黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第9夜
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出航の朝、リナリーは教団に連絡するため私たちと別れた。
他のエクソシストは出航の最終準備を手伝う。
アレンは見張りのためにマストのトップに登っていた。
とても静かなマスト…それはアレンの頭にいろいろな考えを巡らせた。

「ティムキャンピー…この海の先に師匠がいるのか?」

ゴーレムであるティムキャンピーが返事をするわけがない。
しかしティムキャンピーはただ海の向こうを見つめていた。主の姿を求めて…
そんなティムキャンピーにアレンは物憂げに微笑んだ。

「できればあの国には行きたくなかったのになぁ…バカ師匠。
少しはアヤのことも考えてあげてくださいよ…」

頭に浮かんだ師匠の悪そうな顔に文句を言い、銀灰色の目を青い海と空に向けた。

「これで死んでたりしたら恨みますよ。」
『同感…』

私は彼の横に立っていた。

「アヤ!!いつの間に!?」
『さぁ、いつからでしょう?』

とぼけて答えた私とアレンはマストに座る。

「大丈夫?」
『うん、私やっぱり日本が怖いけどアレンくんが一緒なら大丈夫だと思う。』

風になびく髪を押さえながら言う。

『昨日はありがとう…』
「…?」
『日本にもいい思い出があるって。』
「あぁ、あれのこと…でも、事実でしょ?」
『私忘れてたの。2人を破壊した夜の記憶が大きすぎて…』
「そっか。」

私はアレンに手を伸ばした。
私の右手とアレンの左手が絡み合う。
これだけのことがどれほど安心させてくれることか。
こうやって3年間、2人で歩いてきた。
小さな体に背負いこむにはあまりにもツラ過ぎる血塗られた道を。
今は大切な仲間たちと共に…
そしてふと笑みを零したその時…私達の目が反応した。
同時に立ちあがると海の向こうに目を向ける。
その間も手は繋がれたまま。

『アクマ!?』
「まだ遠い。どこから…!?」
『アレンくん、あれ!!』

私たちの目が映したのは青い空に広がる一筋の黒い雲。
それは肉眼でも確認できるもの。
でも雲ではなかった。アクマの大群だ…

「みんな!!アクマが来ます!!」

アレンの声が港に木霊した。

「何て数なの!!!」

アニタが驚愕の声をあげる。

「オレらの足止めか!?」

ラビが忌々しげに歯をギリっと鳴らすが、マストにいる私は彼の言葉に眉根をよせた。

―それにしては数が多すぎる…それに早く到着しすぎだ…!―

まだ出航していないのに襲撃してくるアクマたち。それは不自然なこと。

「迎撃用意!総員、武器を持て!!」

マホジャの声が響く。
それが始まりを告げる鐘の音となった。
船上のエクソシストが一斉に神の力を解放する。

イノセンス発動!!!

それによって私とアレンの手も離れる。
私とアレンの砲撃、ラビの火判を喰らったアクマは壊れる。
しかしまったく気にせずアクマの大群は進んで行った。

「「「『!』」」」
「何だ…?」
「何やってんだ、こいつら…船を通り越してくさ…!?」

アレンが顔をしかめる。

「どうして…」

その時アクマの声がノイズの中から聞こえた。

[咎落ちのイノセンスを奪え!]
『…えっ?咎…落ち…?』

その言葉の意味を私は知っている。

―でもどういうこと?―

考えることに集中し、放心状態にあった私。
そんな私をアレンが突然呼んだ。

「アヤっ!!」

我に返った瞬間、私の体に衝撃が走る。
それによって私の体は宙に投げだされた。
落ちていく私が見たのは、私を乱暴に突き飛ばした大切な人の右手と揺れる白髪…

―アレンくん…?―

彼に必死に手を伸ばすが、届くことなく彼の手は横に流れて行った。
アクマがアレンの細身の体を捕えたのだ。私を庇って…
そのまま私は落ちて行った。
甲板へと叩きつけられるはずの私の体をラビが受け止めた。

