黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第26夜
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黒の教団アジア支部、方舟ゲートの間…

「ええいっ、はなさんか!行くといったら行くのだ――――っ」
「どうかおしずまりくださいませ、バクさま!イタッ」
「1人で中央庁に殴り込むなんてムチャですって。イテッ」
「おのれルベリエ!
人体のAKUMA化などと腐った所業をレニーにさせおって。
こうなれば教皇に直談判してでも即刻やめさせてやるのだっ」

暴れるバクを蝋花、シィフ、李佳、そしてウォンがとめる。
フォーはバクの頭を踏んでいる。

「はなせぇ―――――っっ」
「「「はなさいで、フォーさん。」」」
「こんなに心を痛められて…お労しや、バクさま…」
「落ちつけってんだよ、このハゲ!!」
「ハゲてない!」
「あのな、半AKUMA化は成功しちまってるんだよ。
戦力になると証明された以上そう簡単に止められるか!
だからコムイ・リーも今は黙ってるんだろーが、ちがうか?」
「しかし…っ」

フォーがバクをギロっと睨む。

「ちがうか?」
「…っっ」

硬直したバクを全員がずるずる運んでいく。

「さぁさ、お仕事戻りましょーね、支部長〜」
「方舟来てからすっかりお出かけ癖がついっちゃって困ったもんだ。」
「ま、まてっ。はなせえっ」

ヴヴン

その瞬間、方舟からある人物が現れた。
傭兵が敬礼しながら彼に告げる。

「御苦労様です、暗証番号を!」
「あぁ。」

その男の姿を見たバクが声を上げた。

「!かっ、神田ユウっ!?」

そのままアジア支部員と神田は見つめあったまま数秒を過ごした。


その頃、私、アレン、リナリーは任務を言い渡されていた。
神田と第三エクソシストであるトクサ、ゴウシも同行するらしい。

『神田、どこ行ったの?』
「さぁ?」
「アジア支部に行ったよ。悪いんだけど、呼んできてくれるかな。」
『わかったわ。』
「アヤくん、ちょっと待って。」
『?』

コムイは私を引き止め、ある資料を渡した。

「それは今度北米支部で行われる会議の資料だ。」
『…どうしてこれを私に?』
「第三エクソシストと聞いて不思議に思わなかったかい?」
『第三ということは、第二がいたということ…まさかっ!!』
「そう、その資料には第二エクソシストについて書かれている。
キミならすぐに理解できるだろう。
第二エクソシスト…すなわちセカンドについては班長クラスから上が知っていること。
キミに伝えていいかわからないが、知っておいてほしいと思ってね。」

私は資料をペラペラめくって簡単に目を通す。
正しくは資料自体が簡単にしか書かれていない。

「そこに書かれていることがすべてではない。
要約したような内容だけど、基本的なことは書いてあるよ。」
『…!!』
「気付いたかい。」
『…この“ユウ”って…神田っ…?』
「…あぁ。」
『そんな…神田が造られた人間だって言うの!?』
「…それが事実なんだ。
一方的に教えておいて勝手なことを言うが、そのことは誰にも言わないでくれ。」
『…わかったわ。いってきます、コムイさん。』
「いってらっしゃい。」

そして資料をコムイに返すと私は指令室を出てアレンたちの背中を追った。


アジア支部の厨房の真ん中でキャベツの千切りを山のようにしている老人がいた。

「具材切れたぞ、急げ。」
「はい、Bセット二人前ーっ」

そんな厨房のがやがやした中、フォーの声が響く。

「ズゥ爺っさま、ズゥ爺っさま。」

呼んでも反応のない老人、ズゥにフォーは横からメガホンを使って叫ぶ。

「ズゥ爺っさま、神田ユウが来たぞ!!」
「…」

ただザクザクと千切りをする音だけがする。

「ほい、キャベツの千切り上がったよー」
「おい、こいつの補聴器どこだ――――――っ」

フォーは怒りに任せてメガホンで周囲に向かって叫ぶのだった。

神田はバクとウォンと共にある部屋でズゥを待っていた。
バクはテーブルについてお茶をすするが、神田はそれに興味も示さず中国風の窓枠に腰かける。

「なんだ、ズゥ爺っさまに呼ばれたのか。」
「顔(ツラ)みせろってな。
どっかの支部長じゃねーんだ。理由もなく来るかよ。」

理由もなくよく本部に行ってるどっかの支部長であるバクは落ち込み、ウォンはそれを必死に励ます。

「バクさま、ほら見て。茶柱立ってますよ。」
「ま、まぁ六幻は爺っさまが打ってきた業物の中で一番思い入れがあるものだからな。
使い手のキミのことも心配してるんだろう。」

