黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第21夜
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ゴロゴロゴロ
ピシャ―――――――ン


嵐の夜、クロウリーは長い眠りから目を覚ました。
彼は鎖に繋がれ身体中が痛んだ。

「!!?な、なんであるか、これは…っ!?」

鎖を引っ張ってもビクともしない。
ベッドに鎖で縛りつけられていて身動きひとつできない。

「この傷は…?眠っている間に…?
私はノアの双子と戦っていて…それから…それから…?
わからない…ッ、ここはどこであるか!?」

彼はとうとう泣きだした。

「アレン…?ラビ…?みんなは…」

そのとき窓から光が射し、ある人物の姿が現れた。
だが、それは見覚えのある人物ではない…
長い髪、白いワンピース…
その少女に何かを投与されたクロウリーは声にならない叫び声をあげ倒れた。

「アレン…ラ…ビ…」

仲間の名前を弱々しく呼ぶ彼の横を、妖しげなドクロのマークがついた瓶が転がった…


午前2時…
私、アレン、ラビ、神田、リナリー、ブックマン、マリ、そしてミランダは科学班の引っ越しを手伝っていた。
ホームは今、引っ越しの作業に追われている。
本部移転の通達が出たのは2日前。
ルル=ベルの襲撃で中央庁の議会は百年使ってきたこの城の廃棄を決めたらしい。
自分たちの荷物の片付けは簡単だが、一番の問題は科学班だった。
資料や本の山に私たちは苦戦して2日間…
まったく引っ越し作業の終わりが見えてこない…
ほとんど寝ていないため、私やアレンの疲れはピークに達している。
そして現在、もう一度言うが…午前2時。
眠くないはずがなく、私はアレンの膝に頭を預け夢の中。
アレンも同様、うとうとして横の本の山にもたれかかっていた。
倒れていく本の山をティムが小さな身体で支えようとするが…

「これはどこだ、リーバー?」
「それはあっち…ん!?」

大人のマリはまだ働けるようだ。
そして彼の質問に答えていたリーバーは倒れていく本の山と眠る私たちを見つけた。

「ばっ、ばかっ。起きろ、アレンッ!!」

それでも爆睡中の私たちは目を覚まさず、そのまま倒れた。

ボン

アレンが倒れるということは、そこで寝ていた私も倒れるということで…

『痛ッ』

それと同時に私とアレン、そして何とティムの髪が急激に伸びる。

「わぁああああああ??」
「またやったか…」
『まぁ、私はいいけどさ…』

ルル=ベルの攻撃で肩のあたりまで短くなっていた私の黒髪が今は腰よりも長い。

「これは以前にバク支部長の誕生日に作った強力育毛剤だ。」

転がった瓶を手に取りながらジョニーが言う。

「大丈夫、これも時間が経てば元に戻るよ。」
「全部で5人…」
「だから油断するなって言っただろ。」
「お前らが変なモン作り過ぎなんさッ!!」

そこにいるのは身体が幼児化してしまったラビと神田…
どこか可愛らしいが、神田の殺気は相変わらず。
髪がウサ耳になってしまったブックマン…
そして髪の長い私たち…

「ワシの髪がウサ耳に…」

ブックマンはぐすっぐすっと泣き続けている。
それも体育座りで…

「テメェら、実は仕事しねェで遊んでたんじゃねェのか…ッ」

神田が六幻をリーバーたちに向けるが迫力ゼロ。
リナリーは小さな2人の服の心配をしていた。

「服、どうしよう。」
「ブックマンのでいいんじゃないか。」

マリはあくまで冷静。
私は持ち歩いていた赤いリボンをミランダに渡し、アレンの髪を結んでもらう。
私は同じく赤いゴムで自分の髪をひとつにまとめる。
そのゴムはいつも袖を上げる為に使っているものだ。
そしてアレンの残りのリボンでティムの髪をツインテールにした。

「よかった、まだマシなので…」
『言えてる…ティム、何か可愛いわね。』
「アヤ、綺麗だね。」
「そこイチャイチャするなさ!!!」

アレンは私の髪をそっと撫でる。
私の髪が短くなって一番ショックを受けていたのはアレンだったから嬉しいのだろう。
みんなの苦情に背を向けてリーバーは仕事に戻った。

「さー荷作り、荷作り!」

リンクは私たちが寝ていて、その上本が倒れていることも知っていて何も言わなかったらしい。
私とアレンはそれぞれ箱を持ったままリンクに文句を言った。

「リンク〜起こしてくださいよ。」
「それは私の仕事ではありません。」
『ケチー!!』

そう言う私たちの前を上機嫌のティムが飛んで行った。

「アヤ、手伝って!!」

私はリナリーに呼ばれて小さくなったラビと神田の着替えを手伝い始めた。
彼らが着ていた服を片付けるとブックマンの服を着た2人が現れた。
ラビのバンダナはどれも大きいため、ブックマンの持っていたものを彼の頭に巻くことにした。

