黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第24夜
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怪盗G騒動の翌朝、私たちはGの泣き声が途絶えた場所へ足を進めていた。
その頃、私たちの目的地であるハースト孤児院では…

「ティモシー?ティモシー?
もぉっ、勉強の時間になるといなくなるんだから。
ティモシーーーーーっ」

エミリアの声が響き渡る。
呼ばれている張本人は屋根の上に寝そべっていた。

「寄付が!?」

院長先生は別のシスターから寄付が届いたことを伝えられていた。

「えぇ、院長先生。匿名で今朝。それもすごい金額で。」
「まぁ…ここの閉鎖を聞いて是非力になりたいと手紙が…
今どき奇特な方がいるものですねぇ。」

ティモシーがその奇特な人物だと気付く者はいない。
彼は屋根の上で朝刊の切り抜きを手にしていた。

“ガルマー警部、Gから国宝、見事死守!!”

それを読みイライラしたティモシーは切り抜きを放り投げる。

「ちぇっ、黒ずくめのあいつらさえいなけりゃ、もっと稼げたのに。」

彼の頭に私やアレン、神田の顔が浮かぶ。

「しっかし何だったんだ、あいつら。
オレと同じで変な能力もってたけど…」
「ベンキョーの時間でーーーーす…」

考えごとをしていたティモシーの後ろにエミリアがすごい形相で立つ。
ぞくっとした彼はすぐさま逃げ始め、2人の鬼ごっこが始まった。

「まちなさい、ティモシィィ!!!」
「ベンキョーなんかしなくったって死なないもん!!!」
「鬼ごっこだーーーー」

ドドド
ドタバタ

賑やかなこと、この上ない。

「捕まえられるもんなら捕まえてみろ、女ガルマー!」
「上等じゃないのッ」

子供たちは2人を見てはしゃぐ。

そのとき、私たちは孤児院の前に辿り着いた。
アレンが扉の前の階段に足を掛けようとして立ち止まる。
神田は孤児院の柵にもたれかかって立ち、私はその隣にもたれながら欠伸をする。

『眠い…』
「はっ、情けねェ。」
『五月蠅い。』
「餓鬼だな。」
『えぇ、まだ子供ですけど何か?』

そんな私たちの会話をマリは笑いながら聞く。

「ホントにここなの、マリ?」
「ああ、昨夜のGの泣き声はここで途絶えた。」


孤児院の中ではティモシーが必殺技を繰り出していた。

「必ッ殺ッ、オッパイ落し――――」
「キャーーーー」

彼の小さな手に胸を揉まれ、エミリアは悲鳴をあげる。
へなへなと座り込んだ彼女の怒りはMAX。

「…っ、このぉ…」
「ティモシー、さいてーっ」
「かっかっかっかっかーーーー」

ティモシーがエミリアのことを笑いながら扉に向かって走る。
それと同時にアレンが扉を開く。

「リンク、まだ昨日のこと気にしてんですか?」
「してませんよ。」
「すみませ…」

アレンの言葉は途中で止められた。

「エロ…ガキィィーーーーッッ」

エミリアの強烈な蹴りが飛んできたから…
蹴られたティモシーの額がアレンの額に勢いよくぶつかる。
リンクは間一髪避けて、巻き添えになるのは免れた。
ティモシーとアレンは共に扉の前にある階段を落ちていく。

「!!」
『アッ、アレン!!??』
「はっ」

私はすぐに倒れたアレンに駆け寄る。

『アレン、大丈夫!?』
「何やってるんです、キミは。」

すると階段の上、扉の前でエミリアが頭を抱える。

「わーーーーーっ、いけない、私ったら。
またパパ直伝の護身術を…」
「でたーエミリアの殺人キック。」
「かっけー」
『…先にアレンに謝りなさいよ。』
「いってぇ。」

