黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第18夜
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私が目を覚ますと隣でリナリーとミランダが眠っていた。
私は女性用の病室にいるらしい。

『アレンはどうしてるかなぁ…』

そう言った瞬間、病室の扉が静かに開かれ婦長が入ってきた。

「アヤちゃん!」
『ただいま、婦長。ごめんね、私たちボロボロだから忙しいでしょ?』
「仕方ないわ。これが私たちの仕事だから。
生きていてくれただけで十分よ。」
『他のみんなは?』
「まだ眠ってるみたい。ホントにアヤちゃんの回復力には驚かされるわ。若いのって羨ましい。」

そして婦長にされるがまま、包帯を変えてもらい薬を投与された。

「もう少し寝てなさい。」
『…婦長、1つ頼んでもいい?』
「?」
『コムイさんを呼んでほしいの。
みんなが起きたら話せなくなることがあるから。』
「…わかったわ。」

彼女が病室を出てから5分後、コムイがやってきた。

「話ってなんだい?」
『マリアンと話をさせてほしいの。
無理を言ってるのは分かってる。
どうせ中央庁もこちらへ向かってるんでしょ?』
「…」
『彼らが来たらたぶん私もアレンもマリアンと話せなくなる。
その前に確かめておきたいの。お願い、コムイさん…』
「…どうして、僕に頼むんだい?」
『コムイ室長、あなたがこの教団を支えているのよ?
相談する相手はあなたしかいないと思うわ。』
「…その身体で大丈夫かい?」
『長話はしないようにするわ。』
「わかった。隣の部屋に元帥を呼ぼう。
そこで待っていなさい。」
『ごめんね、コムイさん。無理言って…』
「僕としては他の言葉が欲しいな。」
『…?』

彼は優しく微笑んでいた。

「僕は室長である前に1人の人間なんだ。
君たちを大切に思っている家族だよ。」
『…ありがとう。』

彼は満足したように病室を出た。
私は婦長の手を借りながら隣の部屋へ行く。
立ち上がった瞬間、身体中に痛みが走ったのには驚いた。

『意外に傷が多かったのね。』
「そうよ、ムリしちゃって。
治療する方の身にもなってほしいわ。」

彼女が冗談混じりに言う。
隣の部屋は控室のような造りで、ソファと簡単な作りのテーブルが1つあるだけだ。
婦長が部屋から出たのを確認して、私はリリーでティムを呼んだ。
金色の光を放ちながら私の頭に止まったティムは今までアレンの所にいたのだろうか。
微かに薬の匂いがした。

『あなたも聞いておくべきよね、ティム。』

独り言のように呟くとティムは羽を羽ばたかせた。

それからしばらくしてクロスが扉を開けた。

「オレを呼び出すとはいい度胸してるな。」
『すみません、この身体じゃここまで来るので限界だったもので。』
「話って何だ?」
『“14番目”、そして奏者について。
中央庁より先に知っておきたかったの。』
「いいだろう、だがいつかまた説明すると思うぞ。」
『いいわ。最低限、私が知っておかなくてはならないことを教えてくれればいい。
マリアンが今私たちが知るべきではない、又は知らなくてもいいと思うことは答えてくれなくても結構。』
「…相変わらず頭の回転が速いな。
オレに訊くことも準備済みか?」
『あなたからの答えも薄々予想はついてるわ。
だから確認しにきたんだもの。』

クロスは私の隣に煙草に火をつけながら腰掛ける。

『初めに確認したいのは“14番目”のこと。彼はノア?』
「そうだ。普通13人しか生まれないノアに、何故か生まれてしまった14番目の使徒。
14番目の呪いによって方舟は江戸に縛られ、彼は奏者の資格を誰かに与えてしまった。」
『それが…アレン。』
「あぁ。あいつには方舟を操る力がある。
だがアヤにはない。お前は唄を知っているだけだ。」
『…アレンの役には立てないの?』
「いや、お前とアレンだけしか子守唄は知らない。
独りですべてを背負わずに済んだことで、あいつは救われているはずだ。」
『でもあの楽譜は誰にも読めないはずよ。実際、私にも読めなかった。
でも頭に自然と浮かんできたの、メロディーと歌詞が。』
「それはお前にも14番目のメモリーの一部が入れられたからだ。
その記憶はアレンにもある。」

