Paradox Love(うたプリ REN)

□第12話
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ドラマYouthful Emotionの放送が終わり、私はQUARTET NIGHTと共に最終調整を終えていた。
音楽番組生放送を前に私と彼らは談話室で打ち合わせをしていた。

「葵桜、衣装と楽器はどうするの?」
『衣装なら番組側が準備してくれてる。
全体的にロックな衣装にしたって知り合いのスタッフさんが言ってたわ。』
「楽器は俺たちが使っているものを持参するのだろう?」
「その方が慣れてるからな。」
『そういうこと。だからそろそろ…』

するとマスターコースの寮にテレビ局の業者がやってきて私たちの楽器を運び出していった。

「丁寧に扱えよ。」
「ランラン、言い方冷た〜い!」
『よろしくお願いします。』

スタッフを見送って私たちはまた談話室に戻る。

「それにしても漸く如月とのコラボか。」
『待たせちゃってごめんね、バロン。』
「フッ…待ってなどおらぬ。」
「も〜、ミューちゃんも正直じゃないんだから♪
ホントは楽しみで仕方ないんでしょ〜?」
「なっ…」
「明日の午前中にリハーサルだよね。
生放送自体は19時から始まって、僕たちの出番は一番最後。
トークの間に楽器の準備がされるらしいけど。」
『えぇ。』

そのとき談話室に聞きなれた笑い声が響いた。
ちなみにST☆RISHはみんな仕事で出掛けていて、春歌も事務所に出掛けているようだ。
寮にいるのは私たち5人だけ…のはず。

「ハハハ〜のハ!!!」
「「「「『…』」」」」
「Hello〜♪…どうしてそんなに反応が薄いんで〜すか!!?」
『もう慣れたっていうか…』
「またか、って感じだな。」
「いい加減普通の登場はできないのか、早乙女。」
「僕ちんでももう驚かないよ?」
「それより何か用があったんじゃないの?」
「Oh〜そうでした〜!!
実はYouたちに朗報で〜す♪」
「「「「『?』」」」」
「それってQUARTET NIGHTに?それとも葵桜も含めてってこと?」
「ミス如月も関係していま〜す。」
『…伺いましょう。』

私たちはソファから立ち上がると早乙女の向かい合うように並んだ。
そして真剣な眼差しを彼に向ける。
あの嶺二でさえへらへら笑うことなく真っ直ぐ早乙女を見つめていた。

「QUARTET NIGHTにSuper Star Sports…通称トリプルSの開会式の幕開け審査にエントリーしてほしいのね〜♪」
「「「「『トリプルS!!?』」」」」
『今度日本で開催することが決まったスポーツの祭典…
そこでQUARTET NIGHTが歌う…?』
「まだエントリーの状態で〜す!」
「やってやろうじゃねぇか。」
「そこでで〜す!!
Youたちには新曲を歌ってほしいので〜す!!」
『あ…明日発表するもの以外にQUARTET NIGHTだけが歌う曲が必要ってことですか?』
「Yes〜!!突然のことですができま〜すか!?」
『任せてください。』
「…協力してやらんこともない。」
「僕も協力するよ。その方が早く完成するでしょ。」
「僕ちんも手伝うよ〜」
「嶺二は何ができるんだよ…」
「ランランひど〜い!!」
「A〜nd!トリプルSの勝負曲はミス如月だけでな〜く、ミス七海にも協力をお願いするつもりで〜す!!」
『ハルちゃん?』
「Youとミス七海はハッピーパルスを生み出せ〜る!!
最強のタッグだとMeは思いま〜す!」
「どうするの、葵桜。」
『え?』
「俺たちの専属作曲家はお前だ、葵桜。
お前がイヤならタッグを組まずにお前が書いた曲を俺たちは歌う。」
「貴様が決めろ、如月。」
『ハルちゃんとタッグ…やってみたい。
彼女はST☆RISHの専属作曲家よ。
もしみんなが許してくれるなら彼女と共に最高の曲を作り上げてみせるわ。』
「フッ…」