『ラビ、こっちおいで。』
「絶対子供扱いしてるさ…」
『だって可愛いんだもん。』

私は駄々をこねる彼をひょいっと抱きかかえ椅子に座る。彼を膝に乗せて。

『じっとしてて。』

そして彼の髪を上げ、バンダナで結い上げる。

『よし。じゃぁ、引っ越しの手伝いを再開!』
「「えっ…」」
「オレたちもするのか?」
『もちろん。2人で運べばいいでしょ?』
「そういうことよ、ラビ、神田。さぁ、手伝って!!」
「「はい…」」

2人がリナリーに連れられて手伝いに行ったのを確認して私はアレンの所へ戻った。
いくつか箱を運び終わった時、私たちの耳に幼いラビと神田の声が聞こえてきた。

「おいリーバー、次の本部には稽古できる森はあんのか?」
「チラッと耳にしたんだけどロンドンに近くなるってホントさ?
伯爵に対して新しい備えとか考えてんの?」
「いっぺんに訊くなよ…」

私とアレンはその会話から、2日前にコムイに呼ばれた時のことを思い出した。


「新しい土地で本部を建て直す。
まずはそれからだ。また伯爵と戦っていくためにはね。」

指令室のソファに座る私たちに、まずコムイは引っ越しのことを言った。

『…コムイさん。それが私たちを呼んだ理由じゃないわよね。』
「…アレンくん、アヤくん。キミたちは“奏者の資格”が何か知ってるね…?
それは“唄”だとクロス元帥は言っていた。
その“唄”を知っていれば誰でも方舟が操れると。ボクらに教えてほしいんだ。」

向いに座るコムイと、その傍らに立つリーバー。
私たちの座るソファの横にはリンクも立っている。
私はアレンの手をぎゅっと握る。

「これはまだ公にしてないんだが、これから新しい本部や任務に方舟の能力を導入していくことになった。
未知で危険な代物ではあるけど、科学班で使い方をよく研究すれ我々にとっても強力な武器になる。」

私たちはただ俯くだけだった。
コムイが言うことも分かる。だが、あの唄は…

【アレン…】
【大丈夫だよ、アヤ。】
【あの唄は…マナとアレンの秘密の唄でしょ?】
【…うん。】
【それなら私に発言権はないわ。
アレンが決めてくれたらいい…
私はあなたについて行くから…】
【ありがと…】

黙りこんだ私たち。
リンクは私たちを見下ろし睨む。
そしてコムイとリーバーは心配そうに微笑んだ。
リーバーは私たちの前に膝をつき、しゃがみ込むと私たちの顔を覗きこむ。

「アレン?アヤ?
お前らが“唄”を知ってたって俺らはお前らを疑ったりしないぞ。
一部の連中が言うことなんて…」
「あ、そうじゃないんです…」

私はアレンの肩に顔を埋める。
そんな私の頭を自分に引き寄せながら彼は言葉を続けた。

「その…気持ち…悪くて…」

私たち以外の3人はただきょとんとして悲しそうな顔をした。
どうしてあなたたちがそんな顔をするの…?

【マナとの暗号で綴られた身に覚えのない唄
ワケのわかんないモノを自分の中に持ってるっていうのが…】

「気持ち悪いんです…」

【アレン…私はずっと一緒だから…】

アレンは私をただ抱きしめた。
他に今の彼が感情を押し殺す手段がなかった。
私の背中に回る手が、いつも以上に強かった。
少し苦しかったけど私は何も言わずに彼の背中に手を回した。

『一緒にいるからね、アレン…独りで抱えなくていいんだよ…』

私たちは未だに仲間の誰にも何も言えずにいた。

【師匠と話したい!言ってほしい、大丈夫だって。
マナを信じて大丈夫だって。それだけでいい。】
【そしたら何だって頑張れるのに…】

その日、私たちはコムイに解放された。
何も話すことなく部屋を出る私の頭をリーバーは撫でてくれた。
私は弱々しく微笑む。

「ごめんな…」
『リーバー班長が謝ることないでしょ。ありがとう…』

感謝の言葉にコムイとリーバーは小さく微笑むことしかできなかった。
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