黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第17夜
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クロスの攻撃が次々にティキ・ミックの身体を襲う。

「ギカカカカ ガアアアアア」

ティキは奇声を発しながら弾を跳ね飛ばす。
その弾は軌道が外され近くの瓦礫に撃ちこまれた。

「弾丸の軌道をはずすのが精一杯か?でもどうだろうな…?
オレの弾丸はターゲットにブチ込まれるまで止まらない。」

瓦礫を破壊して再びティキの身体を貫いた。

『相変わらず一方的ね、マリアン…』

そんな様子を仲間たちは“聖母ノ加護”の中から見ていた。

「い…一方的…」
「オレらがどんなに攻撃してもビクともしなかったティキがあんな銃弾で…」

アレンは切ない顔で剣を腕に戻す。
クロスの隣にいる私は既に右腕の形状に戻している。

「ちょっとヘコむな…力の差がここまでハッキリ出ちまうと。
ノアも、クロス元帥も。オレらはまだまだ弱い…」

ラビの言葉に返せずにいると強い地震が襲った。

「!!?」
「そろそろか…」
「崩壊の時刻(じかん)…っ」

アレンはリナリーが転ばないよう手を貸しながら呼んだ。

「師匠ぉー!!」
『マリアン、時刻よ。』

私たちの前にはボロボロのティキ。

「急がないと間に合わねェな。」

クロスが最後の一撃とばかりに銃を構えた瞬間

ドッ

大きな爆発と共に目の前の地面が崩壊した。

「おっと!」
『マリアン!!』

私は転びそうになる彼の左手を握り彼を支える。
昔から仲が良かったマリアが私の肩に手を乗せて支えてくれる。
クロスが再び銃を構えると、目の前にティキを肩に乗せたあの男が剣を持って立っていた。
その剣は私たちのイノセンスと同じ形をした黒い剣。

「これはまた」
『…伯爵』

崩壊はアレンたちも襲い、ラビとチャオジーの下の地面が崩れた。
ラビはチャオジーの腕を掴みアレンは2人に向けて手を伸ばす。

「ラビ!!」
「伸!!」

伸びてきた槌をアレンが握り、一命を取り留め…というわけにはいかなかった。
アレンの手の中で槌は粉々に砕け、ラビたちは大量の瓦礫と共に落ちていったのだ。

「ちぇ…ティキにやられたんがきいちまったな。限界か…くそ…」

アレンはラビたちが落ちていくのを見つめたまま手を開いた。
パララと槌の欠片が零れる。

「ラビ…チャオジ…」

リナリーもアレンの後ろにしゃがみ込む。
アレンは仲間を目の前で失い叫んだ。

「わあああぁぁあああああ」

彼の叫びを聞いて、私はクロスの手を握る右手に力を込めた。

『アレン…?』

その時、頭に直接ラビの声が直接響いた。

「さよならだ、アヤ…」
『ラビ?』

その後、頭に流れ込んできた子守唄はアジア支部でLv.3のアクマと対立したときに聞いたものと同じだった。
この歌は綺麗だが、好きにはなれない。
何か悪いことの前兆のようだから。
アジア支部ではこの唄を聞いた後、イノセンスが復活した。
そして今私の頭に直接ラビの声が届いた。
この唄は私の始まりを奏でるのだろうか…?

「こんばんワ♡」
「よぉ、相変わらずパンパンだな、このデブ。」

クロスは銃を構えたまま言う。

「会うのは何年ぶりでしょうかネェ♡」
「さぁな。デブと会った日なんていちいち日記に記してない。」
「マ♡その言い方は我輩とよく会ってるように聞こえますネェ♡
隠れんぼ〜のクロスちゃあ〜ン♡
あなたも大変でしょウ、アヤ。そんな人が師匠だなんて♡」
『…否定できないわね。』
「そこのご婦人の小賢しい能力は我輩たちの目からあなたを隠してしまいますからねェ♡
借金取りからもそうやって逃げてるんでしょウ♡?」
「はっはっは」

