外伝

□外伝 風の書
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*


夜風に乗って誰かの歌が聞こえる。
しかしそれはただ静かに通り過ぎて振り返ることなく悲しみの中に消えていった。
俺には関係のないことだ。そう考えながら無関心に夜の道を行くが…。
異変に気付いた。
遠くで聞こえていた銃声が止み、誰かの悲鳴を境に静かになった。
振り返って悲鳴がした方角を見る。
心地よいとは言えない静寂の中に寒すぎる風が吹いた。
腰に携えた刀に手を添えて足早に現場へ向かった。


*


三人の若いオセアノス隊員は玉切れの武器を地面に投げ捨てて頭を抱えた。

「お、おい!こんなに囲まれて!どうする!」

「それを今考えてるんじゃない!」

「考える時間なんてない!」

三人は後退りをした。
目の前には数体の異形者。逃げ道を塞ぐように彼らの前に迫っている。
彼らが諦めを覚えた時、異形者のうちの一体の体から体液が飛び出した。体液は飛び散って三人の体や顔に飛び散る。
後ろから何かに貫かれた異形者の体は内側から上半身と下半身に分かれるように裂け、そのすぐそばにいた異形者は脇腹から裂けるように上半身と下半身が分かれ、肉塊となって地面に転がる。
この光景に三人が呆気に取られている間にも何者かが素早く戦場を駆け、異形者を内部から破裂させるように裂いていった。
あまりにも異形者の体液が飛び散るので三人は目を閉じて顔をそむけた。その場が静寂に包まれたあと三人は服の袖で顔を拭い、辺りを見た。
三人はそこで初めて救世主の後ろ姿を見た。
強い妖力を纏わせて触手のように動く三つ編みの髪。それは蛇のようにうねっているように見えた。
膨大な妖力を持っているだろう彼女は彼らに背を向けたまま振り向かない。

「君!ありがとう!」

オセアノス隊員の一人が彼女に声を掛ける。
だがもう一人の隊員は何かに気づいて声を上げた。

「だめだ!離れろ!そいつは…!」

花園は地面に落ちている銃を拾い、振り返る。そして隊員の一人の額に銃口を向けた。
そのまま固まる隊員の一人に対して何の躊躇いもなく引き金を引く。
しかし幸運なことに玉切れであり、銃口から玉が飛び出すことはなかった。
一瞬の間があって三人はその場から逃げだした。

「うわああああ」

「きゃああああ」

彼らは彼女の見覚えある容姿と異常行動で彼女が何者なのかを思い出したのだ。

隊員は恐れをなして逃げていった。
異形者の裂けた体や体液で散らかった地面に花園は銃を落とした。
血だまりに落ちた銃は沈んで血の色に染まる。

その様をじっと見ていた花園は後ろから何者かに右腕をとても鋭く太い爪で引っかかれた。
激痛に声を出し、振り返る。
そこには異形者の群れが迫っていた。
傷口を押さえる手がどんどん血に染まっていく。感覚で考えると傷はそこそこに深い。
この腕では武器は持てない。
花園はこの状況に後退った。しかし彼女の足は先ほど落とした銃を踏み、バランスを崩してアスファルトに尻餅をついてしまう。
絶体絶命といえる状況に意識が遠くなる感覚を覚える。
視界の上で輝く街灯の光が徐々に広がって眩しさに目を細めた。

光の中で漂う異形者の影。
その影たちはゆっくりと迫ってくる。
これから襲うであろう痛みや恐怖から逃れるために体は意識を手放そうとしていた時。それは訪れた。

颯爽と現れた誰かが魔物を溶かすように倒していく。
光に包まれぼんやりとした視界で魔物が倒れていく様が見えていた。
誰かが振りかざす刃が月夜に光っている。
やがて辺りは静かになりその一人の影だけが光の中に残り、こちらに近づいてくる。
その影がしゃがんでこちらの顔を覗くところで花園の意識は遠くへ飛ばされた。
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