-Short Story-
□さくらのはなびら
2ページ/7ページ
当時俺がまだ入院してた時 ……
あの人とよく行った病院の屋上。
病院の屋上から桜並木の花びらは飛んできやすい。だからか、屋上も少しだけピンク色をしていた。
看護師さんたちが迷惑そうに掃除をしていた。
『 こんなに汚れてたら掃除やになっちゃうわ〜! 』
びゅうっ
その時、風がひゅっ、と音を立てて吹き、辺りを撒き散らした。
サクラの花びらが散乱する。
ふわっ
俺の頭にサクラの花が優しく落ちてきた。
花の匂いが香る。俺はこの匂いが本当に嫌いだった。
「 あの人の香りがする…… 」
花の香りはいつだって、あの時のことを思い出す。だから花はあまり好きではない方だ。
だけど、花は本当に綺麗だ。そして、とても儚い。
まるで、俺の元を離れた、あの人のように。
この、花特有の甘い香りに何度も酔いそうになった。
まるで、あの人に溺れるかのように。
“ 花占いしよーよ!ね!”
“すきーっ、きらいっ、すきーっ!すきだって! ”
“ 君のことがすきだって ”
“ 名前、教えて?”
ちょっと子供っぽいけど俺より年上のあなた。
あなたのことを考えるだけで胸が痛い。
お願いだから、もう出てこないで、俺の記憶から消えて。
本心だというのに、どうしてこんなにも心が虚しいのだろうか。
こんな感情を抱くこと自体、今の俺にとっては駄目なことなんだろう。感情を持っていては前に進めない。
俺のせいで死んじゃったあの人のために。
屋上の端から桜並木を見下ろす。ここの柵の鉄パイプは本当に錆び臭い、なんてつまんないことも思いつつ。
あれから桜並木を見ていると、いろんな事を思い出してしまって………
屋上の鉄錆の柵を持っていた俺の握り拳に何かが濡れた。
「 俺にはっ、泣く資格も無いのに…っつ、! 」
元々あの人の寿命は短かったらしい。でも、俺はそれを早めてしまった。
“ 死ぬのが怖い … ”
“ まだ生きたいよ … ”
あんなに生きたがっていたあの人の命を奪ってしまったのだから。
俺にはあなたの名前を言う資格もない。