黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第14夜
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するとレロの口から巨大な何かが膨れ出てきた。
その姿は伯爵そのもの。
リナリーも目を覚まし、私たちは身構える。
しかし現れたソレはただの風船だった。
そして風船から伯爵の声が響く。

「方舟は先程長年の役目を終えて停止しましタ♡
ご苦労様です、レロ♡」
『伯爵…』
「出航です、エクソシスト諸君♡
お前たちはこれよりこの舟と共に黄泉へ渡航いたしまぁース♡」

オーギュストのように道化のショーの始まりが告げられる。
すると彼の声に答えるように周囲の建物が崩壊し始めた。

「危ないですヨ♡ダウンロードが済んだ場所から崩壊が始まりましタ♡」
「どういういつもりだ…っ」

神田の言葉に、伯爵はただ記録されただけの音声を流し続ける。

「この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまス♡
あと“3時間”…それがお前たちがこの世界に存在していられる時間でス♡」

伯爵の形をした風船は意志をもってリナリーの方へ向く。

「可愛いお嬢さん…良い仲間を持ちましたネェ♡
みんながキミと一緒に逝ってくれるかラ、淋しくありませんネ♡」
「伯爵…っ!」

リナリーは歯を食いしばる。
そして風船は空に消えていった。

「くそっ、どうするよ!?」

ラビが焦りながら言う。
その間も揺れは止まらない。

「そうだ…出口なら、僕たちが中国から来た扉がある!」
『でもどれか分からないわ。』
「片っぱしから壊せばいい!」
『…そんな…』

その時、足元が大きく揺れた。

「クロちゃん、リナリーとチャオジーを頼むさ。」
『ともかく揺れの少ない所へ走りましょっ!』

私たちは走る。
そして揺れが少し治まると、私たちは家を壊していった。
しかし見つからない。

「この舟は停止したレロ。
もう他空間へは通じてないレロって!!
マジで出口なんて無…」

レロの言葉に私とアレン、ラビ、神田、チャオジーの拳、そしてクロウリーの蹴りが飛ぶ。
レロの小さな身体が変な方向に曲がった。単なる八つ当たりだ。
そこにリナリーの声が響く。

「危ないっ」

再び崩れ始めた町。
私たちの下の地面も崩壊していく。
大きな亀裂が走る白いレンガ。
リナリーとチャオジーはクロウリーに支えられどうにか立っている。
私は近くにいた神田に支えられている。

「無いレロ…ホントに。
この舟からは出られない。お前らはここで死ぬんだレロ。」

レロの絶望的な声を私たちはただ聞くことしかできない。
しかし突然私たちの耳に楽しそうな声が聞こえてきた。

「あるよ。出口だけならね…少年。」

現れたのは少し癖のある黒髪、陽に焼け少し褐色がかった健康的な肌、そしてビン底メガネ…
それは汽車で出会った出稼ぎの男。
人間の姿をしたティキだった。
アレン、ラビ、クロウリーは愕然とした様子で立ち上がり叫んだ。

「「「ビン底(メガネ)!!!」」」
「え…そんな名前?」

私はそんなやり取りを聞きながら神田の団服の裾を掴む。

「…アヤ?」

私の手が震えてるのを見ると彼はそっと私を自分の背に隠した。

「おい、そいつ殺気出しまくってるぜ。」

するとティキは微笑みながらアレンに近付き…

「少年、どうして生きてた…のっ!!!」

突然頭突きを叩きこんだ。

「〜〜〜〜〜っ!?」
「千年公やチビ共に散々言われたじゃねェかよ〜
アヤ、女にこんなことはしないから安心しろよ。」
『…殺そうとした人がよく言うわ。』
「それもそうだな。」

アレンは何が起こったか分からず痛みに耐えながら顔を上げる。
ティキは肌の色を灰褐色へ変化させ、長い前髪を掻きあげ黒い十字を見せつける。
彼はノア…ティキ・ミックの姿で立っていた。
私は震える手を押さえながら神田の隣に並ぶ。
神田が私の肩に手を置いてくれた。
それだけで少し恐怖が治まる。

