黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第30夜
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みんなが私とアレンを声の限り呼ぶ。
しかし私たちの目は開かれない。

「これで最期だよ、ユウ。」

そんななかアルマは涙を流しながら神田に攻撃を放った。
神田はそれを避けようともしない。
私たちが倒れたことに茫然と立ち尽くしているのだ。

「死んで!」

ドクン…

私とアレンの心臓が同時に鳴った。

「まてッ、ふたりとも!!」

リーバーの声が響く。
その瞬間、私とアレンの身体が球体の光に包まれ浮かび上がる。
それは神田とアルマの間で起こり、アルマの攻撃は弾き飛ばされた。
アレンは右手を空へ伸ばしながら球体の中浮かんでいく。
私は彼の左手で脇に横抱きにされている。

「なんだ…!?モヤシ!?アヤ!?」

光の衝撃で飛ばされた神田はうまく着地し、アルマは壁にぶつかった。

「ぐはぁっ」
「!」

落ちてくるアルマを神田は抱きとめる。

「アルマ…!」
「!」

神田は心配そうな顔でアルマの顔を覗き込む。
そこに不気味な笑い声が響いてきた。
それはまるで地響きのよう。

「あははははははは…」

私たちを包む光の上に、あの私たちにしか見えない影が現れ神ノ道化のマントのように私たちを覆う。
アルマを抱いた神田が見たのは私を胸に抱き直し、右目だけを開けて笑うアレンの姿だった。
私はその胸の中で目を閉じたままうっすらと微笑んでいた。
髪は8割ほど銀色に染まっている。

「なに…?何が起こったの!?」
「これは…」
「地鳴りの音か…?」
「不気味な…笑い声のようじゃないか…!?」

仲間たちが慌てるなか、伯爵はのんびり告げた。

「ありがとう、神田ユウ♡」
「!?」
「覚醒デスヨ♡!!!
貴方がイノセンスでアレン・ウォーカーをボロボロ〜に傷つけてくれたおかげで!
彼の内に潜む“14番目”が完全に呼び起こされたのデス♡!!」

伯爵はワイズリーとデザイアスの手を持ち、バンザーイと嬉しそうに飛び跳ねる。

「アヤも“14番目”…アレン・ウォーカーが愛した女としてメモリーに呑まれたのデス♡
存在が消えると思っていたのですが、違ったようですネ。
“14番目”を支える立場になったのでしょウ♡
まぁ、いいデス。2人をまとめて手に入れればいいだけのことですカラ♡!!
でもすごいですネ!アレン・ウォーカーを傷つけるだけで羽蝶アヤまで影響を受けるなんテ♡実に面白イ♡」

伯爵は笑いながら言葉を続ける。

「ノアはイノセンスへの憎しみを決して忘れナイ♡
傷つけられれば傷つけられる程、それは吹き出すノデス♡」

―俺があいつを…っ―

神田は自分を責める。

―アヤまで巻き込まれた!?―

「ありがとウ!!
アレン・ウォーカーはもう終わりデス♡」
「伯爵…最初からそれが狙いでアルマと神田を利用したのかよ…っ!!」
「そんな…そんなっ」

リーバーの言葉にジョニーが叫ぶ。

「そんなあああぁ」


私とアレンは黒い壁に囲まれ、一筋の光が射しこむ場所で目を覚ました。
アレンは黒い団服のような服の上に白いコートを羽織り、悪魔の羽がついた椅子に座っている。
彼は椅子に鎖で縛りあげられていた。
そして私は彼の斜め後ろにある十字架にかけられ、アレン同様鎖で縛られている。
服は黒い質素なドレス。
視界の端に映る髪は銀色だった。
そこにある人物が歩み寄って来る。
白いコートを着たティキにそっくりな男。
彼の声を私は知っている。
ティモシーと初めて会ったときの任務、あの時私に歌姫について説明したあの声だ。

