黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第15夜
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私の手を離したアレンはラビと交代してリナリーの手を引く。

―…リナリーに妬く時がくるなんてね―

ラビの隣を歩きながら苦笑する。

「大丈夫さ、アヤ?」
『もう平気。傷は閉じたみたいだし。』
「そうか。」

ニコっと笑うラビ。
その笑顔には一点の曇りもなかった。
私たちの前にはアレンに手を引かれて歩くリナリーの姿。
痛む足を庇うようにゆっくり歩く。
後を追った私とアレンもすぐに合流できたほどだ。
必死に足を進める彼女の姿は健気…というより、私たちまでもどかしく苦しく感じさせる。
アレンやラビが心配しておぶると言ったが、リナリーはそれを断っていた。

『大丈夫?』
「うん…」

笑顔を浮かべる彼女は痛々しい。

『余計なことは考えたらダメよ?』

一瞬ぽかんとした彼女だったが、次は心の底から微笑んだ。

「ありがとう、アヤ。」

リナリーは先程、最低な未来を考えてしまっていた。

仲間の死体
その前に立つ自分
血だらけの地面
みんなを巻き込んでしまった罪悪感
戦えない不安と無力感
お荷物でしかない自分への憎しみ

『心を強くもって。』
「…頑張らなきゃ。」
「「がんばる?」」

リナリーの呟きにアレンとラビが反応する。

「ち、違うの、考え事!
教団に帰ったらすぐ鍛練し直さなきゃって…」
「何真面目なこと考えてんさぁ!!?
オレ寝る!寝ますよ、そんなん!!」
『…コムイさんの言う通りだね。』
「そうだね。」
「もっと色気あること言わんと恋人出来ねェさ!!」

リナリーに向かって言ったラビの問題発言。
アレンの蹴りと私の殴りがラビの頭を捕らえる。
リナリーがラビの襟首を掴んで…

「ラビには関係ないでしょ!!」
「かッ関係は…ねェけどさ…」
「?」

ラビは話を振るように私たちに問う。

「ア、アレンとアヤは…帰ったら何すんさ?」

アレンはすかさず答えた。
力強く拳を握り、響く声で言う。

「食べます。ジェリーさんのありとあらゆる料理を全ッッッ部!!」
『その時は私も呼んでね、アレン。』
「もちろんっ!」

そこに噴き出すような声が聞こえてきた。
その声をたどるとチャオジーが笑っていた。
注目を集めていることに気付き、ハッ!!と固まる。
彼は柔らかい表情で謝る。

「なんか、今のエクソシスト様たち見てたら、オレらと同じ普通の人みたいで。」
『普通だよ、私たち。あなたたちと何ら変わりは無い。』
「神の使徒様なんて言うから、もっと人と違うこと考えてる人たちかと思ってたッス。
冗談言って笑ったりとか…ぜんぜん…無いのかと…ッッ」

そう言った彼の手は震えていた。
彼は普通の人。戦場に無関係だった人だ。
ノアとの戦いに巻き込まれて怖くないはずがない。
アレンは彼にゆっくり歩み寄ると、彼の震える手に自分の手を重ねた。
優しく笑いながら。

「あとひとつ…この先に待っているものを乗り越えれば、きっとホームに帰れますよ。」
『不安な時は楽しいことを考えましょ?』
「コムイさんからの受け売りだね。」

私たちの笑顔を嘲笑うように、レロが吐き捨てる。

「か〜〜〜〜ッ
こんな時に呑気レロねぇ、お前等ッ!」
「そんなことないよ、レロ。」

―名前で呼ばれたレロ!?―

『私たちがホームで一番したいことは、みんなでコムイさんたちに“ただいま”って言うことよ。』
「どんなに望みが薄くたって、何も確かなものが無くたって僕らは絶ッ対諦めない。」

そう言った彼の声は静かだったが、とても強く儚かった。
私はアレンの隣を再び次の扉に向かって歩き始める。
イノセンスを発動させて次の扉がある眩しい光に足を踏み入れる。