痛さのあまり額を押さえた右手に血がつく。

「ん?」
『あらら…』
「えぇっ」

アレンの顔はみるみるうちに血で赤くなる。
額から顎へと伝う血は止まることを知らない。
その様子に私とリンクも、そしてもちろんアレン自身も硬直する。
神田とマリはもう1人の被害者、ティモシーに歩み寄る。

「大丈夫か、キミ?」
「!オイ、まて!」
「?どうした。」
「あぁ、盲目のお前はすぐわかんねェか。」

神田がマリに説明する。

「この子供…頭に玉がはえてる。」
「『タマ?』」

私もついその言葉に反応する。
倒れた少年の額には大きな宝石が光っていた。
そして神田が私に頷きかけた瞬間、私の隣でアレンが泣き始めた。

「ぴぇえぇええぇぇえええ」
「「『!!』」」

私とマリ、神田がその泣き声に振り返りアレンの顔を見る。

「ぴえぇえ、血ぃーーーっ。血が――――っ、死ぬぅーーーー」
『ア?アレン!?』
「ぴえぇぇえええ」

アレンの整った顔が今やグチャグチャだ。涙と鼻水と血で…

『神田、マリ…この泣き方は…』
「追ってきた昨夜のGの泣き方と同じだ…」
「乗り移られたか。」

私はアレンのその姿を見ていられなくなり、彼の胸倉を掴み揺さぶる。

『そのくらいのことで泣くな!!情けないわよ!!』

すると彼は目をぱちくりさせ、私の目を真っ直ぐ見る。
泣きやみ、少し目をうるうるさせたまま見つめてくるため、私の方がいつもと違う彼の姿に頬を染めてしまう。

『アレン?』
「あれ?」

彼はそのまま私に顔をずいっと寄せ目を見つめる。
いや、正しくは私の目に映る彼自身を見る。

「しまったぁ、うっかり移っとる!!
オ、オレの身体は…!?」

オロオロするアレンに私とリンクは呆れて言葉を失う。

「これか?」
「あー、それそれ…っ」
「また会ったな、怪盗G?」
「え?」

神田の言葉にエミリアが驚きの表情をする。
神田はそんなことに構わず、ティモシーの本来の身体の首に六幻を当てる。
彼の顔は鬼のよう。

「さぁ、白状してもらおうか。
この身体を綺麗なままで返してほしかったらなぁ。」
「ひっ」

そしてティモシーはすべてを話した。

『ねぇ、話す前にアレンを返して?』
「「「あ…」」」

ティモシーの身体に入っていたアレンが本来の身体に戻る。
気絶しているらしく、私は彼の頬を平手打ちする。

『起きなさい、アレン!』
「ぃったぁ…」

だが額の傷はそのままらしい。

『中に入って手当てしましょ。』
「なんで僕、泣いてるの!?」
『…Gに乗り移られて彼が大泣きしたのよ。』
「もしかして、あの泣き方で…?」
『…残念ながら。』
「…」

