無限の現代神話
□十九話
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【前回のあらすじ】
かなたは決意し宗近に勝負を挑むが反則で負けてしまう。
宗近は精神的に追い詰められ、陽菜子の大事な資料をシュレッダーにかけてしまった。
***
【中学編】
「その、さ。昨日はごめん!…なさい」
昼休みの屋上で鈴坂は頭を下げる。
泣きはらした目と隈が目立つ彼女は朝から俺と目を合わせたがらなかった。俺の頬に殴られた跡があるのを見たくなかったんだろう。
教室では他校の生徒と喧嘩したなどの噂を流されて散々だった。
「…もう、遅い」
「え?」
鈴坂に謝れるようなことは何もない。だが何もかももう遅く、鈴坂に謝られたからと言って何か解決するかというと違った。
鈴坂が間抜けな顔で呆然とする後ろで屋上の扉が開き、陽菜子が俺たちのそばに来た。
そして俺と鈴坂の顔を横目に見て溜息をついた。
「なぁに?二人とも、暗い顔して」
そう言って遠くを眺める。そのまなざしは不満を映し出している。
暖かな日差しにサラサラの髪に天使の輪のような光が出来上がる。
「陽菜子だって…なんか元気ない…けど…?」
鈴坂が恐る恐る陽菜子に聞く。
その時俺の目をちらっと見た。
「玲子にまたやられちゃった」
呟く陽菜子。
桃色の頬が少し膨れる。
「…え?またぶたれたの?」
「ううん」
「じゃあ…何?」
「大事な資料シュレッダーされてたのよ」
「そ、それって…もしかして受験関係?」
また鈴坂は俺の顔を見た。嫌な予感がするといった顔をしてる。
陽菜子はその問いに沈黙で答えたあと、叫んだ。
「あー!やになっちゃう。もういいわ。そういう人なのよ。だからもういい」
そんな陽菜子の様子に鈴坂が俺を疑わしい目で凝視する。
「私戻るわ。今日は食欲ないだから二人で食べて」
「あ、ひ、ひなっ」
鈴坂が引き留めようとするが陽菜子は屋上を後にしてしまう。
陽菜子が去った後、鈴坂は閉ざされた扉を暫くぼーっと見つめ、次に俺に不審な目で凝視する。顔を逸らした俺に鈴坂は全てを悟ったようで詰め寄った来た。
「あ、あんたさぁ…!」
鈴坂はそう言って詰め寄るも暴力衝動に駆られそうになるのを必死に耐え、天然パーマの髪をぐちゃぐちゃにして叫んだ。
「だー!もー!あたし昨日の夜考えたんだ!やっぱり引き留めようって!でもどうすればいいかわかんないからアンタと相談しようって思ってた!なのに!…なのに!…なんで勝手にこんなことするわけ!?ゴラァ!」
彼女はとても興奮して鼻息を荒くしている。
「…お前、少し安心しただろ」
話を少し逸らす。
鈴坂は固まった。
こんな作戦にも幼い鈴坂はまんまとハマってしまう。
「図星、か。お前は顔に出やすい」
「違う…違う…こんなやり方望んでなかった」
その言葉にじわじわと来ていた罪悪感が俺を包んでどこかへ引きずり落そうとしていく。
「…よせ、今更後悔したって遅いんだ」
鈴坂と俺は顔も見合わせた。しかし俺の顔を少し見ただけで今度は鈴坂のほうが泣きそうな顔をして目を逸らした。
「このことは誰にも言わない。言ったらきっと何もかもお終いだし誰も幸せにならないから」
鼻を啜りながら言う鈴坂。不安そうな顔で遠くの空を見て、何かを決めたように右手の小指を俺に向けた。
「ん!」
意味が分からず固まっていると再度鈴坂は小指を差し出す。
「ん!」
ようやく指切りだと理解して恐る恐る俺も右手の小指を出した。
「私アンタのこと大っ嫌いだよ」
互いの小指をしっかりと結んだ。
秘密の共有をしたが、こんな形で絆を深めたくない。そう抵抗してる鈴坂の気持ちがこもった言葉だった。