無限の現代神話

□十三話
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【前回のあらすじ】
陽菜子は花園と接触し忠告を受けた。
宗近はオセアノス司令官からの褒美を拒否した。


***


遠く煌めく満月が何かを予感している夜。
風も静かに鳴いている。
名も知らぬ誰かとの待ち合わせのために足早に待ち合わせ場所の学校に向かう。
やっと一件一段落したというのに忙しいものだ。文句の一つでも誰かに言ってやりたいが、当てがない。

すると、ヒューとひとつ口笛が聞こえた。
振り向く。誰もいない。足音、息遣い。何もない。
ズボンのポケットに入っていたマナーモードのスマートフォンが震えだした。
取り出して画面に指を滑らせる。耳に当てる。
聞こえた。あの声。

「センパイ。まだ剣…抜かなくていいカ?」

電話越しに聞こえた声はあのカタコトの日本語。からかうような男の声だ。
生憎だが忠告を受ける前に俺の左手親指は刀の鍔を弾いていた。

「油断するなヨ。…オレ、強いヨ?」

次に聞こえたその声は己の背後。
間をとる暇もなく、刃物がかち合う音が響いた。
たった一秒が長く感じるこの瞬間。やっと奴の顔が見えた。
猫のように細く鋭い瞳の中に俺が映っている。
少し焼けた肌にアジア系の香の匂い。
奴とは目と鼻の先の距離。

今までにない新鮮さを感じる。
高まる鼓動。更なる刺激を期待する体中の血。
脳で弾けて広がる快感。
俺は今この瞬間、生を実感している。
忘れかけていた感覚が全身を走って興奮している。
こいつは強い。俺が期待していたより。

間をとって、奴は猫のように目を細めてニヤリと笑った。
その男の手には薙刀があった。長い柄の先に付いた刃が月明かりに鋭く光る。
なるほど薙刀使いか。
その男は下に向けていた刃を天に向け、得意げに薙刀を翳した。

「薙刀…初めてカ?」

そういった後にまた構え直して刃先を俺に向けた。

「センパイ…さっき良い顔してたネ。噂には聞いてたけど、"花園さん"といい勝負ネ。力も、その目も。…外から見ると恐ろしく冷静で、剣裁きはとても綺麗。でも、ちゃんと抑えないと怖い顔がさらに怖くなってるネ」

まだ体が期待している。更なる刺激を。
俺のその様子を見透かすように男は笑っている。

「…名を名乗れ」

飢えて乾いた口で奴に問う。
奴はまた猫のように笑った。

「そういえばお初だったネ。でも初めて会った気しないヨ。…武智 龍(タケチ リュウ)。好きに呼べばイイ」

「武智、お前は刀は初めてか?」

「さーあ。今にわかるネ」

その答えさえも愛しく思った。
俺は嬉しくなって何もかもが楽しくなった。
俺の体は待てなかった。気が付けば一寸、また一寸と武智に近づいて何度も刃をかち合わせていた。

「タ、タンマ!センパイ食いつきすぎっ!」

あまりにも食い気味な俺に武智は音を上げる。だが、そう言いつつも武智は校舎の壁に追いやられそうになっていたのをたいへん上手く切り返した。
今度は薙刀の特徴的な長い柄が俺の接近を許さない。適度な間をとりながらあっさりとした迷いのないさばきを見せてくれる。
あまりにも綺麗なそれに俺は感動すらした。そんな俺に武智は少し引いてるようだったが、それでも俺に向かってくる。
僅かな隙も許さない武智の目はピンポイントで狙っていく。
そして、彼の薙刀の先が俺の足を切り落とそうとした間一髪。こちらも切り落としでその重い薙刀を払った。
危なかった。
こいつはどうやら薙刀の扱いに長けている。
刀相手にどこを狙えばいいのかわかっているようだった。

「おっ!薙刀払うとは、先輩なかなかやるネ」

武智は楽しそうに笑って薙刀で押す。それを刀で受け止めるが、彼の刃が微かに震えていた。

「センパイとやるにはもっとちょっと体力がいるネ…センパイ元気すぎるネ」

「…なんだ?終わりか?」

「もう…ちょっと!」

武智は苦笑い混じりに薙刀を振り下ろす。そして遂に俺はすれすれを狙いすぎ、武智の横髪を少し切り落としてしまった。
武智は急いで後ろへ下がり悲鳴をあげた。

「ウワァー!セ、センパイ髪の毛はダメネ!ハゲちゃうネ!」

「すまない。…うっかり、な?」

「ホ、ホント?フツーにハンザイ!」

そう言って俺を指さす。

「センパイ、オレのこと食べる勢いだったネ!もう勘弁してネ。負け!負け!オレの負けでいいから!ネ?」

「それじゃあつまらん。決着をつけろ。俺がやりたいんだ。いいだろう?」

「ヒエー!」

ジリジリと近づく俺に武智は武器を構えつつも鳴く。
まだ遊べる。そうはやる俺に空から声が掛かった。

「もう、よしなさいよ」
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