外伝

□外伝 風の書
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家と家の間の細い道を三つ編みの少女が歩く。
淡いピンクのワンピースを身にまとい、周りを警戒している。
周りは閑静な住宅街でこの細い道は家から飛び出した木々の葉でトンネルのようになっていた。
とても人目につかない。少女には絶好の隠れ家への道だった。時刻も夕方となり、暗くなっていた。

彼女の名は花園。周囲に誰もいないことを確認すると彼女は背の高い塀に手をかけた。
塀を越えて誰かの庭へ侵入する。
庭は雑草が生い茂り、蛇口に繋がったままの汚れたホースや濁った雨水が溜まったバケツがそのまま置いてあった。
花園は目の前にあるベランダの窓を開けて家に侵入する。といってもこの家にはもう誰も住んでいなかった。所謂夜逃げをした家族の家だった。
ソファや家族写真やテレビなど埃をかぶった残留物の横を通り、二階へ上がる。
埃と蒸し暑さでとてもいい環境とは言えない。けれど夕にはここしか居場所がなかった。

花園は二階に上がり、突き当りの部屋のドアを開ける。
中は勉強机と白い小さな本棚とピンクのカーテンがあるフローリング部屋だった。勉強机の隣の小さな本棚には少女漫画が入っている。
花園は開いたままの小さな窓の下に座り込んだ。
三つ編みを解いて床に転がっている手鏡と櫛を手に取り髪を整え始める。鏡に映る痩せた顔、傷んだ髪。次に長い髪で三つ編みをつくりなおし、鏡で確認する。伸びた前髪をハサミで切る。再び鏡を見る。
床に転がっている口紅を手に取り、鏡を見ながら薄いピンク色を唇に塗った。
何度も鏡で自分の顔を眺めた。
床に転がったポラロイドカメラを手に取り、夕は自撮りをした。花園はすぐに出てきた写真を確認せず床に投げるように置いた。

ふと外から誰かが話す声が聞こえる。
どうやら異形者鎮圧部隊の学生たちが作戦を話し合う声らしかった。
花園はそろそろかと立ち上がり、部屋の隅に置いていた汚れたチェーンソーを手に取った。
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