「怖い?」
『アレンが一緒なら大丈夫。』

彼の微笑みを見て彼の右手を握った。
光に呑まれる白い道化である私たちを見て、ラビは目を細める。

―眩しいくらい想いが強いな、アレン…アヤ…
お前らはその道化のイノセンスと一緒に何を背負ってきた…?―

ラビが記録していないところで私たちは変わった。
否、変わったというよりは、その純粋さに磨きがかかったと言った方が正しいのかもしれない。
ただ純粋すぎると言えるほどに強い想いは、いつしか闇に包まれる。

―まるで光のようで消えてしまいそうさ…―

光に向かって足を踏み入れた瞬間、目の前の豪華な扉が突然開いた。
まるで私たちが到着したのを知っていたかのように。
そこから飛び出してきた人影はアレンに抱きついた。

「アッ…レーン♡」
「ロード…ッ」
「キャッホォ〜♡」

驚きの声を上げるアレンに、ロードはなんと…キスをした。
唇をちゅうっと吸う感触にアレンの頭の中が真っ白になる。
フレンチキスにしては情熱的なキス。
彼は逃げたいと思いながらも身体が言うことを聞かなかった。
それを救ったのは2つの怒声だった。

「ロートたまぁーーッッ!!
エクソシストとなんてちゅーしちゃダメレロ!!」
『ロード!!アレンは私のよ!気安く触らないでッ!!』

ロードとアレンの間にレロが割り込み2人を離す。
アレンは私の言葉に笑みを零すが、私の怒りは治まらない。
そこに耳障りの良いテノールが聞こえてきた。

「ロード、なにお前…?少年のことそんなに好きだったの?
千年公以外とちゅーしてるとこ初めて見たぞ。」

そこ声を発した人物は貴族の屋敷でよく見かける長い食卓で食事中のティキ。

「ティッキーにはしなぁ〜い」
「それにお嬢ちゃんが少年とそういう関係だったとは…」
『貴方のお陰よ、ティキ。
あの死にかけた夜、お互いの大切さが分かったんだから。感謝するべきかしら?』
「どぅいたしまして。」

冗談に冗談で返すティキ。

「おいっ、アレン!」

放心状態のアレンを揺するラビ。
私はそんなアレンに近付き耳元で囁いた。

『酷いわ、アレン。ロードのキスの方が良かったの?』

その言葉で一瞬にして正気に戻った彼は謝罪し続けるが、慌て過ぎて言葉になっていない。

『冗談よ、アレン。』

彼にチュッと軽くキスをする。
すると彼は落ち着いたらしい。

「好きなのはアヤだけだよ。」
『知ってる。』
「ラブラブなとこ悪いケド今の状況分かってる?」

ティキがテーブルの反対側から声をかける。
料理を口に運ぶ手は止まらない。

『この状況にしたのは貴方の家族よ、ティキ。』
「それもそうだな。」

苦笑する彼はどこか楽しそう。

「まぁ、外見てみろよ。
イヤでも“現状”ってのが分かるはずだぜ?」
「絶景だよぉ」

ロードの言葉に私とアレンは同時に地面を蹴る。
そして部屋の端へと走ると、真っ白な景色が広がっていた。
自分たちがいる塔以外に建物は何もなかったのだ。

『まさか…残ってるのはこの塔だけ…?』
「あと1時間も無いかな。
ここ以外はすべて崩壊し消滅した。」

ティキの言葉に私の頭に神田の仏頂面とクロウリーの笑顔が浮かぶ。

『神田…クロウリー…』
「そんな…っ」

私たちの後ろで扉が閉じられる大きな音がした。
ロードが扉を蹴り鍵をかけたのだ。

「何を…!!」
「座りなよ。」
「座れよ、エクソシスト。」

無言で立ち尽くしているとティキが挑発するように言った。

「恐ろしいのか?」

アレンは俯いていた顔を上げ私の手を取った。

「…行こう」

彼の小さな声に従ってテーブルへと足を進める。
こうして最後の晩餐が始まった。
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