黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第22夜・番外編1
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[なぁ、アレン。そしてアヤも聞けよ。
そういや初めて聞くが、お前らティムは好きか?
預けると言って渡したが…
はじめからアレン、お前にやるつもりだった。
アヤにはリリーがいるからな。]

画像もない短いあの人の声
見つけたのはあの雨の日のすぐ後だった



雨が降る中、私とアレンは船に乗り新しい教団、ホームを眺めていた。
真っ黒いコートのフードをかぶり、私もアレンも互いの表情は分からない。

『アレン…』
「あれが…新しいホームか…」
『うん。ここが帰って来てもいい場所…』
「そうさ。まぁ、僕の隣はいつもアヤのものだけど。」
『…恥ずかしいこと、よくサラッと言えるわね。』

そんな私たちの周りをティムキャンピーとリリーが飛びまわる。

「風邪ひいちゃうよ。」
「リナリー、ジョニー…」

私たちの後ろから2人が姿を現す。

「ヘーキだよ。ジョニーたちが作ってくれた団服、あったかいから。」
「ホラね、リナリー。」
「ふふ…そうだね。」

フードを外して、私とアレンはきょとんとしたように顔を見合わせる。

『?』
「なに?」

するとリナリーが微笑んだ。

「今ね、奥で話してたらね。ジョニーが言ったの。」
「アレンて近頃、オレらと話す時、アヤと話すのと同じように敬語がハズれてきたよなって。」
「え?」
『ふふ…そうかも。私はいつもだから気付かなかったわ。』
「まぁ、オレやリナリーとかよく話す奴だけみたいだけど。」
「時々ね。気づいてなかった?
任務のときは皆、戦闘で会話も短くなるし、荒っぽくもなるから、私はあまり気にしてなかったんだけど、
言われてみればそうかもって話してたの。」
『ジョニー、よく見てるわね。』

アレンが困ったように笑う。

「それは気付きませんでした。」

リナリーとジョニーが挙手する。

「いいじゃない。私、敬語じゃないのスキ!」
「す、すきって…」
『アレン?』
「睨まないでよ、アヤ。」

リナリーの言葉に照れるアレンを軽く睨むと彼に肩を抱かれた。

「なんで敬語で話すのさ。」

私はその問いに一瞬顔を曇らせた。

―それは…マナが敬語で話してたから…―

それを見たアレンは私の肩を抱く手に力を入れる。
見上げると彼は優しく微笑んでいた。

【大丈夫だよ、アヤ。】

「別にそんな深いワケは…もう癖なんで…」
「アレンの紳士スタイルって世渡りうまくするためじゃないの?」
『鋭いわね、ジョニー…』
「え―――――と…」

そのとき私とアレンの後ろからある人物が肩に手を置いた。

「オホン!!」
「『あ』」
「今も任務中です。もう着くから降りる準備しなさい。」
「起きたの、兄さん。」
「船酔い治りました?」
「あんま喋らせないで。吐く…」

私たちを乗せた船は岩場を進む。
洞窟に入って行くと、暗い雲から降り注ぐ雨は遮られ、奥には光が生まれた。

「ここが新しいホーム…か。」

そう呟くアレンの後ろでコムイが…吐いた。

「おえぇええ」
「ギャ〜〜〜〜!!」

ジョニーに被害が出たらしい。

『ちょっと大丈夫、コムイさん!?』
「う、うん…うえぇぇええ」
『…大丈夫じゃないでしょ。』
「『はぁ…』」

私とリナリーの溜息にアレンはこっそり微笑んだ。
翌日の朝、本部団員すべてがここへ移ってくる。
そのためのゲートを作るため、私たちは一足早く現地に入ることになったのだ。
私たちは船を降り、旧本部と連絡を取り合いながら新本部を歩き回る。

「うん、その位置でお願い。」

言われた場所で私とアレンは足を止める。
私は彼の背中にそっと手を添える。

【【…】】

心の中で2人であの子守唄を唱える。
すると私たちの足元にゲートが出来あがった。

「繋がりました、9番。」
「リョーカイ。旧本部へ、9番ゲート確認してくださーい。」

ジョニーが答え、旧本部にいるリーバーに連絡する。

「こちら旧本部、了解。新居はどうだ、ジョニー。」
「階段が少ないっス。」
「今ロブたちが確認に行ったからまってろ。
…どうだ、ロブ。」

わくわくした様子の団員が9番ゲートの扉に近付く。

「こちらロブ!9番ゲート確認しました。開けるぞ〜〜〜〜〜」
「次はオレねっ」
「その次はボク。」

満面の笑みでロブは扉を開けた。
すると同時に私たちの前に方舟のゲートが現れる。

「9番ゲート開通〜〜〜♪」
『こんばんは、ロブさん!』
「やぁ、アヤ。頑張ってるかい、アレン?」
「はい。」
「ゲート繋げんの慣れてきたじゃん!」

ジョニーが微笑んで言う。

「頭の中で歌詞を唱えるだけですからね。
僕が行ったことのある場所じゃないと繋げられないみたいなのが難点ですけど。」
「あん!敬語じゃなくていいわよぅ♡」
「…その話まだ続いてたんですか。」
『まぁ、私はいなくてもアレンはゲート繋げれるよね。』