私は彼らが話している間に伯爵の後ろから彼が乗っている瓦礫を右手の爪で破壊する。
そしてすぐにクロスの隣に並んだ。

『あなたのトロいしゃべりにつき合う気分じゃないわ。
私たちには時間がないの。』
「冷やかしならでていけ。」

別の瓦礫の上に着地しながら伯爵は微笑んだ。

「“でていけ”?これはこれは!ここは我輩の方舟ですが♡」
『捨てたんでしょ?』
「この方舟は江戸から飛び立つ翼を奪われたアヒル舟」

クロスの言葉に伯爵が反応する。

「“14番目”…
ノアを裏切った男の呪いがかかった日からな…」

伯爵はクロスを睨みながら恐ろしい笑みを浮かべた。

「やはり…貴方でしたカ♡
あの男“14番目”に資格を与えられた“奏者”ハ♡」

―?違う…昔マリアンはアレンを見て“奏者の資格”って言ったような…―

『昔マリアンが言ってたのはこのことだったの?』
「…」

返事がない。

「何をしに来たのです?
この舟を奪いに来たのなら遅すぎましたネェ♡
すでにこの舟の“心臓”は新しい方舟に渡りましタ♡
“心臓”がなくては舟は操れない奏者であっても何もできませン♡
愚かですねェ、クロス♡二度と出られないとも知らずニ…フフ♡」

遠くで伯爵の言葉を聞いていたアレンが強い殺気を放ち始める。
私はそれを微かに感じ振り返った。

『…アレン?』
「この方舟は最後にエクソシストの血を吸う柩となるのですヨ♡ホッホッホッホッ♡」

伯爵の笑いを私は睨みつける。
そこにリナリーの叫び声が届いた。

「アレンくん!!」

アレンが私とクロスの目の前に飛び出してきた。
彼の身体から大量の血が飛び散り神ノ道化の白いマントが紅く染まる。
左腕を変形させ剣にしながら彼は叫ぶ。

「ラビ…!チャオジ…クロウリー…神田…っ!」
『ダメよ、アレン!!!』

私の声も届かない。
彼の憎悪一色に染まった瞳は今までに見たことがなくとても怖かった。

「伯爵ぅぅぅ!!!」
「!」

伯爵だけでなくクロスも弟子の登場に驚いた。
そして仕方なくクロスは銃を下ろした。
アレンと伯爵の剣がぶつかり合う。

「我輩の剣…!?アヤの剣も同じですカ♡?」

伯爵の顔にアレンの血が零れる。
そして彼の目にアレンの憎悪に満ちた瞳が映った。

「“憎悪”…イイ瞳だ、アレン・ウォーカァ〜〜〜〜〜♡」

激しいぶつかり合いが続き、伯爵の力に押されたアレンの右腕に傷ができる。
その最中に伯爵はロードの扉に向かって落ちて行った。レロと共に。
それをアレンも追う。

「アレンくんっ」
『あのままじゃ、アレンも落ちるわ!マリアン!!』
「…手のかかるガキだ。」

そう言いながら彼は聖母ノ柩を発動させた。
するとマリアの歌声が響く。

“脳傀儡(カルテ・ガルテ)!!!”
対象者の脳を操る技だ。

彼女の術によって我を忘れて伯爵を追い落ちて行っていたアレンが瓦礫に剣を突き刺し止まった。

「!!?身体が勝手に動く…!?マリアの能力か…!」
「やめろ。仲間に死なれて頭に血がのぼったか、馬鹿弟子。」
「マリアの術を解いて下さい、師匠!
アヤからも何とか言ってよ。」
『…ごめん。』
「どうして!!」
『今のあなたは伯爵と戦うべきではない。』
「っ!!」
「憎しみで伯爵と戦うな。」
「!!」
「アヤ、アレンを引きあげろ。」
『マリアン、リナリーを…』
「…あぁ。」

伯爵はティキの覚醒を喜びながら扉の向こうに消えて行った。
私は道化ノ帯でアレンを引き上げた。
彼の瞳から大粒の涙が流れる。
俯く彼を私は抱きしめた。ただ何も言わずに…

『諦めないで、アレン。まだ何か方法があるはずよ。』
「…アヤ」
『立ち止まるな、歩き続けろ。マナとの約束でしょ?』

私の背中に手を回す彼の瞳に少しだけ光が戻った。
クロスやリナリーと合流しアレンは謝った。

「アレンくん…」
「すみませんでした、リナリー。」
『マリアン、ここから出る方法があるんでしょ?
あなたがわざわざ死ぬためにここまで来るはずがないもの。』
「…昔と変わらないな、アヤ。
お前らをノアから助けたのは、アレンとアヤ、お前らに手伝わせるためだ。」
「『?』」
「任務だ。」

その頃、伯爵はピアノを弾き方舟を操り黒い新しい方舟で旅立った。
そして外の世界に残された仲間たちの頭上にあった白い方舟はバラバラに砕け始めた。

「あの中にはまだみんなが…!!」

その中に私たちはまだいるのだ…
方舟消滅はもう目前…
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