私の言葉にQUARTET NIGHTは満足そうに口角を上げた。

「OK〜♪それではその方向性で手筈を整えましょ〜♪
Youたちは明日の生放送頑張ってちょ〜だい!!」
「「「「『はい。』」」」」
「ミス如月〜♪
Youとミスター神宮寺には来週新曲披露をお願いしま〜す!!」
『了解しました。』

早乙女はそれだけ言い残し窓ガラスを割って跳び出して行った。

「あ…」
『窓ガラス、割って行った…』
「龍也さんの仕事がまた増えたね…」
『はぁ…』

私はすぐに龍也に電話を掛けた。

『龍也さん、また社長が窓割った。』
「はぁあああ!!!?」
『忙しいと思うけど修復お願いしてもいい?
まだ流石にこれだけ風が入ってくると寒い。』
「はぁ…すぐに行くからそのまま放置しとけ。
破片でも触ってケガしたら困る。」
『は〜い。』
「ちなみにどこの部屋だ?」
『談話室。』
「…また一番お前らが使う所じゃねぇか。」

龍也は溜息を吐いて電話を切るとすぐに業者を手配して窓ガラスを直してくれたのだった。
そんな慌ただしい寮にST☆RISHと春歌が共に帰ってきた。

「「ただいま〜!」」
「ただいま戻りました。」
「「ただいまです!!」」
「会いたかったよ、ハニー。」
『おかえり、みんな。
レンくん…その呼び方はやめなさい。』

帰ってくるなり私に抱き着いてくる大きな身体を支えながら私は苦笑する。
この光景にももう慣れたものだ。
夕食は私と蘭丸で作っておいたため彼らが帰ってくるとすぐに全員で食卓を囲んだ。

「ランちゃんが作ったのかい?」
『美味しそうなオムライスでしょ。』
「美味い!!」

蘭丸は何も言わないがみんながパクパクと美味しそうに自分が作ったオムライスを食べる様子を見て心なしか嬉しそうだった。
私とレンはそんな彼を見てクスッと笑う。
蘭丸が作ったオムライスは優しい味がした。

翌日、私はQUARTET NIGHTと共にスタジオへ向かった。
運転してくれたのは嶺二。彼は運転技術が高く私たちも安心して乗っていられるからだ。

「葵桜も免許持ってるの?」
『とりあえずに仕事の合間に取得したわ。』
「今度は葵桜ちゃんに運転してもらおうかな〜」
『…そんなに上手くないんだけど。』

そんな他愛無い話をしながら私たちはスタジオに到着し、スタッフと相談しながらリハーサルを進めていく。
軽く歌いながら音の響き方やマイクの音量の調節をする。

『ランラン、ロックだから盛り上がるのはわかるけどもう少し全体の声を聞いて?』
「あぁん?」
『貴方の声が引っ張ってくれるのは助かるわ。
でもこれは貴方だけの曲じゃない。
私たち5人で奏でないといけないの。』
「わーったよ。」
『ありがと。
それから演奏は魅せる感じでいきましょ。』
「うん!!」
「あぁ、任せとけ。」
『もう一度いいですか?』
「いつでもいけるよ。」
「貴様が満足するまで付き合ってやろう。」

スタッフに声を掛けて私たちはもう一度曲を通してみる。
時折目を閉じて音楽を聞きながら私たちは嶺二のドラムを基準にしてタイミングを合わせ最終チェックを終えた。

「どうだ、如月。」

私はカミュの言葉に4人を振り返ってニッと笑った。

『最高!』
「この調子でやってやるか。」
「魅せてあげようね、僕たちの力を〜!!」
「嶺二の場合は初めての取り組みだもんね。」
『バロンにとっても初めてよ。
あんなにロックなバロンはなかなか見れられないもの。』
「美風はキーボード…それほど珍しくはないからな。」
「ランランは流石って感じだしね♪」
「ったりめーだろ。」

私たちは共に近くのレストランへ向かった。
異色の5人は目立つが気にしない。
そこのレストランは芸能人御用達だから。

「…葵桜さん?」
『トキヤ!音也と翔くんも一緒?』
「葵桜!QUARTET NIGHTも!!?」
「やっほー、おとやん♪トッキーと翔たんも。」
「チッ…お前らもいたのかよ。」
『そう言わずに…』
「みなさんは生放送のリハーサルですか?」
「リハーサルが終わって今は休憩中。」
「忙しいんだね…」
「生放送まではまだ時間があるみたいだけど?」
『それまではちょっとやりたいことがあってね。』