「大丈夫か、アヤ。」
『ラビっ!アレンくんが!!』
「わーってるさ。」

彼が伸でアレンを追おうとした瞬間、アクマに私たちの存在がバレた。

[エクソシストがいるぞ!]
[あっ、スゲ!人間がいるぞ〜!!]
『ヤバい!』
「チッ…」

私や船上にいたエクソシストは戦闘態勢に入る。
アニタがタリズマン(結界装置)でLv.2のアクマから身を守っている。
マホジャも参戦している。
しかしあの装置が長くもつはずがない。
私はすぐ彼女たちの所へ走った。

[死ね人間ーっ!!]
『そうはさせない!!』

破られた結界の破片と深紅の液体が宙を舞った。
しかしそれは私のもの。

『アニタさん、マホジャさん…逃げて…』

私は右手でアクマを破壊し、それだけで受け止められなかった攻撃を左手に受けていた。
痛々しい左腕にはアクマが放った刃が無数に刺さっている。
2人が逃げたのを確認して私はアクマを破壊し始めた。

『痛てぇんだよ!いい加減にしろ!!』

頭に浮かぶのはアレンの右手。早く行かなくては…

『アレン…お前ら邪魔をするな!!!』

今の私に出来るのはひたすら目の前の敵を倒すことだった。
その頃アレンは左足をアクマに掴まれ、空を飛んでいた。

―早くアヤの所へ戻らないと…―

そしてアレンはアクマに向けて対アクマ武器の引き金を引いた。
連絡を取り終えたリナリーは空を見上げ、息を飲んだ。

「なんて大群…一体どこへ…!?」

そこにティムキャンピーが現れ、空を指差す。
そこにいるのは…

アレンはアクマを撃ち、左足は解放された。
しかしまた別のアクマに捕まる。

―くそっ―

すると突然、アレンを捕えていたアクマが破壊された。
そこに現れたのはしなやかな肢体。リナリーだ。

「アレンくん…っ!」

差し出された手を取り落下する2人。
仲間と合流できたことに安堵の表情を互いに向ける。
その時、近くで大きな爆発が起きた。
そして現れた白い化物。

[出たぞぉ!!]

アクマたちが雄たけびをあげる。
彼らの目的はその化物らしい。
白い化物は人間の頭と腕を取り除いた、上半身だけのような禍々しい姿。

「何だあれ…」

呟くアレンとは裏腹に言葉を失うリナリー。

[いっけぇ!!!ブッ殺せやぁ!!!!]

アクマたちが吼えた。
そして化物に向かって何万ものアクマが一斉に突っ込んでいく。
大群はアレンやリナリーにも構わず突っ込んできた。

「あっ!」

アクマの群に飲まれ、アレンは思わずリナリーの手を離す。
リナリーは落ちていくアレンを追うべく、イノセンスを解放した。

イノセンス第2開放 “繋累(けいるい)”
音響の踏技“音枷”

その技は音により発生する空気の波動を地盤にし、音速を齎すもの。
彼女は空気の壁を思いっきり蹴り、アレンのもとまで風のように駆ける。
そしてアレンの手を取ると軽やかに地に足をついた。

「は、速いね、リナリー。ごめん、大丈夫だった?」
「うん。」

2人は互いの無事を確認すると再び白い化物に目を向けた。
それはアクマに攻撃されていた。

「まさかアクマたちはあの白いモノを狙ってきたのか…!?」

アクマたちの攻撃にとうとう化物はよろめき、大きな音を立てて近くの山に激突した。
ぶつかった山が崩れていく。
その圧倒的な力の質量に驚くよりも、リナリーの瞳は異なるものに対して大きく見開かれた。

「あれは…」

化物の心臓部に彼女の目はくぎ付けになっていた。
とても離れているのに、そこにある人影に彼女は気付いた。

「…スー…マン?」

消息不明になっているあのスーマン・ダークだとリナリーは確信した。
そして彼女の耳に聞こえた闇を這いずり回るような声。

マタ 咎落チダ…
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