黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第1夜
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大きな振動で目を覚ました。
疲れのあまり眠ってしまったらしい。
インドからヴァチカンまでの道のりは予想以上にハードだった。
アレンが警察に捕まったり、ティムが猫に喰われたり…本当にハプニングばかり。
疲れるのも当然だ。
隣に座るアレンも私の肩に寄りかかって眠っていた。

「仲がいいのね〜」
『えぇ、ずっと一緒に育ちましたから。』

サーカス団の馬車に相乗りさせてもらった私たちは、イギリスにいた。
話しかけてきたのは妖しい顔のピエロだ。

「う〜…師匠の人でなし…」

何故か寝ているアレンがうなされている。
たぶん師匠の夢でも見ているのだろう。

『アレン君、それは夢よ。』
「…はっ!?ゆ、夢か。まだ忘れられない…」

乱れた息を整える彼を見て、私は思わず苦笑する。
そんな2人の前を2つのゴーレムが飛びまわる。

『こら、ティムにリリー!!離れたらまた猫に食べられるわよ!?』

金色のゴーレム、師匠のティムキャンピー
そして銀色のゴーレム、アヤが作ったリリーだ。
2匹はじゃれあいながらそれぞれ私とアレンの頭に乗った。
穏やかな時間が流れる…はずだった。

「AKUMAだ―!!!!アクマだぞ、殺される!!」

私とアレンは目で合図をすると共に馬車から飛び降りる。
アレンは走って行ってしまった。
私はここまで乗せてくれたサーカス団の人たちにお礼を言う。

『乗せてくれてありがとう!!』

そして逞しくなったアレンの背中を再び追い始めた。

「大丈夫ですか!?アクマは…どこ…!?」

先にアレンが辿り着き、尋ねる。
そこには1人の少年が大人たちに囲まれていた。

「悪魔なんているわけねーだろ。」
「へ?」
『アレン君、アクマの存在を知らない人の反応はこんなもんよ。』

バカにされてもその少年はまだアクマについて騒ぎ散らしていた。

「マジでアクマはいるんだってば!!
この世界をじわじわ侵略し始めてんだぞ!親父が言ってた!」

大人は聞く耳を持たない。
それも当然…アクマの存在は一般人には非公開だから。
ふと見ると、少年の横に汚れた服に身を包んだホームレスらしき男がいる。

『っ!!アレン君、あの人…!』
「分かってる。」

既に彼は気付いていたようだ。
一般人を巻き込まず、アクマを破壊できるように待っているのだろう。

「ホントだって!今そこで、このホームレスのおっちゃんがハット帽のゴツイ奴に殺されたんだよ!!
そんでアクマの骨組みを体内に…」

少年に指差された男が、騒ぐ少年の口を塞いだ。

「すまねェ。なんでもねェんだ。
せがまれて遊びにつき合ってたらこの子、調子に乗っちまって…」
「んご!?」
「やっぱりな。今度騒いでも相手にしねェぞ、ジャン!」

大人たちはジャン(=少年)を独り残し、その場を立ち去った。
それを確認して私たちは物陰から出る。
私は一瞬にして男の腕からジャンを奪い抱きかかえる。
すると後ろでピィと風を切るような音がした。
アレンが左腕で男の顔を貫いたのだ。

「僕らの目はごまかせないよ。君はアクマだ。」

小さな爆発と共に、アクマは灰と化した。

『大丈夫、ジャン君?』

視線を合わせながら問いかけるが、未だに何が起きたのか理解できない様子。

―当然だけどね…―

アレンも左手にグローブをはめながら近づいてきて、私の背後に立つ。

「ジャンくん…だっけ?
キミ、アクマのことやたら詳しそうだけど何者だい?」
「キャー!!!」

次の瞬間、ジャンの目が輝き飛びついてきた。
興奮のあまり、私もろともアレンに抱きつく。
アレンのお陰で私はケガをしなかったが、彼は小さな呻きとともに血の海に沈んでいた…
それに気付かないジャンは言う。

「エクソシストだ!初めて見た!!
今の対アクマ武器ってやつ?よく見せ…あれ?」
『その前にどきなさい!!』

私が怒るのも仕方がないよね?


ジャンの父親はヴァチカンの科学者。
アクマなどのことはその父親の研究資料で知り、一瞬でアクマを倒す兵器を作るのが夢だと歩きながら話してくれた。

「ねぇ、初めてアクマ壊したとき、どんな気持ちだった?」

話の中で出てきたこの子供らしい無邪気な質問。
その時アレンの顔が曇った。
彼は私の手を握って「大丈夫?」と訊いてくる。

―自分だって辛いくせに…―

『アレン君こそ…』と小さく呟くと、彼はいつもの笑顔を見せた。

「ジャン、あまりクビをつっこまない方がいい。
さっきのアクマのことといい…
これ以上伯爵の目に止まるようなことはやめるんだ。危険だよ。」

静かに諭すアレンの目は本気そのもの。
その力が今までの悲しい実体験からくることを私は知っている。自分も同じだから。
ジャンはムッとした表情で、アレンにタマネギ型の何かを渡した。
私は咄嗟にその場からすっと逃げていた。

ぼんっ

「へっへー。オレ発明、タマネギ爆弾だい。
アクマの侵略をだまって見過ごすなんてごめんだね!
何が「危ない」だ、ガキ扱いすんな、貧弱!!」

そう吐き捨てたジャンは走り去ってしまった。
ハンカチで強烈な刺激臭を吸い込まないようにしながらアレンに話しかける。

『大丈夫?』
「目、目が…どうしてあれがタマネギ爆弾だって分かったの、アヤ。」
『どうしてって…どう見てもタマネギの形してるし、ジャンもすぐメガネみたいなのかけたし…』
「その観察力には敵わないよ。」
『それでこれからどうするの?このまま本部へ行く?』

―訊くまでもないけど。だってどうせ答えは…―

「やっぱり気になる。ジャンを説得してから本部に行きたい。
そうしないと後悔する気がするんだ。」
『やっぱり…アレン君らしい。』
「えっ?」
『一度言いだしたら聞かないもんね、アレン君って。
その答えは予想済みよ。
リリーがジャンを追いかけたから居場所はすぐわかるわ。
早く終わらせて本部へ行こう?』

手を取り合ってジャンが去った方向へ向かった。
ジャンが言った千年伯爵という言葉が、どうしても頭から離れない。

「アヤ、もし伯爵に会っても無理はしないで。
“仇”だという思いだけで戦わないで。
アヤの方が伯爵を倒すことより大切だから…」

世界を救うために戦うエクソシストの言葉としては、「私の方が大事」というのはNGだろう。
でも私の中で暴れようとする心の闇を彼は止めてくれる。

『ありがとい、アレン君。
大丈夫よ。だって一緒にいてくれるでしょ?』

そう、いつでも私たちは一緒。2人で1つ。
師匠がよく例えていた。
「2人の魂は1つかもしれない」と。
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