黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第2夜
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「私は室長助手のリナリー。室長の所まで案内するわね。」

可愛らしい顔立ちのリナリー。
たぶんアレンと変わらないくらいの歳だろう。
神田は私たちにくるりと背中を向けると、立ち去ろうとした。

「あ、カンダ!」

ギロリ

ドス黒いオーラと共に、神田は振り返る。
彼を呼びとめたアレンはその視線に少し怯えたが、すぐに開き直って握手を求めた。

「よろしく。」
「呪われてる奴と握手なんかするかよ。」

そのまま立ち去る神田。

「ごめんね、任務から戻ったばかりで気が立ってるの。」
『…それで済むわけない!』
「アヤ!?」

私を怒らせるのには十分だった。
すぐに神田の背中を追い、腕を掴む。

「放せよ、アヤ。」
『イヤ。私も呪われてるの。
それなのにアレンだけ差別するのね。
それっておかしくない?』

私は髪をかきあげてペンタクルを見せつける。

『呪いに対して嫌悪感を持つのは当然のこと。
でもだからこそ好き好んで呪いを受ける人はいない。
私たちの気持ちも、この呪いの理由も知らずに好き勝手なことを言わないで。』
「そんなにあいつが大事か?」
『もちろん。彼は私の道標であり未来を照らす太陽でもある。
私は生きている限り、彼の隣を歩むつもりよ。』

―面白くねぇ…―

「それなら、あいつとだけ生きてればいいだろうが。」

私は怒りでつい彼の腕を強く握ってしまう。

『私には彼と共にエクソシストとして生きるほか道はない!!
その邪魔をするなら、誰であろうと容赦はしないわ。』
「アヤっ!やめるんだっ!!」

アレンは私の肩に手を掛け、そのまま自分の方に引き寄せた。
それは一瞬の出来事。

『…アレン君』

彼の胸にすっぽり収まった私は、いつもの自分を取り戻していた。
神田はそんな私をじっと見つめる。

「…大丈夫、神田?」

リナリーの気遣いも耳に届かず、彼は立ち去った。
胸に今まで感じたことのない想いを残したまま…

神田と別れてからリナリーに教団内を案内してもらった。
それはとても丁寧で分かりやすい。

「ここは食堂。
このフロアは修練場。3階層に渡ってあるの。
他にも療養所や書室、各自の部屋もあるから、あとで案内するね。」

私とアレンは声を揃えて驚いた。

「『部屋が与えられるの/与えられるんですか!?』」

可哀想な子供みたいに、私たちは感動した。

「エクソシストは皆、ここから任務へ向かうの。
だから本部のことを《ホーム》って呼ぶ人もいるわ。
出て行ったきり、わざと帰ってこない人もいるけど。」
『師匠ね…』

ホームという響きに胸を躍らせる私たち。
今まで家族というものに恵まれなかった私たちには夢のような世界だ。
私は唯一家族と呼べるアレンの手を握った。

「アヤ?」
『…次こそは家族を守るの…必ず。』

私の言葉に首を傾げるリナリー。
でもアレンには分かったようで、しっかり手を握り返してくれる。

「僕は一緒にいる。約束だから…」

少し歩いたところで、リナリーがはしゃいだように声をあげた。

「ねぇ、アヤ!!友達になりましょっ!!」
「『えっ?』」

突然の変貌に私たちは驚くほかない。
彼女は恥ずかしそうに言った。

「教団に私ぐらいの女の子っていなくて。
アヤが初めてなの。ダメかな?」
『…そんなことないよ。
ずっとアレン君と2人で生活してたから、友達ってどんなものなのかイマイチ分からなくて…』

教団の人たちしか知らない彼女と、私はよく似ているのかもしれない。

『よろしくね、リナリー。』

彼女は花のように微笑んだ。
長い階段を下ると、白衣の背の高い男がいた。

「はい、どーもぉ。科学班室長のコムイ・リーです!
歓迎するよ、アレンくん、アヤくん!!」

この人こそ師匠が招待状を出した人物のようだ。

『“リー”?コムイさんとリナリーって兄妹ですか?』
「そうだよ〜それにしても、さっきは大変だったね〜」

周りから「誰のせいだ…」と声があがる。
この人はいつもこんな感じなのだろう。
連れて来られたのは手術室。
最高峰の機材が揃っている。さすが、黒の教団。

「じゃ、腕診せてくれるかな。」

そう言ってコムイは微笑む。
その笑顔はリナリーにどこか似ている。

「さっき神田くんに襲われた時、武器を損傷したでしょ。我慢しなくていいよ。」
『教団の室長なだけあるわね、あの一瞬を見逃さないなんて…
流石、師匠の知り合い…』
「最後の一言は余計だよ、アヤくん。」

差し出されたアレンの赤い腕は、大きなみみずばれがあり、とても痛々しい。

「神経が侵されてるね、やっぱり…
リナリー、麻酔もってきて…発動できる?」
「あ、はい。」

彼に言われるまま、アレンは力を発動した。
コムイは「おっ」と声をあげ、感心したように笑った。

「キミは寄生型だね!」
「寄生…型?」

聞いたことのない単語にアレンの頭にハテナが浮かぶ。

『人体を武器化する適合者のことよ、私たちみたいに…』
「キミの対アクマ武器は刀だろう?」
『いえ、これは母のものです。
両親はアクマになり、私は自分の手で破壊しました。
そのアクマが狙っていたのが、この日本刀SAKURA。
ここに来る途中、発動したんです。』
「そんなことが…」
『師匠には分かっていたようです。
「必要となった時、発動する」と言ってましたから。』
「それでキミの武器は?」

その問いに答えるように右腕を発動させた。
形状はアレンとまったく同じ。

「同じ形…!?」
『私たち、似た者同士ですから。
よく鏡のようだと言われました。』

―この2人は常に一緒にいさせたほうがいいかもしれないな…―

コムイは対アクマ武器を眺めながら考えていた。

「どうして寄生型のことを知ってるんだい?」
『師匠に教えてもらいました。
5年も一緒にいたので、いろいろな雑学を学びましたよ。
このゴーレムもその1つです。』
「リリーはアヤが作ったものなんですよ。」

再びコムイの顔に驚きの色が広がる。

「キミにはいろいろ教えてもらいたいね。」
『私にできることなら…』

そしてコムイは本題の腕の治療に移った。
私はリナリーに連れられ部屋を出る。次の瞬間…

「ギャー!!!」

近くの科学班の人たちが言う。

「始まった…」
「残酷…」

しばらくして魂の抜けたアレンが出てきた。
私が“絶対に壊すものか”と強く心に誓ったのは言うまでもない。
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