無限の現代神話

□漆話
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カマキリは上空から人々がつくりあげた文明を見下ろしていた。
奇妙に細長い身体に白い肌の彼はこの町の有様に驚愕する。

「ンン!?派手にやってくれたねぇ…ま、いいか。彼を選んだのはある意味正解だったかナ」

カマキリは道路を引っ掻き、ビルを削り、人々を混乱に陥れた黒蜂の功績を称える。

地に図々しく根を張ったビル群。
緑を失った灰色に霞んだ陸。
黒い煙をまき散らす人工物。
以前からこの星に憤りを感じていたカマキリは彼らが作り上げた文明に傷がついた様子を見てほくそ笑んだ。

「予想以上に掻き乱してくれる。上出来だよ。…さて、どさくさに紛れていろいろやっちゃおうかナ」

彼は細い腕を広げて天を仰ぐ。
頭上に黒い塊が生まれ、粒子を喰らい、肥大していく悪の球は暴発し、彼方へ飛び散る。
球は核となり、異形の人々を生み出す。
路地、公園、ビルの屋上、至る所に蔓延る。
カマキリはフラフラとゾンビのように彷徨う彼らを満足げに見下ろした。

「君たちは…コレを"異形者"って呼ぶんだっけ…」

異形者から人々が逃げ惑う様子を見てカマリキは声に出して笑いだす。
高笑いをするカマキリの後ろで空は徐々に青さを失い、あっという間に赤黒く染まってしまった。


*


異形者がどこからともなく発生し、授業中止は余儀なくされた。
異形者の数は尋常じゃなく、出動命令が下された帝青学園の生徒は慌ただしく学校をあとにした。


出動してからどれくらいの時間が経っただろう。
帝都への侵入を防ぐため、支給品の刀を片手に異形者を斬ってまわっているがキリがない。
それはこの天候のせいもあるだろう。
まだ昼間だというのに太陽も月も見当たらない。人工的に作られたような赤黒い空はまるでゲームの世界だ。
異形者が蔓延るには十分な暗さだろう。

遠く聞こえる警報の音を聞きながら、俺は決まった方向へ進んでいた。
斬って進むたび涼しい風の導きを感じる。
立ちふさがる異形者共を斬って道を開けるが異形者は人間の匂いを嗅ぎつけてすぐに俺を囲んだ。

「はぁ…はぁ…」

構え直して呼吸を整える。
刀に纏わりつく血を振り払う隙もない。
見据えた先には一体の異形者。
恐らくこの辺りではコイツを倒せば終わりだろう。

もう何体も斬ってきたこの刀の切れ味は鈍ってきている。
やはり、支給品の刀では…。

最後の一匹を睨んで一気に斬りかかる。

異形者の掠れた断末魔と共に刀が小さい悲鳴を上げた。

「はっ…!」

血色の悪い肌から飛び出す鮮血。
異形者は無残な姿で肉片となった。
足元が血だまりに沈む。
刀の血を振り払い、頬についた返り血を学ランの袖で拭う。

刀は…妙な音が鳴ったがまだ無事か。

質素な外見のこの刀は、手にとった瞬間から十体も斬れば壊れてしまいそうだと不満があった。
力に見合っていなければ己の妖力で武器を破壊してしまう。
俺の場合一度に放出する妖力を抑えられず、無意識に必要以上に放出してしまう。
その体質に耐えられるのは普段使っている今は亡き祖父の刀だが…。この状況で取りに帰るわけにもいかない。

「…チッ」

転がる死体を睨む。
この先を進めばまた数多の異形者と出会うだろう。
この刀でどこまで行けるかわからないが、ここまで来て引き返せない。

点を稼ぐため、己の強さを確かめるため、そして何より…。


刀を鞘に納めながら風の吹く方角へ目を向ける。
何度も通り抜けていく、いざなうような風の音。
冷たい風はこっちへ来い、こっちへ来い、と俺に手招きしている。
風がいざなう方へは城と見紛うほどの竜巻があった。
それは妙に重苦しい動きをして、一度飲み込まれてしまえばその主の首をとるまで脱出はできないと思わせるような砦だ。
言わずもがな、あの砦の主は…。
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