そのとき私はあることを思い出した。

『私の考えでは、その記憶を入れられたのは右目に呪いを受けたときだと思うわ。
潰されるまで分からなかったけど。
クロウリーの城で潰された右目が復活した時、マナさんに言われたの。
“アレント共ニ生キル決心ヲシタナラ、ヨリ深ク闇ヘト堕チテイケ…”って。』
「たぶんな。呪いを受けたあのときから、お前にもマナの声が聞こえるようになった。アレンだけではなく。
アヤが唄を歌えば方舟も答えるだろう。だが真の奏者はアレンだ。それだけは覚えておけ。」
『はい。』
「アレンが14番目のメモリーに呑まれ、ノア化が始まったらお前にも少し影響が出てくる。
オレの予想だが、お前の意識が半分ほど持っていかれるだろう。
周囲の者はお前も敵対視するかもしれない。
だが隔離したりはしないはずだ。
お前は“14番目”ではないから。」

その言葉の意味が分かった瞬間、心に哀しみと怒りが込み上げてきた。

『それってアレンだけ隔離される可能性があるってこと?』
「あぁ…」
『そしてアレンがノア化するかもしれないって…』
「…あいつの心が弱かったらな。
それを防ぎ、アレンを支えるのがお前の役目だ、アヤ。」
『…』
「後悔してるか?アレンと共に歩んできたこと。」
『そんなことは絶対に有り得ない、今までもこれからも。
アレンと一緒にいた時間を無駄だと思ったことなんてない。
でも…怖いのよ。だって私の行動が世界を左右するってことでしょ。
それに…私は自分の無力さが嫌になるのよ。
だって最終的にすべてを背負うのはアレンなんだもの。』
「仕方のないことだ…
お前が心配しなくても、あいつも十分強くなっている。」
『…そうだね。』

私はアレンのことを想いながら微笑んだ。
彼は強い。私も強くならないと。
そして…2人ならどんな世界でも生きていけると言ったではないか。

―その気持ちを忘れたら、すべてが終わってしまうわね…―

その瞬間、自分で言った言葉が思い出された。

―“私の行動が世界を左右する”…?―

『…ねぇ、マリアン。』
「ん?」
『私のヘブラスカからの予言は知ってる?』
「いや、聞いていない。」
『“時の破壊者”と共に世界を導き、未来は私の選択だけで闇に沈むか光に満たされるか決まる…
時の破壊者っていうのがアレン。』
「それって今のお前の状況じゃないか…」
『…頑張らなきゃ。』

クロスは私に近付き私の頭をそっと自分の胸に抱いた。
懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。

『…いい加減煙草やめなさいよ、マリアン。』
「…うるせェ。」

彼は私の髪を梳きながら静かに言った。

「ムリはするな。巻き込んですまない。」
『…アレンと共に生きると決めたのは私よ。』
「…生きろよ。」
『…もちろん。』

その後、互いに無言のまま時は過ぎていった。
私はクロスの胸の中で眠った。
彼は私をそっと抱きあげ柔らかく微笑む。

「大きくなりやがって…
日本から連れ帰った時はこんなに重くなかったのに。」

そして部屋を出ると近くにいたコムイに私を押し付けた。

「アヤを頼む。これからいろいろ大変だろうから味方でいてやってくれ。」
「それって…?」

コムイの質問に答えないままクロスは自室へ戻って行った。
コムイは首を傾げながら私を病室のベッドへ運んだ。
そんな私の頬を一筋の涙が伝う。

「アヤくん…?」

彼はそれを拭いながら寂しそうな笑みを浮かべた。

「キミみたいな幼い女の子がどうして重い十字架を背負わなければならないんだ…」

そして彼は指令室へと重い足取りで帰って行った。
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