黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第1夜
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魂の抜けたようなアレンに私はそっと手を差し出した。
彼の髪はストレスからか、白くなっていた。
月光で輝き、とても綺麗だ。

『私は羽蝶アヤ。日本人だからアヤが名前ね。』
「!薬代を払ってくれた…」
『覚えててくれたんだ。』

この時、私は2年ぶりに笑った。

『私も貴方と同じエクソシスト。
2年間、発動できてないけど。よろしくね。』

無言で私の手をとる彼の手は冷たかった。

「お前の部屋、貸してやれ。餓鬼は嫌いだ。」

マリアンはアパートに着くなり私たちを放置。
本当に面倒くさい師匠をもったものだ。

「アヤさん。」
『アヤでいいよ。たぶん私の方が年下だから。』

不気味な満月のした眠れない私たちは互いの過去を打ち明けた。
ずっと記憶を失っていたこと、両親のこと、死んでしまった町のみんなのこと、私の右腕のこと、今までの旅のこと…
彼は孤児であること、マナが拾い育ててくれたこと、ピエロとして世界中を旅していたこと…を教えてくれた。

そのうちに共通点が多いことに気付いた。

・親がアクマにされ、自分の手で破壊したこと
・目が呪われたこと
・現在独りだということ

「僕、とうとう独りになったんですね。」
『違う…私がいる。』
「?」
『やっと同じ思いの人を見つけたの。それがアレン君よ。
お願いだから、独りにしないで。もう独りはイヤ…』

静かに何かが頬を伝った。
それが涙だと気付いたのは、滝のように涙が流れだしてから。
アレン君は私に恐る恐る手を伸ばす。

「一緒にいるから泣かないで…?」

優しい言葉に涙は止めどなく溢れてくる。
私は彼の胸に飛び込んで声をあげて泣いた。
ほとんど体格に差がない2人だから、傍から見ると変な光景だろう。
でも安心できたことに変わりはない。

マリアンは扉の影から様子を窺っていて、静かに口角をあげた。

「バカ弟子…」


アレンと出逢ってから3年
私は右腕を発動させ、アクマを破壊できるようになった。
もうそこに弱々しい少女の姿はない。
アレンも戦えるけど、長年鍛練をしてきた私の方がまだ強い。
彼は私より身長が高くなった。
見下ろしてくるのはムカつくけど、もう慣れた。
私も成長して、「女らしくなった。」とマリアンに言われるが、いまいち実感がない。
未だに同じ部屋で寝起きする私とアレンは普通の人が見ると、いろんな意味で“危険”かもしれないが、私たちにとっては常に一緒にいることが当然なのだからこればかりは変えられそうにない。


仮想19世紀末
そこでは夜な夜な奇怪が起きていた…


3ヵ月前、インドのどこか
窓の外ではゾウが芸当を披露している。
そんな中、マリアンは鍛練を中断して2人の弟子を呼んだ。
私たちは冷たい石造りの床に正座する。
今までにもこのように呼び出したことはあるが、良いことなんて一度たりともない。

―何もないはずがない!!―

黒髪を1つにまとめた私と、白髪のアレンは恐怖に震えた。

「アヤ、そしてアレンよ。」
「『はい』」
「アヤが俺の助手になって5年、アレンも3年になる。
そろそろお前たちも一人前になってきた頃だ…
今日から正式にエクソシストと名乗ることを許す。」
「ホントですか!?」
『ありがとうございます…
でもマリアン、そのためには貴方と共に本部へ挨拶に行かないといけないんじゃ…』
「そのとおりだ。お前たち…本部の場所は知ってるよな?」
「はい?」

マリアンから発せられる殺気にじりっ、とアレンが後ずさる。
私は正面からマリアンを睨む、痛い目にはあいたくないから。

「そんな顔するな。女を殴る趣味はない。」

そう言ってゆっくり立ち上がる彼はハンマーを持っている。

「俺のゴーレムを代わりに置いてってやる。
コムイという幹部にも紹介状を送っといてやるから、目が覚めたら出発しろ。」
「まさかバックレる気ですか、師匠!?
アヤ、どういうこと?」

彼の問いに私とマリアンは同時に答える。

「『俺/マリアン、本部(あそこ)キライなんだよ/なのよ。』」

ゴッ

『やりすぎよ、マリアン。』
「こんなことじゃ死なないだろ。」
『それもそうね。
ねぇ、マリアン。私今日から貴方のこと“師匠”って呼ぶから。』
「おいっ、突然どうした?」
『今日から私もエクソシスト。
いつまでも貴方に甘えるわけにはいかないもの。』
「…強くなったな。」
『貴方の弟子ですから。』
「この日本刀は返そう。本部で調べてもらえ。」
『はい。』
「アクマに狙われるかもしれないから気をつけろよ。」

日本刀を肩から背中に斜めにかける。
そんな私を師匠は優しく抱きしめた。
この5年間、私は彼の娘のような存在だった。やはり別れはつらいのだ。

「アヤ、アレンのことは任せたぞ。
また会える日を楽しみにしている。」
『そのときは貴方と同じコートに身を包み、一人前のエクソシストとしてお会いしましょう。』
「あぁ…死ぬなよ。」

彼は私の髪に唇を落とし、そっと離れた。
大好きなコロンの匂いが鼻腔をくすぐる。
彼はもう一度私の髪を撫でると、振り向くことなく立ち去った。

『死にませんよ。
この道がいくらイバラだらけの道でもアレン君と共に歩むわ、マリアン…』

頭から血を流し倒れているアレンに歩み寄る。

『出発だよ、アレン君…』
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