無限の現代神話

□二十三話
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女子は狭いコートで端の方に集まって固まり、男子は積極的にボールを取って相手チームに当てていく。
両チームとも女子から外野へ追い出されていった。狭いコートから人が出ていくと逃げやすくなり、ドッジボールはここからが本番だと言える。

「好野さん頑張ってー!」

外野から応援が届く。
いつの間にかコートに残っている女子は陽菜子のみとなっていた。男子に混じってボールを取り、相手チームに積極的に当てている。陽菜子のボールは男子たちの力強いボールに負けていなかった。
外野の応援は盛り上がりを増し、内野はたちまち人数が少なくなり、あっという間に陽菜子と宗近だけがコートに残ることとなった。
内野では一対一の戦いに外野の応援は熱くなる。
宗近は外野と連携して素早くボールを投げるのでクラスメイトと今日会ったばかりの陽菜子はなかなか味方の外野からのボールはとれない。下手に宗近のボールを受け止めればアウトのリスクがあった。
素早いボールはなかなか拾えず、見送るばかりになった頃、焦る陽菜子の体感ではもうすでに休憩時間は終わっているはずだった。
陽菜子はこうなったらどんなボールも必ず受け止め投げ返すと覚悟を決め、次に投げられた宗近のボールを両手で抱えるように受け止める。そして宗近目掛けて力いっぱい投げ返した。

しかし、ここで終了のベルが鳴り響いた。
最後に投げたボールも宗近にしっかり受け止められてしまった。

―嘘。私の最後のボールが。

陽菜子は小さな敗北感とすっきりしない感情に襲われる。
負けず嫌いの気に支配された。

生徒たちが遊びを切り上げて音楽とともに吸い込まれるように校舎へ戻っていく中、陽菜子は一人取り残されて違う世界を彷徨う。
悔しさに立ち尽くす陽菜子を宗近は良い勝負だったという清々しい表情で彼女に話しかけようと歩み寄ろうとしたがすぐにクラスメイトに囲まれて授業が始まるからと昇降口へと急かされ陽菜子に声を掛けることはなかった。
陽菜子はそんな彼に微笑むこともせず、人の波の中で立ち尽くす。

「いたいた!」

「授業すぐ始まっちゃうから行こう!」

グラウンドに連れ出されたときと同じように陽菜子は女子たちに手を引かれた。

「好野さんすごかったねー!」

驚異的な運動神経の良さを披露した陽菜子は賞賛される。
今度の陽菜子は威張りもしないし当然謙遜もしない。不満そうな表情の彼女を見て女子たちはまた顔を見合わせる。
その間で陽菜子の宗近への対抗心が静かに燃えていた。


それから陽菜子は周りに勝利への強い執着心を見せつけた。
遊びの時間はもちろん体育の授業でもその執着を見せつけ続けた。
事あるごとに宗近をライバル視し、強引に勝負を仕掛けた。
勝負は常に引き分けか陽菜子の勝利のみで彼女は一度も負けなかった。
それに対し宗近は勝負の日々に戸惑いつつも嫌な顔一つせず快く相手をしていた。負けたとしても悔しがるそぶりも見せない。そんな彼に納得できず陽菜子は勝負を仕掛け続けた。


*


―私の勝ち。
今回も勝ち誇った顔で勝利宣言。をするはずだった。
しかし今回は違った。
陽菜子が転校してから大分経ち、季節は真冬へ。
二時間目の後の二十分休憩は雪が降る中の鬼ごっこだった。

―今回もこのまま勝ち逃げよ!
と陽菜子は気分よく走り終えるところだった。時間も迫り、ほぼ全員鬼に変わっているので遊びは終盤。このまま逃げ切れば陽菜子の一人勝ちのはずだった。
周りを警戒しつつ減速して一足早く優越感に浸る。
そろそろ終了のベルが鳴るはず、と思った瞬間。こちらへ走ってくる足音が後ろから聞こえた。まずいと思って振り向くと同時に肩に触れられる。
肩に触れた少年は宗近だった。
彼の顔を認識した陽菜子は固まってしまう。

「そんな」

脱力して魂が抜けるほど酷く落ち込んだ。
当然勝利宣言もできず、肩を落とす。
そんな彼女を宗近は不思議そうに見るが、終了のベルが鳴ってクラスメイトたちと楽しそうに校舎へ戻っていった。

負けを受け入れられない陽菜子はもうその日を静かに過ごした。学校が終わると教科書がたくさん入った重いランドセルを背負って俯き加減にトボトボと家へ向かった。
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