無限の現代神話

□二十一話
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*


翌日。
高島は当たり前のようにいつもの朝を迎えた。
そしていつものように支度をして、いつもの通学路を通って登校した。
不思議なもので前日にあんなことがあったというのに景色は何の変化もないし朝ごはんの味も変わらなかった。周りの人間ももちろん。通行人やクラスメイトも全く変わらない様子でいる。
そんな中に高島も、外見では変わらない様子で歩いていた。自分の中では大きな変化があったというのに周りは変わらないことに何とも言えない違和感と不満があった。

いつものように教室へ入ると昨日高島に万引きを命令をした少年が高島の机の上に座っていた。
少年は登校してきた高島を見るなり笑いながら机から降りた。

「お前あの後どうだった?」

少年はそう言って近づく。高島はいつも通り相手のつま先だけ見つめて俯いた。

「大したことなかったろ」

少年の取り巻きたちが高島を囲む。

「あの店で万引きした奴らは全員お咎めなしで出てこれたって言ってるし。お前もそうだろ」

あれが、大したことない?お咎めなし?
あの事を秘密にしたくて、誰も何も本当のことを言わないだけだ。
誰かにあの事を言えるわけがない。

昨日の記憶がにわかに蘇る。
体が強張って息が苦しくなった。

少年は返事をしない高島の肩を掴んで揺さぶった。

「おい!聞いてんのか!」

「さ、触るなぁ!」

高島は肩に触れた少年の腕を振り払い珍しく大声を出した。
教室はシンと静かになり、皆が注目する。
突然の拒絶に少年も固まっていた。

「…は?お前今なんつった?」

「え、いや、違っ」

高島は言い訳を考えるが間に合わなかった。
次の瞬間には取り巻きたちに掴みかかられ、押されて教室の床に倒れ込んだ。
何人もの手が高島の髪や服を引っ張る。
そのうちの一人が高島のズボンに手を掛け引っ張った。

「手足押さえろ」

一人が言うと取り巻きはそれぞれ高島の手足を押さえた。これでは抵抗しても無駄だ。

「脱がせ」

高島に腕を振り払われた少年は皆にそう命令した。
やめろ。やめてくれ。
高島は抵抗するも自由がなくあっという間にズボンを下された。
嫌だ。嫌だよ。
いよいよ下着も勢いよく引っ張られ露になった。

「きゃー」

「ちっさーい」

激しい悲鳴や嘲笑が聞こえる。
露になった下半身が冷たいほど寒く感じて全身が痙攣するように小刻みに震えている。

「えう…えっ…えっ…」

唇も震えて上手く言葉が発せられない。
蛍光灯の明かりが眩しくて吐き気がした。
昨日の非現実と今教室で下半身を露にして仰向けになっている非現実。

「誰か携帯持ってねえ?写真とって拡散してやる」

写真。写真。写真。
フラッシュ。フラッシュ。フラッシュ。
その時高島はあの閃光に突然襲われた。

「うわああああああ!!!」

それは幻影だった。
しかし高島にはそれがフラッシュバックなのか現実なのか区別がつかなかった。
彼の悲鳴に教室はまた水を打ったようになった。
彼にしてはあまりに大きすぎる悲鳴に皆驚いたのだ。

「…大袈裟だな」

少々焦りつつも誰かが言う。

「先公来るだろうが馬鹿!」

高島の手を押さえていた生徒が頭を殴りつける。
高島は震えている。その目には涙が滲んでいた。

「皆やりすぎだよ!もうやめようよ!」

見兼ねた女子生徒の一人が立ち上がった。
彼女はこの教室では学級委員という立場にあった。名は南。基本は傍観している彼女が声を上げたことに皆が注目する。

「は?なんだよ。お前いい子ぶんなよ」

この教室の主導権を握っている少年が学級委員に詰め寄る。二人は睨み合うが、次に起こった悲鳴で離される。

「きゃー!」

「うわっ」

高島を取り囲んでいた生徒たちが一斉に逃げるように彼から離れた。
高島は横になったまま床に吐瀉物をまき散らしてしまっていた。
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