無限の現代神話

□肆話
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「よし!」

鈴坂かなたは手のひらに拳を打ち付けた。
今週に受注した任務がすべて終わり、後はギルドに戻って報告するだけだ。

肩を回すかなたの横で好野陽菜子は転がっている異形者の死体を数えて記録をとっていた。

「なんだか最近こっちでの活動ばっかりね」

「ギ、ギクゥ!ソ、ソウダナー…」

陽菜子の呟きにかなたは一瞬固まって白々しく同調した。

宗近のもとに行かぬようにとわざと任務を増やしていることに罪悪感を抱く。
もし、そう仕向けているのが陽菜子にバレたらどう言い訳をしようかかなたは冷や汗をかきながら考えた。

そんなかなたの気も知らない陽菜子は些細な愚痴を呟いた。

「今夜だけで二十体よ。マスターも人使いが荒いわ」

かなたはそれを聞いて明後日の方向を見て口を尖らせた。

最近の任務が増えたことがマスターのせいにされていることに申し訳ない気持ちがこみあげてくるが、私のせいじゃない、蒼刃宗近がすべて悪い、と心の中で言い聞かせる。

「…宗近、大丈夫かしら。ただでさえ面倒なことに巻き込まれてるのに」

陽菜子の言葉にかなたはムッとした。
いつも陽菜子は宗近のことばかりだ。

「アイツは一人でもやれるって!」

かなたの口から反射的に嫌味が出た。

「ダメよ!あの人、私がいないと…!」

陽菜子は何かを言いかけ、諦めた。

彼女がいなくても宗近が一人で何でもできる。
一緒に居ることで足を引っ張ってしまうこともあった。それでも彼女は極力支えるように、彼の隣に堂々と立てるようにと数え切れぬ努力をしてきた。
しかし彼女の強さは宗近には届かなかった。
共に学年壱位の成績を収めたが男女では当然差があった。

「陽菜子…」

黙り込んでしまった陽菜子を見てかなたは彼女の想いに胸が締め付けられた。

「…も、もう帰ろ?」

かなたの提案に陽菜子が頷く。
二人はギルドへの道をただ歩き始めた。
小石を蹴飛ばして歩くかなたの横で陽菜子は昔のことをそっと思い出した。


*

**

***

****


夕日がさす中学校の一室に二人の女子生徒がいた。

胸あたりまで伸びた絹のような髪を持つ生徒、好野陽菜子は目の前にいる名も知らぬ女子生徒に睨まれている。

女子生徒は陽菜子に逃げられぬよう扉側に立ちはだかって腕を組んでいる。

陽菜子は女子生徒の口から出る嫌味を目を伏せてただ聞いていた。

「ずるいよ好野さん。宗近くんと幼馴染だなんて。他の子たちの気持ち…考えたことある?みんな頑張ってるのに好野さんが宗近くんにベッタリなせいで報われないんだよ」

宗近に想いを寄せる女子生徒は不満を陽菜子にぶつけた。

「しかも他の男子にも色目使ってるし…最低ね」

「そんなことしてないわ!」

根拠のない発言に陽菜子は堪らず声を上げた。

「成績がトップなのも先生たちに色目使ってるからでしょ」

「違う!」

「違わないわよ!」

二人は睨み合った。

暫くすると女子生徒はクスッと笑って勝ち誇ったような顔をして陽菜子に問う。

「それで…好野さんは宗近くんと付き合ってるの?」

「付き合ってないわ」

「じゃあ私、宗近くんに告白するけど、いいわよね?」

「…答えはあの人が決めることよ。私は関係ないわ。…あなた、よっぽど自信がないのね…可哀想」

「何よその言い方!弱いくせに威張らないでよね!宗近くんに頼ってばかりで自分だけじゃ何もできないくせに生意気なのよ。お嬢様とかいって…甘やかされて育った証拠よね。糸なんてみみっちい技使って。…あなた才能ないのよ。宗近くんにふさわしくないのよ。雑魚なのよ!」

陽菜子は女子生徒のトドメとも言える辛辣な言葉に拳を震わせた。陽菜子の中で何かが爆発し、火花が舞う。
言い返したい欲を抑えて、陽菜子は女子生徒を押しのけ、美術室を後にした。

それから陽菜子は帰宅せず、バスに乗って叔母が所有するペンション「魔女の家」の裏山へ向かった。
その時には既に陽が落ち、月明かりだけが森の中の陽菜子を照らしていた。

陽菜子は微かな風の中、揺れる葉の音を聴き、深く息を吐いた。
そして妖力で紡いだ糸を縦横無尽に張り巡らせる。
糸は真紅に光り、一瞬のうちに消えた。
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