神田はそれに返事もしない。ただ外を眺めているだけ。
バクは小声でウォンに助けを求める。

「気まずい…」
「バクさま、ビビらずにどんどんお話しになって。」
「だって顔が怖い!」

すると神田がボソッと呟いた。

「また、はじめたんだな…
今度は半AKUMAにしてAKUMAを喰わせんだって?すげぇ発想。」
「!!」

第三エクソシストのことだと分かったバクは立ち上がって神田にゆっくり歩み寄って行く。

「やはりキミを傷つけてしまったか…っ」
「…は?」

その言葉にきょとんとした神田は振り返りバクを見る。

「いや、傷ついて当然だ…っすまん!神田。」
「まて、オイ。」
「キミにした誓いを我々は守れなかった。殴れ!」
「ちょ…っ」

その勢いにあの神田でもタジタジだ。

「言い訳はせん!ボクを殴りたまえ、神田!!思いっきり殴…」
「傷ついてねぇよっ」
「ぐはぁ」

我慢できなくなった神田が容赦なくバクの頬を殴った。

「バクさま――――っ」
「勝手な妄想はやめろ。謝る必要なんざねーよ。
教団がどうなろうが俺にはどうだっていいことだ。」
「…キミがそうでも、我々にとってキミは…そうではない。
9年前、中央庁が圧した人造使徒計画でキミを造り出したのは我々の一族だ…」

口元の血を拭いながらバクは言葉を続ける。

「第二(セカンド)エクソシストなどという幻想に囚われ、大きな過ちを犯したのはボクのチャン家と、レニーのエプスタイン一族なのだから…っ」

バクの言葉に神田は当時ズゥに言われた言葉を思い出した。

「神田、まだ花がみえるかい。」

神田が頷くとズゥは言った。

「そうか…このことはお前と私だけの秘密にしておこう。
囚われてはいかんよ。それは幻だ。その花は幻だ。」

神田は自分にしか見えない蓮の花があることをそのとき知り、誰にも話さないことを誓った。
フォーに呼ばれ厨房でズゥの補聴器を探す手伝いをしていた蝋花、シィフ、李佳は漸く補聴器を見つけ出しズゥとフォーと共に廊下を歩いていた。

「しっかりしてくれよ、ズゥ爺っさま〜〜〜〜」
「なんで補聴器がパンツの中に入っちゃってんだよ、汚ぇな――――!」
「食事時間なくなっちゃったじゃないですか〜」
「ボクもう食事する気分じゃなくなっちゃったよ。」
「年かねぇ〜〜〜」

耳を掻きながら笑うズゥにフォーがツッコむ。

「年だよ。このオイボレジジー」
「いいじゃないの、年寄りに優しくすると良いコトあるってゆうぞ。」
「ホントですかぁ〜〜〜〜」
「あたし、お前さんより年上なんだけど?」

フォーはボソッと呟いた。
ここでちょっとズゥの肩書をお教えしよう。
“対アクマ武器製造者兼アジア支部料理長ズゥ・メイ・チャン”だ。

「「あっ」」
「?」
「あ…」

そんな会話をしているうちに彼らは方舟ゲートの間に辿り着いていた。
蝋花と李佳がピタッと足を止める。
そして何のことかわからないズゥは首を傾げ、シィフは小さく頬を染めた。
その視線の先には方舟から出てきた…

「あぁぁぁああ、あの素敵な後ろ姿は…っ
ウォーカーさんだーっ♡」
「リナリーちゃんだ―――♡」
「はぁ…」
「なになに、恋?」

私たちは方舟から出て傭兵に暗証番号を告げていたのだ。
アレンは私の肩を抱きながら、リナリーと共に熱い視線を送る2人を振り返った。

『アレン、蝋花の前では…』
「…そうだね。」

彼は残念そうに私の頬を撫でながら手を離した。

「蝋花さんっ、こないだは差し入れごちそうさまでした。おいしかった。」
「たっ食べてくれたんですか、みたらし団子。」
「うん。」

【その笑顔が女を誘惑してるのよ、アレン。この女殺し…】
【やきもち?】
【うるさい!】
【ハハッ】

「リナリーちゃん、どしたの?めずらしいね。」
「あ、実は任務が入って…」
「アヤも任務?」
『うん。…そっちこそ何があったの、シィフ。顔色悪いけど?』
「ま、まぁいろいろあってさ…」
『へぇ…』

