春来たれば雨も来たれり

□大きい夜の兎
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『ん…ここは…』

目が覚めると私は知らない和室の一室にいた。

『確か私は…』

最後に記憶にあるのは自分家の和菓子屋で母と父と働いていたこと。

気だるい身体を起こし考えていると、ふと襖が開いた。

そこには、歳のいった男が立っていた。

鳳「やっと目が覚めたか。」

『ここはどこですか?あなたは誰ですか?どうして私はここに…』

私は少し睨むように言ってやった。

男は少し笑うように返してきた。

鳳「これはこれは噂通りの娘のようだな。」

鳳「夜王鳳仙…聞いた事はあるか?」

夜王鳳仙…噂で少しだけ聞いた事がある。地下吉原を統べる者。夜を統べる王…。

私はその言葉を聞いて目を見開きながら言葉も出ず、驚きが隠せなかった。

そんな人物が何故自分の目の前に立っているのか。そして、鳳仙がいるという事は私は今現在、地下吉原にいるという事に。

鳳「お前が今ここにいるのは今日から遊女として生きるからだ。何も覚えていないのか?」

『あ…』

そうだ私…
確かに母と父と一緒に仕事をしてた。でも、急に薙刀を持った女達が店に入って来て…

女「夜王こと鳳仙様の命により、白川美月、地下吉原に連行する!!反抗すれば斬る。」

そう言うと無理矢理、女達は私に掴みかかってきた。

母「やめてください!やめてぇ!」

父は私に向かって来ようとする母を泣きそうな顔で抑えつけていた。

私も必死に逃れようと暴れたが、腹に一発の拳を受けそこで私の意識はなくなった…。




鳳「思い出したようだな。今日から遊女としてここで生きていけ。わかったな?」

『…………。』

私は更に睨みをつけながら何も言わなかった。

冗談じゃない。なんでこんな事に…それにしても早くここから出よう。きっと母も父も心配しているに違いない。
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