黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第23夜
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クロスが姿を消してから10日後、ロンドンにて…

私とアレン、神田、そしてミランダはイノセンスを回収するためロンドンの墓場へ任務に出ていた。
目の前にはレベル3のアクマ。
私たちは月光の下、武器を片手に戦っていた。
ミランダはファインダーであるキエとマオサ、
イノセンスの持ち主の姉である老婆、
そしてイノセンスである指輪を身に付けた手とチェスをしているリンクを結界で守っている。
既に死んでいる老婆の弟はチェスのチャンピオン。
毎晩のように手だけで現れてチェスをするらしい。
そんなことが出来るのはイノセンスの所為だろう、ということで私たちが現地へ向かったのだ。
チェス盤も戦いの最中に壊れミランダがリバースで直している。
リンク以外全員負けてしまい、勝たなければそのイノセンスを貰えない。
すべてはリンクにかかっている。

―でも私たちは目の前のアクマに集中…!!―

リンクは戦いのことなど気にもせず淡々とチェスをしている。

「Bd(ビショップディー)3」

そして相手が動かす…その繰り返し。
戦場を見つめるその他の人々は震えている。

「すみませんミランダ。結界装置のバッテリーが切れてしまって…
こんなに長丁場になるとは…」
「壊れたチェス盤の“時間吸収(リバース)”中なのに、“時間停止(タイムアウト)”まで…」

息の上がったミランダは微笑んで答える。

「だ、大丈夫です。キエさんとマオサさんは休んでください。」

そんなミランダに老婆は恐怖のあまりしがみつく。

「ひぃいぃいいっ
神よぉぉおぉ、お守りくださいましぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!!」

私はその叫びを聞きながら神田の隣でアクマに対峙していた。
アレンは1体のアクマと戦っている。

『囲まれたか。』
「楽勝だろ。」

私たちの周りには4体のレベル3のアクマ。

『六幻が直って上機嫌ね、神田。』
「…無駄口叩かずに、さっさと終わらせるぞ。」
『了解!』

そのままアクマに斬りかかっていく。
次々に破壊していく私を見て神田が呟いた。

「…舞ってるみたいだよな。」

余裕そうな神田にアクマは言う。

[そんっっな細っこい剣などへし折ってやらあぁ]
「へぇ、六幻をへし折る?」

神田は冷たい笑みを睨みに変える。

「やってみろよ。」

そして一気に斬った。

『あっさり…』
「当たり前だ。」
『神田らしいわ。』
「ふん…」

その間、ミランダの結界も襲われていた。

[イノセンスを渡せぇえぇええっ!!!]
「ぎゃぁあぁあっ」
[ここを開けろぉ―――っ!!]
「いいっ、嫌ですぅ〜〜〜〜〜!!
あなた、私たちを殺すでしょう?」
[当たり前だ、クソ女ぁ!!]

―アクマと普通に会話してるよ、ミランダさん…―

「ちょっとアンタ!まだかい!?」
「話し掛けないでください。」

真剣な顔をしたリンクは戦場を気にしない。
目の前のチェス盤を睨むばかり。

「e5」
[この貧弱女ぁあぁあ!!]

アクマが結界を殴り続ける。

「だ、大丈夫なのかい!?」
「そ……そろそろ私の体力が…」
「「えっ」」
[この糞・糞・糞・糞・糞女ぁあ――――っ!!!]
「ひいいいいいっ」

そのときアレンの戦いが終わった。
私もミランダに駆け寄る。

【アレン!】
【すぐに行く!!】

そしてアクマの拳を私が神ノ道化の剣で止める。
アクマの声を背中で聞きながらミランダたちの方を向く。
笑顔で立っているとアクマが硬直しているのを感じた。

[!!?]
『お待たせ、ミランダさん。』
「糞とか貧弱とか…女性に対して失礼にも程がある。」

アレンはそう呟くと私の背後からアクマを斬った。
斬られた腕が地面に転がるとミランダと老婆がビクッとする。

「ひぃっ」
「…あたしゃもう逝っちまいそうだよ…」

その残骸を前に私とアレンは並んで立つ。

「哀れなアクマに…魂の救済を…」
『どうか安らかに…』

私たちの後ろを六幻を手にした神田が通り過ぎた。

『アレン、顔についた血、取ってきなさいよ。』
「うん…」
「アヤ、さっさと来い。」
『はぁい。』

神田に呼ばれリンクのもとへ走る。

「オイ、そっちはどうなってる。負けてたら殺すぞ。」
「そっそんな言い方はよくないわ、神田くん。
ハワードさん以外、私たちみんな負けちゃったんだから…」
「うるせぇ」
『神田にいたってはチェスのルールさえ知らないし。』
「…チッ」
「王手(チェックメイト)」

