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□僕等が消えた夏
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「セフナ、重くない?」

「うん、大丈夫ですよ。寧ろ軽すぎて心配。」


いつものように、彼を背負い、島の細い小道を歩いていく。
すると、見えるのは島に1つしかない小さな小さな病院。この間、できたばかりの。
市内の有名な医者が定期的にこの島に来ていたが、島が気に入ったらしく、この島に住み込みで医療を続けていくらしい。


「... いつもごめんね。」

「うん、大丈夫だから... 」


病院の前に着くと、ゆっくり彼を下ろした。
あの日以来不自由になってしまった足を引きずりながらその姿は病室へと消えた。


病室の前で降ろそうか?と彼に聞いたことがあった。
だけど、彼は首を横に振り、少しでも自分で歩きたい、と僕に向かって真っ直ぐに言うものだからその目に圧倒されてしぶしぶ承諾した。
だって、本当は心配で心配でたまらないのだから。一人で歩くのにはリスクが大きすぎるのだから。


彼はいつも事あるごとに「ごめんね」という。
彼に謝れられるのは慣れた。いつも遠慮したような顔で申し訳なさそうに謝る彼を見て、心が痛くなる。

彼は殆ど笑わなくなった。彼は美人で、誰よりも綺麗で、微笑んだ顔だって麗しかった。
なのに彼から笑顔が消えたのは、あの事件があってからだ。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「何ですか、これ」

「見たらわかるでしょ?ソウル行きのチケット」


僕たちは、生まれて此の方この島から出たことがなかった。
だから、僕たちの中の"常識"は、全てこの島の中で学んだことだった。

いつかは、島を出て島以外の景色を見て見たいとは思っていたけれど、まさか、今だなんて。


「これ、いつ行くんですか?」

「夏休み中だよ、僕たち5人で」

「夏休み...」

「まあ、まだ時間あるしゆっくり考えて」


そうやってにっこり笑うとこっちまで自然と笑みがこぼれる。

こんないい機会が設けられるだなんて。
正直、行きたい。大事な、大好きなヒョンたちと、一緒に行きたい。


「ルハニヒョン」

「ん?」

「この話、したの何人目ですか?」


単純に知りたかった。僕のこと、何番目に考えてくれたのかなって。
すると、また微笑んで言うんだ。


「セフナが一番!」


僕に初めに言ってくれたのだって、どうでもいい事で、彼にとったら何ともないことだったかもしれない。
でも僕にとってそれは、その一言は、僕の心をぽかぽかにしたんだ。


その時の僕は、それが何か。あまり分かっていなかった。






それから普通に日々が過ぎていって、あっという間に夏休みに入っていった。

僕が通っている中学は隣の島にあるもので、僕の島に同い年の人はいない。

だから、余計みんなが気遣っているような気がした。

そんな中、いつも僕を励ましてくれるのは決まってベッキョニヒョンだった。


「セフナーーー!」

「あ、ベッキョニヒョン」


腕をブンブンと振り、ニコニコ顔で僕の方へとスキップしながら来たこのヒョン。
年は2歳離れているけど、この島では同い年がいないから、年齢を気にしなくなった。

僕の方へと来たヒョンがゆっくりと僕が座っていたベンチへと腰掛ける。

今日はどんな話をしてくれるのだろう。
今日はどんなふうに笑わせてくれるのだろう、と内心いつもベッキョニヒョンとの会話は楽しみだった。


「なあなあ」

「はい?」

「あの話ルハニヒョンから聞いた?」


あの話...言われなくてもなんとなくわかった。
ベッキョニヒョンの方を見ると、言うか、言わないか迷っている。そんな顔をしていた。


「お前さ、まだ中学生じゃん?だから、セフナんとこの親御さんが行かせたくないって話聞いてた?」


なんだ、その話...そんなこと母さんは一言もっ、


「なんで、お前がこの話知らないかわかる?」
「ルハニヒョンがお前の親御さんを説得させたからだよ」

「え?」


それからゆっくり、ゆっくりと話し始めた。


「これは、多分だけど、」
「セフナにこの話をした後、ルハニヒョンが親御さんとこ行ったんだと思う。」

「俺、高校から帰って行く途中に見て…たまたま見たんだけど、必死に頭下げてたよ」


『今じゃないとダメなんです』
『あの子は、まだ中学生だから、島以外のことに触れて、いろんなことを知って欲しいんです』
『なにかあった時は僕が責任を取ります、だからっ』
『セフン君を5日間だけ貸して欲しいんです』


「必死だったよ、とにかく必死だった」
「だから、お前は本当にルハニヒョンに感謝しろよ」
「あのチケットを村長さんにタダで貰えたのだってルハニヒョンのおかげなんだから」


そう言って僕の頭をグシャッと撫でると、とっとと姿を消した。

あんなに真剣なベッキョニヒョンを見たのは初めてだった。


ルハニヒョン、僕の為に、頭下げてたなんて...

でもどうして僕の為にそこまで...
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