黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第14夜
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扉を抜けると、また不思議な光景が広がっていた。

3つの三日月、輝く星、そして空を覆うような虹
そんな空と反して、地面には荒野のようにごつごつした岩肌がむき出しだった。

「何だここ…?」
「外じゃねェな…」
『そんなに簡単に外に出してくれるわけないでしょ…』

そんな私、アレン、ラビの隣で神田がピクリと肩を震わせる。

「…!?神田?」
「シッ、黙れ…いるぞ。」

神田の視線の先にはコートをまとった大柄な男の姿。
ラビが江戸で相手にしたノアの男だ。

「お前ら、先行ってろ。」
「「えっ!?」」
「ユウ?」

神田の申し出にアレンたちは驚きの声を上げる。

「アレは、うちの元帥を狙ってて何度か会ってる。」
「カッ、神田1人置いてなんて行けないよ!」
「勘違いするな、別にお前らの為じゃない…
うちの元帥を狙ってる奴だと言っただろ。」

私は彼の横顔を見上げる。

『…本気?』
「あぁ。任務で斬るだけだ。
…アイツとは俺がやる。」

私は小さく溜息を吐く。
その時、地面が大きく揺れた。

「地震…っ!?」
「ここはまだ新しい方舟へのダウンロードが完了していないだけの部屋レロ。
ダウンロードされ次第消滅するレロ!」

その言葉にアレンは手を挙げ名乗りを上げた。

「僕も残ります、神田!」

―神田のことは好きじゃないけど、こんなところで死んで欲しくはない…―

「みんなはスキを見て次の扉を探して進んで下さい!!僕らもあとから…」
「お前と2人なんて冗談じゃねェよ。」
『そう言うと思った…』
「神…っ!?」

売り言葉にアレンは食ってかかろうとするが、それを神田は刀をアレンの鼻先に突き付け制した。
まるで初めて会った時のように。

「オレが殺るつってんだ。」

ギラギラと殺意を露わにする神田に仲間たちは後ずさる。

「とっととうせろ、それともお前らから斬ってやろうか?」
「「カ…神田さん…」」
「あ?」
「えっちょっ…鬼が出てるんですけど…」
「ほ…本気…?」

―こいつ、仲間を脅してるレローっ!?―

全身からみなぎる殺気…
それが彼の後ろに般若を描く。
そしてなかなか立ち去らないアレンたちに痺れを切らし神田は六幻を横に振った。

「界蟲一幻!!」
「どわーっ!!?」

その蟲たちが私やリナリーを襲わないのは神田なりの優しさ。
私とリナリーは静かに溜息を吐いた。
やっと蟲に解放されたみんなはゼェーゼェー言いながら次の扉へ向かった。

『神田…絶対追い掛けて来なさいよ。』
「…アヤ」

彼は私にブレスレットを渡した。
それは彼がいつも左腕にしている紫色の数珠のようなもの。

「預かっとけ。合流したときに返してくれればいい。」
『…わかった。』

私を安心させるためなのか、それとも彼なりの誓いなのか…
私はブレスレットを左腕にして、アレンたちを追った。


私が去ってすぐ神田をスキン・ボリックの戦いは始まった。
雷を使うスキンとの戦いは周辺に光を放ち続ける。
その光を見て、アレンは呟いた。

「神田…っ、追いかけてこなかったらぶっ飛ばしますよ!」

アレンの精一杯の憎まれ口からも心配しているのが分かる。

『大丈夫、神田なら絶対くるわ。
私にこんなものも預けるんだから。』

私がブレスレットを見せると、みんなは微笑んだ。

「エクソシスト様、あそこに別の建物が!!」
「行くぞ。」

次の扉を抜けアレンたちは進む。
私は扉が閉じる瞬間、その隙間から神田の背中を見る。

『神田、信じるよ…』

ブレスレットにそっと触れ扉が閉じると同時に背を向けた。
神田の「振り返るな、お前らしくもない。」…そんな声が聞こえた気がしたから。

神田とスキンの戦いは激しかった。
いくら傷つけても倒れないスキンの頑丈な身体。
そして早く決着を付けるため、神田は自らの命を刀に吸わせる三幻式を発動。
神田はその力でスキンを傷つけていく。
しかし傷つけるたびに神田の中にスキンの力が溜まっていくのだった。
そして神田の胸から鎖が伸びた。それがスキンと神田を繋ぐ。
直接電気を注がれた神田はボロボロになりながらも戦う。
団服も破れ髪も乱れる。

