。
「願掛け、効いたなー」
「なにが?」
「私、髪伸ばしてたでしょ」
「うん」
「徹に、プロポーズされますようにって、願かけてた」

脳裏によぎる、岩ちゃんの声。
『名無しさんも待ってんじゃねーの』
ほんと、その通りだったみたい。

「明日まる1日休みだから、名無しの実家に挨拶行きたいんだけど」
「いつもひましてるから大丈夫だと思うよ」
ぎゅうっと名無しを抱きしめる。

ずっと一緒にいよう。

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