Paradox Love(うたプリ REN)

□第13話
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私とレンの誕生日会の直後、私とQUARTET NIGHTは新曲のレコーディングをしていた。
マスターコースの寮にあるレコーディング室に5人で入り時間を忘れてよい曲を仕上げようと意見を交わす。

『ここのメロディーはもう少し活かせるかしら。』
「そこは俺のパートだな。やってみる。」
『藍ちゃんはここを囁く感じで。』
「わかった。」
「僕ちんは何かある?」
『曲に関しては大丈夫。
あとはダンスだけど、れいちゃんにはPVで演出としてダイスを投げてもらいたいの。』
「僕が投げるの!!?」
『えぇ。クールにお願いね。』
「うん!!」
『バロンは全体的に色っぽいから、映像で魅せるときには時折笑みを零してみてくれる?』
「任せておけ。」
「早速レコーディング始めるか。」

蘭丸の言葉に従ってQUARTET NIGHTはひとりずつブースに入ると収録していった。
テイクを重ねて満足のいくものに仕上げていく。

『できた!!』
「あとは貴様の編集の腕にかかっているぞ、如月。」
『任せておいて。最高のものに仕上げてみせるから。』
「ほぅ…言うではないか。」

そう話しながらレコーディングルームを出ると外は真っ暗だった。
一日食事もせずに籠っていたようだ。

『もうこんな時間!!?』
「気付いてなかったのかよ…」
「葵桜らしいけど。」
「ランランもお腹空かなかったの〜?」
「…腹減った。」
「葵桜さん!みなさん!!」
『ん?ハルちゃん?』
「お疲れ様です。あの夕飯の用意できてますけど…」
「『いただきます/貰う!!』」

私と蘭丸の言葉に嶺二は大爆笑。
藍とカミュは呆れたように頭を抱えた。
ダイニングに行ってからも私と彼らの打ち合わせは止まらない。
次はPVでの演出の確認と撮影日のスケジュール、私とスタッフの話し合いの結果などを話した。
ST☆RISHと春歌は私たちの真剣な眼差しに言葉を呑む。

「この後時間あんのかよ。」
『あるわよ。明日は午後から生放送番組のナレーションの仕事があるだけで、午前中は予定ないし。』
「僕も平気。」
「貴様らに合わせてやろう。」
「僕ちんも!!」
『それなら練習かな?』
「あぁ。」
「直すところがあったら遠慮なく言えばいいから。」
『了解。』
「よろしくね、葵桜監督〜♪」

嶺二の言葉にトキヤとレンが目を丸くした。

「「葵桜監督!!?」」
『今回の曲のPVについては私が監督として関わらせてもらってるの。
曲についてちゃんと知ってる者が演出を決めて、指示も出させてもらった方がいい物に仕上がるんじゃないかって。』
「俺たちが推薦したんだ。」
「そうしたらシャイニーさんも許可してくれたんだよ〜?」
『楽しくやらせてもらってるわ。
まぁ、仕事の合間にスタッフのみなさんと話し合って衣装や撮影場所の確保までしないといけないんだけど。』
「忙しいんだね、葵桜…」
「それさえも楽しんでいるように見えますが…」
『何事も楽しまなきゃ損でしょ。』

ニッと笑うとST☆RISHはきょとんとし、QUARTET NIGHTは誇らしげに笑うのだった。
食後に私たちは真っ直ぐダンスルームに向かった。
鏡に向き合って立ったのを確認すると私は音楽を流し始める。
それに合わせて4人が踊り始めると私も彼らを見つめ曲のイメージと合わせていく。
曲の途中視界の端で何かが動いた気がして、私はフッと微笑んだ。

『そんな所で見てないで入ってきなさいな。』
「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」
『それで隠れてるつもり?』

私は扉を開けてST☆RISHと春歌を招き入れた。

『邪魔はしないようにね。』
「もちろんだよ、ハニー…」

彼らに微笑み掛けてから私はすぐに踊る4人へと視線を戻す。
一瞬で笑顔から真剣な眼差しに変わった私を見てレンは息を呑んだ。

―その真剣な目さえ美しいと思うのは…俺だけなんだろうか…
…その目で見つめられてるランちゃんたちが羨ましいよ―

曲が終わると私は彼らに楽譜を見せながら共に踊りアドバイスをしていく。
それを4人が囲み意見を出し合う様子を後輩たちは真面目に見つめて何かを得ようとするのだった。


それから数日後、私たちは撮影場所となる大きなスタジオにやってきていた。
そこには数種類のセットが作られていた。
QUARTET NIGHTはセットの量と質に入口で立ち止まってしまった。

『おはようございます!!』
「おっ、葵桜ちゃん。ご機嫌だね。」
『思った以上の出来なのでテンションも上がりますよ。
流石…みなさんにお願いして正解でしたね。』
「まだまだこれからだろう?
ここでQUARTET NIGHTがどのように曲を表現するか…
最高のものに仕上げるためキミがどう導くか…
楽しみにしているよ。」
『私たちの絆と信頼…見せて差し上げますよ。』
「それより4人が硬直してしまってるけど…?」
『…ん?』

