無限の現代神話

□玖話
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【前回のあらすじ】
陽菜子とかなたは蒼刃家に侵入し、宗近の刀を手に入れた。
情緒不安定な花園と黒蜂、それに翻弄されそうになる宗近。


***


少女が呼び寄せる風は息吹の如く、男二人の間をそっと走る。
一人は頭を抱え、一人は短刀を突きつけている。
風に包まれながら二人はどれほどの時間をそうしていたのかわからない。

宗近の目の前でぶつぶつと話していた黒蜂は何かを思い出したようにハッとした。

「僕は君のファンや君の彼女や君よりも君の事を良く知ってる。何でも知ってるさ」

ニヤリと笑って続けようとする彼に、宗近は急になんだと怪訝に構えた。

「君があの日にxxxxxxxxxxしちゃったこととかね」

宗近は自分しか知り得ないことを口走った彼に身の毛もよだった。
焦りからか鼓動が早鐘を打ち、汗が噴き出そうだった。

「なぜそれを」

「アンチの方がよっぽど詳しいのさ」

全てを見透かしているような黒蜂の視線。気持ち悪さが何度も宗近の背筋を走る。
そして宗近の中に隠れていた何かが顔を覗かせた。
宗近はそれが表に出てくるのを許可してしまった。
彼の中の何かは楽しそうに笑った。

「そうか。ならば尚更、お前を生かしておくわけにはいかないな」

その情報は人を殺めてまで隠し抜く価値がある。
宗近は動揺の表情から変貌を遂げた。

「あぁ…恐ろしい鬼の顔だ」

黒蜂が彼の顔を見てそう呟いたが最後。一瞬のうちに世界は光をなくした。黒蜂は混乱し、次の瞬間には何かに足を取られて尻もちをついた。
そして何かが彼の目の奥をガリガリと削り始める。
怯えながら顔を触る。血に濡れた誰かの生暖かい手に触れた。震える手で辿るとその手は短刀を握っていた。
黒蜂は自分の置かれた状況に気が付くまで時間を要した。
彼は鬼が宿った宗近の顔を最後に視覚を失ったのだ。

「どうした。お前の眼球はこれほどまで柔いのか」

短刀を一気に引き抜く。潰れたピンポン玉のような眼球が地面に転がった。

「宗近くんもうやめてよ」

掠れた声でもう言わないからと懇願する彼の喉を短刀が貫いた。
黒蜂は何度か嘔吐き、ポンプのように血を吐きだす。
宗近は喉をヒューヒューと鳴らす彼の左胸を短刀で突き刺そうとする。
しかし何か硬い物がそれを跳ね返した。
何度か試みるも跳ね返され、裂けた服の隙間から鋼鉄の肌が覗いた。
宗近はそれを見て埒が明かないと舌打ちをした。

「生憎、これ以上お前に構っている暇はない」

黒蜂は痙攣して虫の息をしている。この様子だともう長くはないだろう。
その姿を見て宗近は珍しくふっと笑った。
何かを残虐な殺し方をするのは実に久しぶりだった。

宗近が何か満たされたように満足していると何者かが背をドンと押した。
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