翔の言葉に私が含みを込めて返すとQUARTET NIGHTはふっと笑った。
その笑みの理由がわからない音也、トキヤ、翔は首を傾げるだけ。

「それにしても珍しい組み合わせではないか。
一十木、一ノ瀬、それから来栖…共通点があるようには思えぬ。」
「珍しく同じ番組にゲストとして呼ばれまして。」
「おとやんとトッキーの組み合わせはバランスが取れてるけど、そこに翔たんが加わったらどうなるのかな。」
「どうせ翔は音也と一緒にはしゃいで、それで時折真面目になるんでしょ。」
「なっ…どうせってどういう意味だよ、藍!」
『…立ち話も何だからとりあえず座りなさい。
そうじゃなくても私たちは目立ってるんだから音也たちが立ってたら注目されちゃうわ。
彼らが一緒でも構わないかしら、先輩方?』
「…勝手にしろ。」
「仕方ないね。」
「賑やかなのは気に喰わぬが如月がどうしてもというなら仕方あるまい。」
「さぁ、ウェルカム〜♪」
「失礼します。」

音也、トキヤ、翔も席に着くが私たちの様子に少しだけ恐れにも似た感情を抱いていた。
バラバラなようで私を含めた5人は堂々としていたからだ。
信頼がそこにはあり、それぞれを理解しあっているのが見て取れた。
しかしそれを見せ付けるのではなく、貫禄を見せつつこんな時間さえ楽しんでいるのだ。

―葵桜さんも…芸能界を生きてきただけあって強いですね…―

私の隣に座ったトキヤは楽しそうに嶺二や蘭丸と話す私の横顔を見ていた。

「ところで最近レンとはあまり一緒にいないようですが。」
『時間が合わなくてね。
そろそろ相手してあげないと拗ねちゃうかしら。』
「レンって強がってる癖に見た目より子供だからな。」
「甘えん坊だよね。」
「そうなんだ…あのレンレンがねぇ…」
「手が掛かるだけだ。」
「ふぅん…面白い情報だね。」
「如月、もうすぐ神宮寺とのデュエットも発表するのだろう?」
『うん。』
「それならそのときまで俺たちとのコラボに集中しろ。」
『はい!』

昼食を食べ終えると、私たちは席を立った。

「お昼ご飯はお兄さんたちの奢りね〜」
「そ、そんな偶然会っただけですし…」
「いいからいいから〜♪」
「なら俺たちのも払っとけよな、嶺二。」
『お願いね、れいちゃん♪』
「え!?」
「お兄さんの奢りなんでしょ。」
「いや、お兄さん“たち”…」
「この中では貴様が最年長なのだ。
ありがたくその言葉に甘えておこう。」

私たちは意地悪く笑うと立ち上がる。
もちろん勘定は嶺二に任せて。
カミュは自然と私の肩を抱いて、そんな私たちを挟むように蘭丸と藍が並ぶと店を出た。

「寿さん、いいのですか…?」
「あ、心配しなくていいよ。
トッキーたちも帰って大丈夫だから…あれ?」
「どうしたの、れいちゃん?」

まだその場にいた音也、トキヤ、翔は嶺二の声に振り返った。
嶺二は伝票を持ち上げて目を丸くしていた。
そしてふっと笑う。そこには私たちがきちんとお釣りのないように自分の食事代を置いていたのだから。
今まで伝票の陰にあって嶺二には見えていなかったらしい。

「いつの間に…」
「先程寿さんが席を立ったときですかね…」
「さりげなくこんなことするんだから…だから僕ちんはみんなのことが大好きなんだ〜♪」

嶺二はお金を集め、後輩たちのものだけ奢るとルンルンと店を出てきた。

「みんな〜♪」
「五月蠅いよ、嶺二。」
「黙れ。」
「財布が寂しくなったんじゃねぇのか?」
『大変ね、お兄さん♪』

笑いながら私たちはスタジオへと歩き出す。
私たちの間にはこれ以上言葉はいらない。
そんな私たちの背中を後輩たちは見送ったのだった。
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