無限の現代神話
□二十話
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【前回のあらすじ】
共犯になる宗近とかなた。
魔女の交流会が迫っている中、不意に魔女の居場所を教えてしまう宗近。
***
【中学生編】
午後のオセアノスの資料館。
夕という名の少女は二、三冊の本を抱えて資料館の中を見て回っていた。
オセアノスの資料館は図書館の役割もあり、文庫本や絵本までもあった。膨大な数の本を詰めた本棚がたくさん並んでいる。
夕は本棚を眺めながら惹かれる本を探していた。すると急に夕の体は横から何者かに押されて倒れる。
「きゃっ」
抱えていた本が床に落ちる。
夕は床に手をつき顔を上げると、そこにはいつも夕に突っかかっている西野の姿があった。
「いったーい。何するのよ夕ちゃん」
西野は腕を組んで夕を見下ろした。
「ぶ、ぶつかってきたのは…西野さんでしょ」
夕はどもりながらおどおどしている。
「ふーん…この私に向かって口答えするんだ。アンタさ」
西野は何かを言いかけるが夕が落とした本を見てニヤリと笑った。
「へぇ。こんなの信じてるんだ」
西野は本を拾いあげる。
それはラプンツェルの絵本だった。
「やっぱり…自分のこと、童話のお姫様みたいって思ってるんでしょ?それでいつか王子様が連れ出してくれるって思ってるでしょ?違う?」
純粋な面の夕にはそんな憧れが密かにあるのは事実だった。
夕は居づらそうに目を泳がせた。
「いい?教えてあげる。王子様なんていないのよ」
西野は絵本を床に叩きつける。
「大体…もう中学生なんだから、こんなおとぎ話信じないのっ」
そして絵本を踏みつけた。
「あっ…」
夕は一瞬本に手を伸ばすが戻してしまう。
弱弱しい夕の姿に西野は苛ついた。今度は夕の三つ編みを掴み、乱暴に引っ張り上げた。
「痛い!」
「親無し!捨て子!化け物!一丁前に女っぽくなって!なに色気づいてんのよ!三つ編みなんかしちゃってさ!こんなの任務の邪魔でしょ!親に捨てられたくせに!売られたくせに!」
西野が夕の耳元で罵る。
すると夕は突然何かが切れたように西野に飛び掛かった。
しかし西野は押し倒されても罵ることをやめない。
「生意気!死んでしまえ!あんたなんか!」
ヒステリックな表情をして叫び続けた。
「アンタが死ね!」
夕は西野の細い首に手をかけ、思い切り力を込める。西野は夕の手に自分の手を重ね抵抗するが夕は体重をかけて首を押しつぶすようにして締めた。
西野は最初のうちは足をばたつかせて抵抗していたがやがて体の力が入らなくなっていった。
「哀れ…。抑えられない…のね…」
西野は顔を苦しさに歪ませて最後に呟く。
彼女の歪めた表情が虚ろになっていった。
グシャっと音がして西野は力尽きた。
そのあと微かにウーンと機械の唸りが聞こえたことに夕は違和感を感じた。
元の静けさを取り戻した資料館で夕は興奮した体を鎮める。何回か呼吸を繰り返すうちに落ち着きを取り戻す。
夕は立ち上がり、息をしていない西野を見下ろした。次に夕は自分の手を見る。少し震えている。頭を抱え小さく喘ぐと冷めたような夕の目は臆病な目に切り替わる。
臆病な夕は目の前に倒れている西野を見て小さく悲鳴を上げた。あたりをキョロキョロと見渡して夕は慌てて資料館から逃げるように飛び出していった。