無限の現代神話
□二十三話
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【前回のあらすじ】
花園は実弾訓練を受け、外の世界に触れて異形者を倒すことに快感を見出した。
宗近は罪悪感から陽菜子の唇に触れられず、意気地なしと罵られてしまう。一部始終を見た叔母の麻衣子は陽菜子を諭して二人の馴れ初めを聞いた。
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【過去編(中学編)】
「教えてほしいな」
叔母の麻衣子が柔らかな優しい笑顔で陽菜子の顔を覗き込む。
陽菜子は、叔母さんになら、と口を開いた。
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*
「転校生を紹介します。彼女は今までアメリカに住んでいたそうです。皆仲良くしてあげてね」
三十名ほどの小学三年生の生徒を受け持つ担任は転校生を教室に招き入れた。
事前に転校生が来ることは知っていたもののクラス内は本人の登場に騒がしくなる。
好野陽菜子。
教室に堂々とした足取りで入ってきた少女は海外育ちといえど肌は白く、真っ直ぐな黒髪の持ち主だった。
デニムのショートパンツとフード付きのトップスは皆に活発な印象を与えた。
陽菜子は転校生にしてはとても堂々とした様子でいる。
見知らぬ子供たちの前に立たされても緊張など一ミリもしていない顔で自信に満ち溢れていた。
*
一時間目を終えて短い休憩時間に入ると生徒たちは男女問わず陽菜子の周りに集まった。
転校生である彼女は当然注目の的で本人もその優越感に浸って心地よくなっている。
英語でしゃべってみてとリクエストされて得意げに答えてみせたり質問攻めにあうが仕方ないなという顔で内心喜んでいるようだった。
そしてあっという間に休憩の時間は終わり、また授業が始まる。
一時間経てばまた休憩時間に入るのだが今度は皆大急ぎで教室を出ていく。
てっきりまた囲まれるものだと思ってた陽菜子がキョトンとしている、中男子たちはロッカーに入っていたボールを一つ持ってすごい勢いで教室を飛び出していく。
黒板横の予定表を見るとまだ教室での授業があることがわかるというのに皆どこへ行くのだと陽菜子は戸惑いつつとりあえず席を立った。
そこで背後から何者かに肩を軽く叩かれ振り返る。
「これから二十分休みの時間なんだよ」
肩を叩いたであろう女子とその後ろに彼女の友達らしき女子が三人が立っている。
彼女たちによると2時間目の後は二十分、クラスで決められた遊びを皆でするという。
遊びというのは日替わりでドッジボールだったり鬼ごっこだったりするらしい。
「ドッジボール…わかる?」
「わかるわよ。それくらい」
クラスメイトの問いに陽菜子は生意気に威張って答えた。
そんな強気な彼女に女子たちは顔を見合わせたがアメリカ育ちの子は個性的でハッキリしているものなのだろうと妙に納得した。
陽菜子がアメリカの小学校ではドッジボールは危険と判断され禁止されていたが、ルールは知っていることを得意げに伝えると女子たちはきゃあきゃあとはしゃぎながら彼女の手を取り、半ば強引に昇降口へと走り出した。
グラウンドへ出るとクラスメイトたちは運動場にうっすら見える線を頼りに一つのコートを陣取っていた。
予め席順でチームが決まっているらしく、陽菜子たちは自然に片方のコートの中へ入る。
まだゲームは始まっていなく、今まさに男子が先攻を賭けてのじゃんけんをするところだった。
「ね、見てみて。向こうのチーム」
陽菜子をグラウンドへ連れ出した女子たちは陽菜子を囲んでこっそりとある人物を指さした。
「蒼刃くんだよ」
皆がさす少年、蒼刃宗近は代表してじゃんけんをするようにと周りに背を押されてコートの真ん中へと導かれた。彼は困った顔をしながら満更でもない様子だ。
その様子でわかる。女子からも男子からも人気みたいだ。
「蒼刃くんはじゃんけん強いから向こうが先攻とるよ」
そう言って女子たちはじゃんけんを見守る。
「ほら!」
結果は予想通り。
向こうチームはグーを出し、陽菜子たちのチームはチョキを出した。
女子たちは先攻をとられたというのに嬉しそうにきゃあきゃあ騒ぐ。
―転校生の私よりちやほやされてる…。
陽菜子は騒ぐ女子たちの中心で突っ立って不満そうに腕を組んだ。
「かっこいいでしょ。モテモテなんだよ」
興奮した様子の女子たちは陽菜子に共感を求める。
彼女たちに比べ冷めた表情をしている陽菜子は。
「別に」
と冷たく吐き捨てた。
意地を張っているようにも見える彼女の姿に女子たちはまた顔を見合わせた。
すると向こうのチームから一つのボールが投げ込まれた。