落ち込むアレンの手を引きながら孤児院に私たちは足を踏み入れた。
私たちは院長にある部屋に通された。
そこで私はアレンの顔を拭き、額の手当てを済ます。

「ありがと、アヤ。」
『どういたしまして。ただ…』
「アヤ、どけ!」

神田が私の肩を掴みマリに押し付ける。

「おいっ、神田!」
『何!?』

すると神田はアレンとティモシーの襟首を掴むと近くにあった縄で2人を縛り上げた。
背中合わせに縛られた2人は床にちょこんと座る。
ティムはアレンの横に舞い降りた。

『…ごめんね、アレン。』
「えっ、ちょっと、アヤ!!」

私はアレンに謝り、神田とマリと共にソファに腰掛ける。
向かいには院長とエミリアが座る。

「ティモシーが人様の身体で泥棒を?」
「ちょっと…なんで僕まで縛るんですか!!」

アレンの言葉は無視。

「ティモシーくんは他者の身体に自身の意識を憑依させて操る能力をもっているようです。」

マリの言葉を院長とエミリアは信じられないようだ…当然だけど。

「「あの…?本気で仰ってるんですか…?」」

【…僕のことは無視かい!】
【ごめんね、アレン。ちょっとの辛抱だから。】

「まぁ…すぐに信じられる話ではないでしょうが…」
「本人がそう言ってんだ。」
「言ってるって…刃物つきつけて言わせたんでしょ!
黒の教団だか、エクソシストだか知らないけど子供にあんなことして謝罪もないわけ!」
「ガキが素直に言うこときいてりゃあんなマネしねェよ。」
「あっ…あなた…っ
ちょっと美形だからって、なにしても許されると思ったら…っ!」
『すみません、彼は口下手で…』
「それはホント謝ります。」

そのとき私とアレンの目がある人物の所で止まる。
それは冷たい表情のシスター。
彼女は扉の近くでこちらをじっと見つめている。

「『…?』」

【アレン…今のシスターって…】
【…おかしい…よね?】

「エミリア、あなただってこの方の連れの額を割ったんだからお互い様でしょ。」
「う…すみません。」

私たちを見つめるシスターは何も口にすることなく、扉から出て行った。

「院長、ティモシーくんの額の玉についてはご存知ですか。」
「ええ。この子の父親は昔ガルマー警部が逮捕した窃盗犯なんですの。
ある時、彼は罪を隠す為に幼いティモシーに盗品を飲み込ませました。
父親の刑が執行されて警部がティモシーをここに連れてきた時には、この子はもう今の姿になっていて…」
『可能性アリね…』
「あぁ…」

私の呟きに神田が小さな声で応え、マリが頷く。

その頃、部屋から出て行ったシスターはある人物に電話をしていた。

「はい、白髪と長い黒髪の少年、大柄の
男と黒髪の少女です。
はい…はい…ありがとうございます、伯爵(マスター)…」

その相手は…千年伯爵だった。

「ティモシーを黒の教団へ?」
『彼の能力は額の玉の影響によるものかもしれません。』
「我々はワケあって“イノセンス”と呼ばれてる物質を探していまして、額の玉がそれかどうか調べさせて頂きたいのです。
身の安全はお約束します。
調べて違うとわかればすぐにお返ししますので…」
「ち、ちょっとまって。」

エミリアの言葉に私たちは口を閉じる。
ティモシーも反応する。

「それって…もしイノセンスだったらこの子をどうするつもり?」

神田が冷たく答えた。

「ここには置いとけない。
そのガキは黒の教団で引き取ってエクソシストになってもらう。」
「嫌だ!勝手にオレのこと、決めんな!!」

ティモシーがアレンと共に縛られたまま暴れ始める。
アレンが驚いた様子でティモシーを見る。

「お前ら親父と同じだッ、オレを物みたいに…
オレは…オレはここにいたいんだ。死んでも行くもんか!!」
「知るか、引き摺ってでも連れてい…ムゴッ」

人でなしを発動させた神田の口をマリが塞ぐ。

『すみません、この人口下手で…』
「ぴぇぇえええぇぇっ院長先生ぇ〜〜〜〜っ」

ティモシーが院長に泣き付く。アレンも巻き添えだ。

「力尽くはいけませんわ。」
「そうよ、あなた人の心無いの!?」
『…アレン、大丈夫?』
「こりゃ、一旦コムイさんの指示仰いだ方がいいな…」

その瞬間、窓の外が真っ暗になった。

「あら、外が…?」
「まだ昼よねェ?」
「しまった…っ」
『周りの町が…!?』

周囲が闇に包まれ、近くの建物が無くなった。いわゆる孤立状態だ。

「消えた…!?」
「ちがう、オレたちが結界に閉じ込められたんだ。」
「AKUMA!?」
『でも眼は反応してないわよ!?』

私たちが慌てている時、建物の外でレベル4がにこっと笑った。

[ふふふ、のろいのめはききませんよ。
われわれがいつまでもおくれをとるわけないでしょう。]
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