無限の現代神話

□十四話
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【前回のあらすじ】
宗近の学校に関西から留学生の武智と鶉が来た。武智と鶉にはある目的があった。
黒蜂はある情報を手に入れた。


***


「よーしーのーさん」

戯けた呼び方に陽菜子は振り返る。


「あなた…」

陽菜子は身構えた。
目の前には宗近に粘着している黒蜂がいた。
学校から帰り、ちょっとコンビニへ行こうと再び外出していた陽菜子。一人きり。武器はまだ使えない時間。危険人物との遭遇。
陽菜子は逃げ道の確保を早急に計算する。

「警戒しないでよ。僕は交渉しにきたのさ」

そう言って彼はゆっくりと歩いて近づいてくる。

「つい最近知ったんだけどさ。大変だったね。あんな事件が起こってさ」

そのまま彼は陽菜子に同情するような表情を見せる。

「何のこと?」

事件と聞いて実は真っ先に思い浮かぶものがあった。だが陽菜子はそれを隠すように問う。

「君の叔母さんが死んだ事件さ。魔女が殺された事件。魔女狩りのことさ」

「…どうしてあなたが知っているの?」

陽菜子のその問いに黒蜂は無視し、小さく笑い始めたと思えば再び口を開く。

「どうしてああなったか知ってる?…君が弱いからさ。弱すぎてギルドに所属してなきゃ怖くて夜にコンビニも行けないんじゃない?宗近くん無しで異形者の大群に勝てる?ん?一人じゃなんもできない。宗近くんがいなきゃ。宗近くんに依存しなきゃ」

急な責め立てるような言い方に陽菜子は下唇を噛んだ。
悔しく思った。陽菜子が気にしていることを彼は言い当てた。

「…黙って。私はあの人より基礎能力は勝ってる。速さも、力も」

それは事実だった。だが全てが勝っているわけじゃなかった。

「でも妖力の開放は苦手だろ?だからあんなに細い糸しか使えないのさ」

「それ以上言ったらただじゃ済まさないわ」

「前に僕に負けたよね。宗近くんがいなくて君は僕にボコられた。無様に」

堪らなくなった陽菜子はつかつかと黒蜂に歩み寄り片手で首を絞め上げた。
黒蜂の足は自然と僅かに爪先立ちになった。

「ぼ、僕、あの事件の、犯人、知ってる、けど」

「教えなさい。今すぐ」

苦しそうに喋る彼の首をさらに絞め上げる陽菜子の目は血走っている。

「…君、君って、病ん、でる」

陽菜子は手を離し、咳き込む彼を見下した。

「おふざけで言うべきじゃないわ。ほんとは知らないくせに」

黒蜂は膝に手をついて呼吸を整え、首を横に振った。

「丁寧に教えてやろうと思ったのに…そんな態度かい?」

顔を上げ、陽菜子の顔を睨んだ。

「君、ホントは誰が犯人か知ってるだろ?」

その言葉は陽菜子の心に真っ直ぐに刺さった。

「ち、違うわ。あの人じゃない」

「違わないね。間違いない。未解決なはずがないのさ。そいつが犯人さ。…さぁ、どうする?」

悪魔が囁く。

「…叔母さん」

陽菜子は呟いた。
魔女狩りで死んだ叔母に心の中で助けを求めた。
抑えていた感情が内側からドアを叩く。
陽菜子の瞳の中で炎が燃えている。復讐の炎だ。


*


陽菜子と商店街を前に別れた俺は書店へ向かった。
俺は陽菜子の長い買い物を待つことはできるが彼女はそうではないようだ。何せ本を選ぶのには時間がかかる。俺が本を買いに行くというと陽菜子はあっそと言って先に帰っていくのはいつものことなので大して気にしないが。

学校が早く終わった今日はまだ日も暮れていない。今日は期待している作家の新作が出ているので完全に気を取られている。

流行りの作家ではないがあまりにもこじんまりとしたコーナーに目当ての物はあった。一冊手を取って他も物色しようと振り返ると、赤本が並ぶような棚の前で一生懸命背伸びをしている少女がいた。
本棚の前を滑稽に何度も跳ぶ少女。
背伸びをしてふるふると手を震わせながら分厚い参考書を手に取ろうとしている。
じつに見覚えのある後ろ姿だった。
彼女の身長は僅か145センチ。よく知っている。
横から彼女が手を伸ばす先の本を容易く取ってやると彼女は勢いよく振り返った。

「あ、ありがとございま…げっ!」

感激したような笑顔でお礼を言うが、俺の顔を見て間抜けな声を出した。
そう、彼女は鈴坂かなただった。

「お、お礼なんて言わないから!取ってくれなんて頼んでないし!」

彼女は後退りして言う。
その言葉を聞いて溜息が出た。彼女の目当ての参考書を押し付け、さっさと会計して出てしまおうとしたとき。

「待って!」

鈴坂は俺を呼び止めた。
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