「首を焼き切るしかないか…」

いくら攻撃しても死なない神田にスキンは近付く。
首を切らないとこの男は死なないと判断したから。
しかし神田の首に手をかけたスキンの背中に刃が突き刺さった。

「この瞬間を待ってたぜ…」

そのまま神田は刀を斜めに振り下ろす。スキンの負け…
しかしスキンの力で六幻も限界だった。

「ノアは不死か…そんなデマ、誰が言ったんだかな
人は死ぬものだ…人で在る限りな…」

そう言って静かに自分の胸元の梵字に触れた。
それが彼の傷が早く治る秘密。
梵字の刺青が広がっているような気がした。

―命を削り過ぎたか…―

その時頭に浮かんだのは少女の顔。

「いつまでも女に心配されるなんてダセェよな。」

自嘲気味に笑いながら、彼は傷ついた身体を引きずるように出口へ向かった。

許スナ…奴ヲ…
イノセンスヲ…許スナ…

怒りのノアであるスキンの中にいる“ノア”はまだ終わらなかった。
神田の耳に「奴を許すな…」という言葉が聞こえてくる。

「うそだろ…まだ…っ」

スキンの攻撃が遠い所にいる神田に届く。

―避ければ、出口にあたる…!―

不意によぎるあの扉に向かった仲間たちの背中、そして彼女の心配そうな、でも自分を信じる真っ直ぐな瞳…

神田は覚悟を決めて六幻を構えた。
しかし六幻は限界だった。
パァンという音と共に砕け散った。
神田の身体をいくつものトゲが刺す。
彼が持つのは刀の柄だけ。

“イノセンス、六幻の死”
その様子を見てスキンは狂ったように笑った。

「やった…壊した…奴を…ギャハハハハ!!!」

だが、まだ終わっていない。

「吸え…ムゲ…ン」

神田の静かな声に答えるように光が走り刀の破片が集まる。

「俺の刀はまだ…死んでねぇぞ…っ」

その声と共に神田は刀を振るう。

「これで、ホントに終わりだ…」
「わかってネェなあ…言っただろ…ノアは不死…だ
まだ終わってたまるかよぉ〜」

笑いながら言うスキンは次の瞬間砂となり崩れた。

「うる…せェよ、終わっとけ…」

神田はその場にがくりと座り込む。
もう身体は限界だ。そして武器は壊れている。

「ちっ…コムイの奴に頭…下げね…と…な…くそ…」

そしてもう1人頭を下げないといけない相手の姿を思い浮かべていた。

「お前は怒るか…それとも泣くか?」

後者だったら困るな、と溜息を吐く。
出口が背後で音を立てて崩れる。

―死ぬのか、あんだけ大口を叩いたのに…―

「情けねぇな…お前にそんなもの預けるんじゃなかったぜ…」

―お前にツライ思いさせるだけじゃねぇか…―

その時、足元の地面が崩壊した。
自嘲気味な笑みを浮かべたまま神田は落ちていった。

「アヤ、何があっても戻ってくんなよ…」
『神田?』
「どうしたの、アヤ?」

長い廊下を歩く私たち。
神田の声が聞こえたような気がして後ろを振り返るが誰もいない。

「アヤ、お前はただ前に進め…」
『絶対に来るんでしょ、神田…』

私の問いは闇に消えていった。
そして腕にあるブレスレットが小さく鳴る。
持ち主の死を悲しむように。
それと同時に私の頬を一筋の涙が伝った。
心が神田の死を感じ取ったのだろう…
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