【アヤもじゃん…】
【ん?】
【可愛い笑顔振り撒いちゃって。】
【そう?】
【無意識ほどタチの悪いものはないよ。】
【お互い様よ。】

するとそこにリンクがずいっと現れた。

「ウォーカー!アヤ!!
しゃべくってる時間はありません。
早く神田ユウを呼びに行きますよ。」
「『はいはい』」
「我々はここでお待ちしてますよ。
さっさとお願いしますね、使徒さま。」

私たちの背中に向かってトクサが言った。
私とアレンはそれぞれ蝋花とシィフの背中を押して2人を急かす。

『早く行きましょ。』
「えっ、うん。」

そして少し進んでから、私たちは話し始めた。

「イスタンブールでちょっと大きい任務が入って神田を呼びに来たんですよ。」
『どこにいるか知ってる?』
「あぁ、今支部長と一緒かな。」
「…あの人たちが半AKUMAっていう第三エクソシストですか…?」
『そうよ。』

蝋花がトクサとゴウシのことを思い出しながら言う。

「なんかヤな感じ。バク支部長が怒るのもわかります。
私も今回のことはどうかと思いますもん。」
「でもさ、戦力は間違いなくアップするじゃん。」

そうしているうちに蝋花と李佳の喧嘩が始まってしまう。

「仕方ないんじゃね?
イノセンスの適合者はいつ現れるかわかんないんだしさ。
あーゆー存在がいてくれた方がウォーカーたちの負担が減るじゃんよ。」
「でも仲間を半AKUMAにするって…伯爵と変わんなくない?」
「口先だけで正論吐くのは簡単だけどそれだけじゃこの戦争には勝てねんじゃねェの!
蝋花はわかってねーんだよ。
負けたら俺たち殺されるんだぜ?」
「ちょ…?2人とも。」

アレンの声も届かない。
私はアレンと肩を寄せ合ってただ2人の言い合いを見ていた。

『まぁ、どっちも正しいことを言ってるけどね…』
「難しい問題だよ…」

その瞬間、蝋花が大きな声を出した。

「だからなによ――――」

それに驚いて私、アレン、李佳はわっと身を寄せ合う。

「そんなことして勝ったって、気分よくないなって思っただけだもん…」

彼女はぷるぷる震えながら泣き出してしまった。

「お、おい!?」
「うっ…」
「ばっ、泣くなよ…っ」
『あらま…』

私は李佳の頭をぽかっと殴り、アレンは黒くなり彼の肩に手を掛ける。
そしてシィフの肘が李佳の鳩尾にクリティカルヒット。

「なにやってんだよ、李佳。」
『謝ろうか、李佳。』
「女の子、泣かしたらダメでしょ、李佳。」
「ご、ごめんなさいっ」

その様子にリンクは口をまったく挟まない。
それは第三エクソシストが自分の知り合いだからか、それとも他に理由があるのだろうか。

「泣かないで、蝋花さん。」

リナリーの優しい声。

『大丈夫よ、蝋花。』

私も笑顔で彼女に言う。

「教団がどうなっていっても僕らは僕らだ。
僕らは変わらず信じて進めば大丈夫です。
未来できっと笑っていられるって。」

そして私たちはみんなで笑った。

「ごめんね。」
「なんで俺らが喧嘩すんだよなー」
「そうだよ。」

【“大丈夫”…】
【アヤ?】
【最近、私たちはこの言葉をお守りのように唱えてるわね…】
【不安が多いから。でも、大丈夫。僕らは独りじゃない。】
【少なくとも私にはアレンがいるし、アレンには私がいるわ。】
【そうだね。それだけで生きていける気がするよ。】

そんな私たちを見ながらズゥは考えていた。

「未来か…いやはや、己の罪を思い知らされるなぁ…」
「ズゥ…」

―なぁ、神田よ。まだ花はみえるのかい…?―
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