黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第28夜
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ユウは独りボロボロの服を着て、瓦礫の中で空を眺めていた。
右手にはイノセンスである刀を握り、
血を流すたった1人の友人を思い出しながら彼はただただ涙を流すのだった。

やと瞳に映ったのは青く大きな空だった。
ああ、やっぱりだ…
藍くどこまでもどこまでも…
初めて目にした筈なのに知ってる…

「ご…めん…ごめん、アルマ…」

憎らしい程キレイなこの空を
俺はずっと知ってたんだ。

…悲劇のはじまりは少し前に遡る




ユウはある場所で目を開いた。
そこに広がるのはたくさんの蓮華。そしてあの女性が立っていてこちらを振り返っている。
眩しい光を遮るように“手”がユウの右目を隠すようにかざされている。

―…?どこだ、ここ…?―

「ハナビラが落ちるまえに…」

女性が彼に話しかける。
だが何のことかわからない。

―またアイツだ。―

「き…か…」

―なんだよ、よく聞こえねぇよ。どけよ、この手。―

しかし彼の手は蓮に絡まっていて動かない。
それどころか彼の身体は血まみれだった。
頭、口、腕からも血が流れ、
胸には2本の斬られたような傷。
邪魔をしているこの“手”は彼のものではない。

―誰の…―

そこで彼は目覚めた。

「!!」

自分の手を見るが何も起きていない。
あんなにたくさんの傷はない。

「…っ、また…」
「ん〜、またうなされてたね。」

隣で寝ていたアルマが目をこする。

「ごめん、起こしたか。」
「気にすんない。
もうすぐ朝の時間だし、ちょっと早いけど行く?」

アルマは起こされたにも関わらずとても優しい笑顔だった。
彼らは服を着ると胎中室へ向かう。

「さっぶ!!」
「フユってやつだだだだだ。」
「ああ?ダレだよよ。」

寒さでガタガタ震えているため語尾がおかしい。

「外の世界にはフユってやつがいて、そいつがさぶくするんだ。」
「めめめめ迷惑なヤローだ。」
「でも、負けるかぁーーーーーっ
みんな〜〜〜〜っ、オハヨウオハヨ〜〜〜〜ウ。」

つるっ

そしてアルマは滑ってこけた。

「ぎゃはははははははっ」

ユウは大笑い。
和やかな時間がそこにはあった。

朝一番に胎中室の仲間に会いに行く。
一人一人の名を呼びながらまだ目覚めない奴らに向かってたわいない話をする。
コイツのそんな日課につき合うようになったのはいつからだっけか…


アルマが1人1人に話しかけているのを、ユウは座って聞くだけ。

―よく全員の名前、覚えられるぜ。―

覚えようともしない彼はただ感心する。

―ハタから見てるとひとりで喋ってすげーキモイけどな。―

そこに聞こえてきた、彼だけにしか聞こえない女性の声が。

「ハナビラが落ちる前に…」
「!」

女性がユウの隣に現れる。

―また…―

「なんなんだよ、おまえ…っ俺になんの用だ!!」
「ユウ?どうしたの、ユウ!?」

アルマはユウの叫び声に驚いて彼を振り返る。
するとユウは頭を抱えて苦しんでいた。

「ハナビラが落ちる前に…ずっと…待ってる…」

そして彼は意識を失った。
次に彼が目を覚ましたのは医療室のベッドの上。

「しっかりしろ、ユウ!」

そこにはエドガーやトゥイ、レニーなど班員の心配そうな顔があった。

「いつから幻覚症状があったんだ!」

サーリンズは机を拳で叩きながら言う。

「レニー!監視役のお前は何を見ていた。」
「も、申し訳ありませんお父様。」
「すでに再生能力の呪符は完全に肢体に定着している。修正は手遅れだ。
ここまできて…ユウは何を見た…?」
「今の彼にとって“知らない人間”“知らない景色”…最近では夢でも見るそうですよ。」

エドガーの言葉にサーリンズは頭を抱えた。

「それは…進行してるってことでしょうか。」
「気が触れ正気を失うのも時間の問題だろう…
昔のあの子たちのように。
被験体“ユウ”の実験は中止し、凍結処分とするしかあるまい。眠らせてやろう。」

その話をアルマは聴診器を扉に当てて聞いていた。
部屋の前にいた班員たちはアルマに殴られ倒れている。

「中央には私が報告しておく。奴ら、気にも止めんだろうがな。
人造使徒計画…聖戦の為とはいえ我々はあと何人看取らねばならんのだろうか…」

アルマはユウを助ける方法を探すべくその場を後にした。


食堂にて…

「これ魚ですか?」
「判らんから食ってみようと思ってな。」
「うそだよっ!こんな魚いるわけないよ!!」

ズゥと2人のシェフが奇怪な魚を前に話す。
馬のような頭、人間と同じ腕が2本、しっぽは魚…これはただの化け物だろう。

「丹薬くださ〜〜〜〜い。」

そこにアルマが登場。

「おう、アルマ。ひとりかい?」
「うん。ユウ、隔離されたんだ。だから今日はひとり…」
「元気出しな!博士たちがきっと治してくれるよ。マヨネーズいるか?」

アルマの前にマヨネーズがかかったどんぶりに入った丹薬が差し出される。

「何あれ?」

しかしアルマの目は別のものにくぎ付けになっていた。あの魚?だ。

「あー、ありゃ外の魚(多分)でな。用水路で釣れたんだと…」
「へぇ〜〜〜〜」

そう返事をしたアルマの目は何かを企んでいた。
その頃、ユウは再び眠っていた。

「ダメか…また睡眠状態に戻っちまった。」
「良くないな。意識が段々と不安定になってきてる。」

3人の班員がユウの容体を確認する。

キィイィイィ

「…!?」

不思議なことが起きた。
鍵が閉まっていたはずの扉が突然開いたのだ。

「おい、ドア鍵かけたんじゃなかったか?」

そのことに気付いた班員を含め3人はアルマに気絶させられた。
アルマは眠るユウを背負うと走り出す。
ユウがいなくなったことに気付いたのはそれから数分後。
監視するための部屋を歩いていた班員がふと見て気付いたのだ。

「あれっ?ユウがいませんっ」
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