そのときになって漸く私はQUARTET NIGHTが入口で立ち往生しているのに気付いた。

『どうしたの、みんな…』
「いや…このセットが凄すぎて…」
「これも全部お前が指示したのか?」
『指示というか…演出に合わせた舞台をスタッフの方々に説明したの。
ここにいる方々の力量は何度も見てるから知ってるし。』
「一緒に仕事したことあるってこと…?」
『私のソロ曲とロズパラの曲…どちらのPV撮影でも協力してもらったのよ。』
「そういうことか…」
「葵桜ちゃん、始めるよ!!」
『はい!!みんな、着替えてきて。』
「は〜い♪」
「おぅ。」
「うん。」
「了解した。」

まず彼らはマスターコースに初めて来たときと同じ各々自由な服を着てきた。
白と赤のデザインが目を引く嶺二、
黒いTシャツにベストを羽織った蘭丸、
白いシンプルな上下から茶色いベストを見せた藍、
そして黒いワイシャツと白いスーツ姿のカミュ。

『最初はカジノのシーンね。
その衣装での撮影はすぐ終わると思うからサクサクっと進めちゃいましょ。』

彼らはその姿で揃ってカジノのセットに入って来た。
閉じていた目を開いてカメラを睨みつける。
そして後は曲に合わせてソロで歌ってもらった。
嶺二は髪を掻き上げてみたり、
蘭丸はカメラを鋭く指さし、
藍は手をふわっと広げて、
カミュは顔をそっと覆い隠した。
それだけの動作なのに表情や背後に見えるスロットマシンで曲が表現されていくのだから不思議なものだ。

「この衣装ではここまでかな?」
『うん。あとは黒っぽいあの衣装とワイシャツとズボンのスタイルね。』
「着替えてくるよ。」

彼らが着替え、メイクやヘアメイクをしている間に私はセット内で立ち位置などを確認する。
準備が整うと私は4人に指示を出した。

『まずは4人のシーンからお願いできる?』
「あぁ。」

4人は白いズボンを穿いていたが、トップスはそれぞれ異なっている。
嶺二は黒いシンプルなインナーに七分袖のジャケットを羽織り首からペンダントを下げ腰にシャツを巻いていて、
蘭丸はノースリーブのインナーにフード付のベストを羽織っているため鍛えられた腕を曝け出している。
彼の手首には太目のブレスレットがある。
藍は青いワイシャツにカジュアルなジャケットを羽織って大人の雰囲気。
カミュは灰色のワイシャツに黒いネクタイとジャケット。
みんな大人っぽいが、蘭丸はその中にロックな感じが見えていた。

『この衣装のときには笑顔は必要ないわ。
儚く切なく…それでいて大人っぽく挑発して?』
「挑発…?」
『テーマはカジノが似合う大人。
どんな挑戦でも受けて立つ…そして負ける気はない。』
「フッ…俺たちにピッタリではないか。」
『よろしくね。』

彼らは最初セット内にあるルーレット台を囲んだ。
嶺二は中央の椅子に座り、蘭丸は台に腰掛ける。
藍は嶺二の座る椅子にもたれていて、カミュは少し後ろにすくっと立っていた。

「それだけのことなのに…」
『ん?どうしました?』
「この4人はバラバラなようで絵になる…不思議だね…」
「そのうえみんなキミの指示には従うんだ…」
『信頼してもらってますから。
もちろん、彼らの意見も取り入れています。
彼らは気に入らなければすぐに意見を口にする。そんな人たちです。
はっきり言ってくれる分、私としても気楽ですよ。』
「口論になったりは…」
『しません。ちゃんと理由あってこその意見でそれを尊重し合ってますから。』
「…凄い。」
『れいちゃん!』
「なぁに〜?」
『これ、れいちゃんが投げる4つのダイス。』

私が手渡したのは4人のイメージカラ―で作られた4つのサイコロだった。
嶺二はそれを受け取ると腕を組んだ状態からクールにルーレット台に向けて投げてくれた。

『上出来!』
「ありがと!」
『次はそのままソロの撮影に移ってちょうだい!』

嶺二は廃墟のようなセットに入り、曲に合わせて表現していく。
その表情はいつもと違って真剣で鋭い眼差しだった。
月明かりに照らされ壁にもたれて見上げる様子は大人の色気を魅せる。

―こんな顔も出来るんだ、れいちゃん…―

私は満足気に微笑むと次に蘭丸の演出を見に行った。
彼はモノクロの天井と床、そして臙脂色の壁の部屋でロックに歌い上げていた。
ポケットに指を引っ掻け少し俯いている様子はちょっと儚げで、ロックな印象とかけ離れているように思えた。

―そのギャップが素敵かな…?―

藍は薄暗い洋館の門の前で胸に手を当てて真っ直ぐカメラを見据えて歌っている。
鉄格子の向こうに見える壊れそうな横顔が美しかった。

―流石藍ちゃん…いつ見ても綺麗よね…―

カミュは煉瓦造りの壁に囲まれた古い扉の前で歌っていた。
近くには蝋燭が怪しく揺れている。
口元に寄せた手がどこか艶めかしい。
煉瓦でできた柱にもたれ流し目でカメラを見る様子は彼らしい。
私は彼らの様子を見て編集を考えながら微笑んでいた。
それぞれの魅力がひとつにまとまればどんなPVになるだろう。

「葵桜ちゃん楽しそうだね。」
『えぇ。この4人だからこそできる物…それを私がまとめさせてもらえるなんて誇らしいじゃないですか。』

私はニッと笑った。
その笑みにスタッフたちは息を呑み言葉を失うのだった。
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