短編集T
□最後じゃない
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「はぁ・・・」
適当に取り出した硬貨を入れて、炭酸飲料の缶ジュースのボタンを押す。ガコン、という音がして、商品が途端に出てくる。こんな光景、高校で過ごした3年間、数え切れないほど見たはずなのに、妙に特別に見えた。
(あいつと・・よく一緒に飲んだな・・・)
ふとそんなことを考えてしまった自分に、ゾロはそろそろ自分自身に呆れ始めた。今は数十分の間だけ、離れているに過ぎないのに・・・。そんな考えをとにかく頭から追い出して、缶ジュースのペルタブを上げる。プシュ、という気持ちのいい音がして、喉に流し込めば、慣れ親しんだシンプルな味が口いっぱいに広がり少し気持ちが軽くなる気がした。
だが、穏やかな気持ちになったのも束の間・・・。
「なんで!?なんで急に別れようなんて言うの!?」
今、最も敏感になっている言葉が耳に飛び込み、思わずぎくりと反応してしまう。
「いや、だからさ、大学も別々になっちまって会えねえし、それならお違い別に大学で良い相手見つけた方が・・・」
「別に会えないわけじゃないんだからいいじゃん!!それとも何?!あたしとはそんな軽い気持ちだったってことぉ!!?」
どくん、どくんと心臓が大きく脈打つ。確かあれは、同級生のカップルだ。いつも仲がいい美男美女の2人だと、噂で耳にした覚えがある。
仲、良かったんじゃねえのか
相手が1番大好きだから、付き合ったんじゃねえのか
自分とサンジに重ね合わせて想像してしまいそうで、その考えを必死に忘れようとして、缶の中のジュースを煽る。
「ねぇ!!!あたし貴方のこと大好きだったのに!!!そんな簡単に捨てるの?!!」
「っだからよ!!!もう終わりなんだよ!!!もう飽きたんだお前に!!!」
男の言葉が、ついに本格的に心を刺し始める。
ゾロはもうその場にいることが耐えられなくなって、空になった缶を乱雑に捨て走り出した。
ーー・・もう終わりなんだよ・・ーー
ーー・・飽きたんだ・・ーー
その言葉だけが何度も何度も頭の中でリフレインする。彼に限って、そんなことは無いと思いたい。
(そんなこと・・ないよな・・・
サンジ・・・・!!!)
彼のぬくもりが消えた教室に戻れば、また心は冷えきっていく一方だった。