カチっという音と共にリンクが勝った。

「やったぁ!」
「ふぅ…なぜ私がこんなことまで…」
「監視のついでついで!」
『お疲れ様、リンク。』
「我々の勝ちです、Mr.マーチン。指輪をいただきます。」

老婆がリンクの隣から言う。

「とんだチャンピオンだよ。夜な夜な化けて出る奴があるかい!
死んでまで迷惑かけんじゃないよ、バカ弟が!!
お前は負けたんだ、もうここいらでいいだろう?」

老婆の優しい声にマーチンの手は砂と化した。
リンクが指輪を回収し私たちは帰路についた。

『イノセンスを回収したわ。』

神田の無線ゴーレムに向かって言うと本部から指示が出た。
ちなみに私のリリーやティムキャンピーは本部のゴーレムと形が違うため、互いに連絡は取れても本部とは連絡が取れない。
だからイヤリング型の無線を使うのだ。

「了解、ゲート28番の地点で待機してください。開けます。
本部へ帰還せよとの命令です。」
『了解。』

墓場で老婆と別れ、私たちは馬車に乗り込んだ。

「こちら本部、5時25分に28番ゲート、開通します。」
「了解、こちらは現在異常なし。予定通り向かってます。」

馬車の中でキエとマオサが本部と頻繁に連絡を取る。
そして辿り着いたのはゲートがある教会。

「28番ゲートはあの教会の中です。
僕らは事後処理があるので、ここで。」
「気をつけて。」
『また会いましょ。』
「お疲れさまでした。」

彼らと別れ、私たちは教会の前まで行った。

「こんな夜中に訪ねて大丈夫かしら?」
『平気よ、ミランダさん。ゲートのことは教会の人も知ってるはずだし。』

すると扉がギッと開いた。

「ご苦労さまです、エクソシストさま。
司祭のフェデリコです。」

彼はそう言いながら掌を私たちに見せる。
一番前にいたミランダがきょとんとする。

「こ、こんばんは…」

そしてその手を取って、握手をした。

「ミ、ミランダ・ロットーです。」
「いえ、その…」
「??」

私とアレンは互いに微笑んでミランダの両脇から顔をひょこっと出す。

『握手じゃないわよ、ミランダさん。』
「司祭の手に自分の暗証番号を指でかくんですよ。」
『これからゲート地点では毎回味方の識別をするの。
暗証番号は任務の度に変更されて仲間内でも非公開が原則。
だから忘れたら大変よ?』
「えっ…」
「ホラ、任務前に8桁の番号を教えられたでしょ?」
「あっ、そっ、そうだったわ。すみません、私ったら。」
「いえいえ。」

ミランダは司祭の手にゆっくり番号を書き始めた。

「番号を1度でも間違われると用心のためゲートの部屋へお通しすることができませんのでお気を付けください。」
「えっと…8…3の…」
『ミランダさん、声に出てる…』
「静かに書かないと!」

私とアレンが両脇から言うと後ろで待っていた神田がキレた。
我慢の限界だったらしい。

「“暗証”のイミわかんねェのかよッ」
「ひっ」
「黙ってさっさとかけ!!」
「ご、ごめんなさいっ」
「コラ!」
「なんだよ?」
「あなた方、同じパターンで喧嘩するの今日で何回目ですか。」

震えるミランダ
火花を散らすアレンと神田
同じく火花を散らすティムと神田のゴーレム
冷静にツッコむリンク…

『はぁ…ミランダ、2人は放っておいて書いちゃいましょ。』

リンクは神田に向かって言葉を続けた。

「まったく…
あなた方は仮にも教皇の威信の象徴であるローズクロスを掲げた存在なのですから、それに見合う品位というものを少しはもって…」
「うるせェよ。」
「はい?」

神田はアレンを睨み言う。

「うるせェんだよ、お前ら。
オレの知ったことじゃねェんだよ。どうでもいい。」

ミランダに続いて司祭の手に番号を書き終えた私は神田の言葉で振り返る。

『神田…』
「…同情はしねェ。」
『でも嫌うこともないのね。』
「…お前だけだ。」

そして神田は教会に入った。
その背中に私は苦笑しながら呟く。

『贔屓じゃないの…』

ミランダは自分の所為だと思いアレンに歩み寄る。

「ごめんなさい、私のせいね…
神田くんの機嫌を悪くしてしまったわ。」
「ミランダのせいじゃないですよ。」

司祭の手に番号を書くアレンは切ない笑顔で言う。

「神田をイラつかせてるのは僕かな…」

私はアレンに背後から抱きつく。

【私もいるからね?アレンは独りじゃないから…】
【大丈夫だよ?】
【哀しそうに笑ってるもん。】
【ははっ、心配しないで。】
【…無理してる。】
【…無理にでも笑わないとやってられないよ。】

…それが正直な彼の想い。

ミランダはアレンの言葉に数日前のことを思い出していた。
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