私が少し哀しそうな顔をするとアレンが私の顔を覗きこんだ。

「アヤがいるから安心してできるんだよ。
僕はアヤがいない所ではゲートを繋げない。」
『アレン…』
「それに2人でやる方が簡単で速いでしょ?」
『うんっ!』
「じゃあ次、あっちの位置に頼むよ。」

ジョニーの言葉を聞かず、私たちはコムイをチラッと見る。
彼は腕を組んで小さく微笑んでいた。
私たちを見守るように優しく哀しそうに…

「アレーン!アヤ!!」

ジョニーに呼ばれ、私たちは走る。

「あ、ゴメン」
『ちょっと、待ってよ!』

リナリーはコムイに歩み寄り言う。

「兄さん、すこし周辺見回ってくる。
何かあったら無線で呼んで。」
「わかった。」

彼女が行った後、メガネを押し上げながらコムイは眉根を寄せた。

「…」


コムイは数日前、私とアレンを呼んだ時のことを思い出していた。


『嘘よね…?
私たち、方舟を動かす唄は確かに知ってるわ。
でも唄を知ってればコムイさんたちでも奏者になれるっていうのは、
マリアンがワザとコムイさんに言わせた嘘…でしょ?』

コムイの前に立つ私とアレンは冷めきった目で彼を見つめる。
私たちの後ろにはリンクがいる。

「どうしてそう思うんだい?」
『マリアンは昔からよく私たちを試すようなことをするから。』
「あの方舟は僕たちじゃないと動かせないんでしょう。
いや、正しくは“僕”かな。
僕も多分…そうだろうと思います。
どんなに周りから疑われても、
エクソシストとしての任務として命令があれば、ちゃんとやりますから。
心配しないでください。」
『…それを言わせたかったのよね、コムイさん。』

―バレてましたか…―

アレンが黒いオーラを放ちながら冷たい顔をする。

「あと師匠に伝えてほしいんですけど。」
「伝える?なんて?」

アレンは右手の親指を立てると、それを下に向け振り下ろした。

―“死ね”…ねぇ。本心じゃないクセに。―

「って。」
「それをボクにやれと?」
『今のアレンには何を言っても無駄よ。』
「は、はは…」

―無理して強がってるのはバレバレなんだけどね…
わかっててやってるボクも最低か…―

当時を思い出して冷や汗を流すコムイ。
するとそこにリナリーの叫びに似た声が響いた。

「に、兄さん…っ」
「!」
「これ、どうゆうこと!?」

彼らの周りを囲む赤い服に全身を包んだ人々。

「お待ちしてました、室長。」


その頃、私たちは最後のゲートを設置し終えていた。

「よし!これで全部設置終了!お疲れ〜」
『お疲れ様!!』
「明日、みんなが来るの楽しみだね。」
「ね―――、朝までチェスしない?」
『私は寝るわよ、眠いもん。アレン、膝貸して?』
「どうぞ。」
「ラブラブだね…」

私たちを後ろから見つめるリンク。
彼は突然繋がったばかりのゲートに視線を移した。

「こんばんは〜〜〜〜と。」

そこから顔を出したのはラビとブックマンだった。

「『!?』」

ラビは私たちを見ると片手を上げて暢気に挨拶する。

「よ〜〜〜〜〜っす、オツカレ♡」
「なんじゃい、冷えるのぉ、ここ。」
「出発は明日だよ、ラビ。」
「寝ボケてんですか?」

そう問うアレンにチョップを喰らわせながらラビが言う。

「ンなワケあるかーい。」
「ちょいと本業のほうでな。」
「ほんぎょう?」
『…嫌な予感がする。』

すると私たちに歩み寄ってきた人物にリンクが敬礼した。

『来たか…』
「ご苦労様でした、ハワード監査官。
キミたちも任務ご苦労、アレン・ウォーカーくん。羽蝶アヤさん。」

そこにいたのはルベリエ。
彼はムカつくような笑顔で言い放った。

「来たまえ。今からキミたちには私の指示に従ってもらいましので、よろしく。」

そして私たちは赤い服の人物たちによって腕を拘束され、ジョニーから引き離された。

『大丈夫よ、ジョニー。すぐに戻るわ。』

私たちの寂しそうな笑顔がジョニーの瞳に映った。
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