「狂ッテル、千年伯爵ハ狂ッテル
スベテヲ忘却シ、破壊人形トナリ果テタ
ソシテ“アレン”オマエモ狂ッタ人形ニナッテシマッタ」
『あの時の…』
「え?」
「言ッタハズダ、次ニ会ウトキハアレント共ニト。」
『…えぇ。』
「何のこと!?」
「歌姫、モウ覚悟ハ決マッタカ?」
『…アレンと共にいること、それが私の存在理由よ。』
「ナラバ、狂ッタ人形ト共ニ歌エ。
オマエハ歌姫ナノダカラ…」

私たちの周囲が鏡のように変わる。
そこにアレンとその男、男の背後には謎の影、そして私が2人映っていた。
私は厳しい表情をしているはずなのに、もう1人は笑っていた。

「この人は…ティキ…?」
『違う…』
「オレハスベテヲ破壊スル14番目ノノア、“ネア”」

その言葉に私たちではなくなんとティムキャンピーが反応した。
レベル4に囲まれながら、テワクを横抱きにし支部を目指すリンクの隣で突然ティムキャンピーが光を放った。

[なんだ!?]
[めが…みえない!?]

アクマたちも慌て始める。
あまりの眩しさにリンクが手で目を庇う。

「ティムキャンピー!?どうし…」

するとティムは巨大化し電気を放つ。
あまりの驚きにリンクは言葉を失った。

―アバタ ウラ マサラカト 結界・破壊(カイバラ・アダラ)!!!―

ティムは口から光を放ち結界を破った。
閉の字を背中に背負った天道虫が次々と壊されていく。
それと同時に私たちや神田、伯爵たちの頭上が光に包まれる。

「!!」
「なんだ!?」
「支部を閉じ込めた閉(ヘキジ)の結界が…破られた!!」

不気味に笑うアレンの左眼にある人物が映った。

「アレン…」

彼に微笑みかける人物。
彼の優しい笑顔が私の脳裏にも浮かぶ。

【マナ!!】
【こんなところでノアに呑まれるわけにはいかない!!】
【仲間のもとへっ!!】

そして私たちは目を開いた。
すると身体の褐色が薄れていき、表情も元のアレンと私のものに戻った。
私はするりと彼の腕から逃れ、自らの足で地面へと降りて行く。
アレンと共に地面に足をつけると呪われた眼が何かを訴えた。

「左眼…?」
『何…?何を伝えようとしているの?』

そうして私たちが目に映し出したものは神田とその腕に抱かれているアルマだった。

「アヤ…?」
『神田…』

彼の私を見つめる目はどこか不安に揺れていた。
それもそのはず。突然14番目から逃れ、いつもの2人が目の前にいるのだから。

【何だ?何が云いたい、左眼?】

すると私たちにしか聞こえない綺麗な女性の泣き声が聞こえてきた。
それはアルマと鎖で繋がれたAKUMAの魂だ。

「ヤメ…デ…」
『この声は…まさか…っ』
「ミナイデ…ワダジヲミナイデ…」

そして涙で濡れた顔を上げたのは神田の想う“あの人”だった。

「『!!!』」
「モヤシ…っ?」
『そんな…』
「アルマ、キミは…」
「言うなぁあぁっ」
「『っ…』」

私たちはアルマの必死な叫びに口を閉じるしかない。
その瞬間、アルマの身体が光りはじめた。

「アルマ…!?」

驚きの声を上げる神田の首にアルマの手が回される。

「!?」
「これがホントの最期…死ね。」
「!!」
『自爆!?ダメ、アルマ!!!』

私たちはそれを止めようと走り出す。
しかしそれは遅かった。

「すばらしい執念デス、アルマ=カルマ♡さらバ♡!!」

アルマは涙を流しながら優しく苦しそうに微笑み、神田を巻き込みながら自爆を始める。

―9年前、ユウはぼくを破壊して生き延びた。
でもそれは“私”との約束を守る為だったんだね。ごめんね…
あなたはきっと生きてる限り“私”を探してくれる。
いつかぼくが“私”だと気づくかもしれない。
それだけは耐えられないよ。―

2つの心が交差して、その一瞬の時はあっという間に過ぎ去ろうとしていた…
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