無限の現代神話

□伍話
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霧がかった早朝の空。
三つ編みの少女花園はカーキのモッズコートに身を隠し、広い公園を彷徨っていた。

舗装されたレンガの道を辿ってベンチを見つけると花園は辺りをキョロキョロと見渡し、少し疲れた表情で腰掛けた。そしてモッズコートのポケットの中を漁り、画面にヒビが入ったスマホを取り出した。
ロックを解除してブラウザを開くと花園は検索欄に「中学校 事件 オセアノス 隠蔽」と打ち込んで検索を実行する。
長いロードの間、再び周りを見渡して警戒した。時間が早すぎることもあってか、人の姿は見当たらない。

検索結果を映し出した画面に目を戻し、操作をする。
やがて大型掲示板のスレッドが花園の目を引いた。
スレッドは不謹慎なほどコミカルなタイトルで、ある中学校で起こった事件を取り上げていた。
花園はくりくりとした可愛らしい目を忙しなく動かして全ての書き込みを確認していく。

xx中学校の校内で無差別殺人が発生。オセアノスが駆けつけたが犯人の少年は逃走中。今の所この事件をメディアは取り上げず、匿名のインターネットでしか話題になっていない。

花園は情報をまとめて冷めた目でスマホの電源を切った。そして思い出したように周りをまた警戒する。
誰もいないことを確認し、ベンチに深く腰掛けて息を深く吐く。

すると花園はうつらうつらとして意識を手放し始めた。
少女は己の魂を意図的に何処かへ転送しようとしている。現実と夢を等間隔で行ったり来たりを繰り返し、やがて完全に身体と魂が分離する。
意識を失った華奢な身体はぐったりとして俯き気味に座った体勢のまま全く動かなくなった。

次に少女が目覚めたとき、少女は白い空間にいた。辺り一面の白に酷い霧の空がある。
少女の姿も白く、三つ編みはボサボサの白く短い髪に変わっていた。

少女は衣一つ纏っていない身体のままこの空間をひたすら一方の方向へ駆けだす。
何一つ景色が変わらない空間の中で少女は何かを探すように目線を動かした。

この身体にリンクした時には無音だったが、暫くすると空から音が降ってきた。
深い水の中にいるようなゴーッという音とドクンドクンと脈打つ何かの音が聞こえる。

「胎内音…?」

空から聞こえるそれは少女が幼い頃、安眠のために聞かされていた胎動音に類似していた。
普段とは違う気味の悪さに少女は何かを期待する。

果てのない空間を駆けていると少女は人の姿を見つけて立ち止まった。
その人は白く、酷くやせ細っていてガサガサの白い髪をだらしなく伸ばしている。ボーっとどこかを眺めていたかと思うと、首を機械のように動かして少女を見た。

少女は女性に歩み寄り、呼吸することを忘れてただ茫然と女性を見つめた。
この世界を長年彷徨ったが、彼女との遭遇は初めてだった。
人形のように表情を変えない女性に手を伸ばそうとした瞬間、少女の指先が壁のようなものが当たった。

「接触できない!どうして」

焦る気持ちでもう一度手を伸ばした頃には女性の姿は何処かへ瞬間移動したかのように消えてしまった。
固まっているのも束の間。少女は虫のような羽音を聞いて振り返る。
子供の玩具のような、無数の白い小型のプロペラ機が少女の頭上を飛行していた。
少女は何かに察して夢現の世界を再び駆けだした。

「やっぱりついてくる…。ここの管理者…?でも、それなら私を攻撃するはずない…」

プロペラ機はうるさいほどの羽音を立てて少女を追尾する。
しかし少女は運動神経と持久力に自信がある。
この世界の身体にもそれは反映しているようだった。少女はスピードを上げ、容易く距離を稼いでみせた。

走っても走っても同じ景色の中、少女はやっとやせ細った女を再び見つけた。

「いた!」

迫りくるプロペラ機の羽音に少々の焦りを感じながら、少女はやせ細った女を目掛けて駆ける。

触れるまであと数歩というところで少女の視界の下に何かが現れた。
人の身の丈ほどのナイフが空間に浮き、華奢な腹に刃先を向けて少女を貫こうと待ち構えていた。
少女はまずいと思ったが足を止めることができずにそのまま貫かれた。

「はっ…!」

少女は乾いた声を出して宙に浮く。
そうこうしているうちにナイフは少女の身体を後ろに押し出しながらゆっくりと股下を切り裂いた。
追尾していたプロペラ機は少女の背中へ体当たりを繰り返し、何度も爆発を起こして少女の背中にぼこぼこと穴を開けた。
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