「お嬢ちゃんはすぐに分かったみたいだな。」
『中国の時と同じ殺気を感じたわ。それに煙草のにおいも。
師匠の弟子だと煙草のにおいに敏感になっちゃって。
健康に悪いわよ。煙草やめたら?』
「大きなお世話だよ。
そんなお嬢ちゃんに比べて少年は馬鹿だね。オレに気付かないなんて。」
「…」
「まぁ、本題に戻そうか。
出口、欲しいんだろ?やってもいいぜ?」

にっと笑ったティキの言葉に私たちは目を見開く。

「この方舟に出口はねェんだけど、ロードの能力なら作れちゃうんだな、出口。」

ティキが地面を蹴ると突如豪華な扉が出てきた。

「レロッその扉は…!ロードたまの扉!!?」
「うちのロードはノアで唯一方舟を使わず空間移動できる能力者でね。
ど?あの汽車の続き、こっちは“出口”、お前らは“命”を賭けて勝負しね?」
『もちろん、受けて立つわ。
同じ死ぬなら何かやらないと後々後悔するもの。
ちょっと生きて出られる可能性があるなら、それに賭ける。』
「ふっ、面白いお嬢ちゃんだ。少年、今度はイカサマ無しだ。」

ティキはそう言いながら私に鍵を投げた。
その鍵で出口までたどり着けと言うことらしい。

「エクソシスト狩りは楽しいんだよね。
扉は一番高い所に置いておく。
崩れる前に辿り着けたらお前らの勝ちだ。」
「ノアは不死だと聞いてますよ。
どこがイカサマ無しですか。」
「あははははははははは…っと失礼。
なんでそんなことになってんのか知らねェけど、オレらも人間だよ、少年?
死なねェようにみえんのは、お前らが弱いからだよ!!」

そしてティキは鍵だけを残して立ち去った。
重い沈黙が7人を包む。

「どーするよ?逃げ続けられんのも時間の問題だぜ。
伯爵の言う通り3時間でここが消滅するならさ。」
「あと2時間レロ。」
「どの道助からないである!」
『諦めるのは早いわ、クロウリー。』
「ロードの能力っていう空間移動能力は僕らも身に覚えがあります。」
「『うん』」

巻き戻しの街での出来事を思い出しながら、私とリナリーはアレンの言葉に頷いた。

「しゃーねってか。」
「ちっ…」


私たちが消えた世界では巨人アクマが出現していた。
ティエドール元帥が次々と破壊していくが、数が多いためなかなか終わらない。
ミランダの疲労もピークに達している。
頭上にある方舟は崩壊を始め、外の者たちを焦らせる。

―あの中に7人がいる…―

その時ティエドール元帥が持つイノセンスが1つ光った。

「うん、行ってあげなさい。」

それは真っ直ぐ方舟へ飛んでいった。

「まだ希望は捨てちゃダメだね。」
「そのようですね、元帥。」

ティエドールとマリは戦場に似合わない程穏やかに微笑みあった。

「こ…このドアでイイですかね?」

じゃんけんで負けたアレンが近くにあった扉の前に立っていた。
彼が鍵を開けることになったのだ。

「どれでもイイんじゃね?」
『うん』
「とっととやれよ。」
「しかしアレン、じゃんけん弱ェな。」

みんなにボロクソに言われながらアレンは鍵を回す。
するとガチャンという音と共に扉がペンキで虹や蝶が描かれたド派手なものに変わった。
そしてアレンがこちらを振り返って言う。

「絶対脱出!!です。」

そう言い差し出された彼の右手。

『もちろん全員生きて…ね!』

その上に私も左手を重ねる。

「おいさ」
「うん」
「である」
「ウッス」

ラビ、リナリー、クロウリー、そしてチャオジーも続く。
気持ちをひとつに…否、1つ手が足りない。

「神田〜」

みんなで“空気読め〜”と視線を送る。

「…やるか、てか見るな。」
「ですよね。」

くだらないと思ったのか、それともただ恥ずかしいだけなのか。
不機嫌そうに神田はそっぽを向き私たちはそんな彼の様子に笑いあった。

「行くぞ。」

神田の言葉に私たちは頷き扉の奥へ進んでいった。
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