黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第14夜
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「おやすみぃ…スキン」

薄暗い部屋に追悼の言葉が響く。

「甘党の負け?」
「んーん、アレンたちを先に行かしてひとり残った奴はボクの扉通った感じなかったぁ。」
「相討ちね…」

雑誌で顔を隠したままのロードと、その横でただ椅子に座っているだけのティキを沈黙が包む。
そしてティキの頬を冷たいものが伝った。
それが涙だと気付いたのはロードに言われてから。

「キャハハハ…泣いてんのぉティッキー?」
「勝手に出てきたの。何コレ?
俺らん中のノアが泣いてんのか?」
「あはっ…そぉかもしんない。」

ロードもティキのことを笑うのを止め雑誌をどける。
彼女も金色の瞳から涙を流していた。

「ノアが泣いてるのかもね。」

彼女の声が少し震えている。
そこに露出の多いファンキーなまったく似ていない双子がいた。ジャスデビだ。

「ロード、ティッシュある?」

彼らは部屋に入るなり言った。
まぁ、そう言いたいのも分かる。
彼らの涙は流れるたびに黒くなっていたから。

「あらー…お前らの涙って、黒いんだ?」
「殺すぞっ!バカティキ!!」
「メイクが落ちたんだよ!ヒィ!!」

逆ギレする2人に「分かってるよ…」と呟きながら、ティキはタオルを投げた。
彼らはまたクロスを取り逃がしたらしい。

「クロスってそんなに逃げ足速ェの?
オレ、摑まえられっかなー」
「「オレらの獲物だ!!」」

ティキとジャスデビが言い争っているとデビットの服から何かが落ちた。

「請求書?」
「…それは…」

デビットが冷や汗をかく。
それだけは知られたくないものだったから。

「宿代、酒代、女代?わぁ〜お♪ナニナニィ〜?」
「それはクロスがジャスデビにつけてったヤツっす!」
「は?」
「わっ、バカ、言うな!!」

ジャスデロが口を滑らせた。それも自然に。

「お前ら、逃げられてる上に借金までツケられてんの!?」
「ぎゃはははははは!!!!」

ティキは心底感心したように呟きロードは爆笑し始めた。

「うるせーよ!!笑うなロード!!くそっ、クロスの野郎ぉ!!」

その請求書の中にロードは面白いものを見つけた。

「あれ?この名前〜?」
「あ、クロスの弟子だって。混ざってたんだね、ヒヒッ」

ジャスデビ宛ての請求書に混ざっていた名前…それはロードのよく知る2つの名前。
ニヤっと笑うと悪だくみを考えた子供のように言った。

「ジャスデビ、いいこと教えてあげよっかぁ〜♪」

そこにあった名は“アレン・ウォーカー”そして“羽蝶アヤ”…


「長ェさ、この廊下〜
いつになったら次の扉があんだぁ?」
「ッスね」

ラビのうんざりしたような声が闇に呑まれていく。

「大丈夫、アヤ?」
『どうして?』
「…さっき泣いてたよね?」

小声で言うアレン。

―もう隠し事できなくなってきたわね…―

『神田が…いや、何でもない。』
「?そっか。」

アレンはそして私の手を握った。

「言えるようになったら言ってね。」
『…わかった。』

本当にアレンは優しい。優しすぎる。
すると急にアレンが立ち止まる。

『どうしたの、アレン?』
「なんか今、うしろから音がしたような…」

前を歩いていたクロウリーも後ろを振り返り問う。

「音?どんな?」
「何かが割れるような…」

その時私は気付いた。

『アレン、下見て!!』

大きな亀裂が走り、地面が崩れ始めていた。

『走れっ!』

私はアレンの腕を引き、ひとまず崩壊から引き上げる。
そのまま走り出した。

「来る来る来る来る来るぅ!!」
「いつまで続くんだよ、この廊下ぁーっ!!」

一番前をラビとチャオジーが走り、クロウリーがリナリーを抱え後を追う。
一番後ろは私とアレンだ。
その時、チャオジーがこけた。

『チャオジー!』
「ラビ、アヤをお願いします。」

私の手をラビに押し付けアレンはチャオジーに手を伸ばす。

「道化ノ帯!!(クラウン・ベルト)」

私はラビに手を引かれて走る。
するとラビとアレンの肩を誰かが掴んだ。

「突っ切るぞ、捕まっていろ…ガキ共…」

ちょめ助に渡された血を飲み覚醒したクロウリーだ。
弾丸のような早さで彼は突っ切っていく。
アレンはチャオジーの腕を掴み、私はラビの腕にしがみついた。
振り落とされたら一巻の終わりだ。

「ヒュウ♪さっすがクロちゃん!」
「あっ、あそこ!廊下の終わりだ!!」

アレンの声と共に私たちは次の部屋に飛び込んだ。
周囲に異状がないのを確認するとクロウリーは男たちを離した。
…ということは、私も必然的に落ちるわけで。

「イテッ!」

私はラビの胸の中に落ちたため痛くはなかった。

「乱暴だぜ、クロちゃーん…」
『大丈夫?』
「…それより早くアヤを離してください、ラビ。」

アレンがイノセンスを見せつけながら言う。

「は、はい…すみません。」

私はアレンの手を取って立ち上がる。

『ここもまだダウンロードされてない方舟の空間かな?』
「書庫みてぇさ…」

ゾクッ

嫌な気配を感じた私とアレン、ラビはその気配の方に視線を送る。
部屋の中央にそびえる柱のようなものの上に、私たちとあまり年が変わらない少年が2人座っていた。

「よぉ、エクソシスト。デビットどぇっす。」
「ジャスデロ!2人合わせてジャスデビだよ、ヒヒッ!」

そんな彼らを見て私たちは言葉を失う。

「じ…じゃす…?」

名前を言えないクロウリー。

「またファンキーな奴来たな…」
『まぁ、自分から名前を名乗るのはいいんじゃない?
あぁいうファンキーな奴って、大方人の名前聞いて自分は名乗らないでしょ?』
「それもそうさね…」

変なことで納得する私とラビ。
するとジャスデビは突然叫んだ。

「オレら今、ムシャクシャしてしょうがねーんだわ。
アレン・ウォーカー、羽蝶アヤ!
テメェらにゃ、何の怨みもねェが!」
「クロスに溜まったジャスデビの怨み辛み、弟子のお前らに払ってもらうよ!」
『は?』

それと同時に銃弾が私とアレン目掛けて振ってくる。

「『うわっ!』」
『何なの!?』
「ちょっ!師匠が何て言いました!?」

その問いに答えることもなく、私の前にデビット、アレンの前にジャスデロが来る。
一瞬にして間合いを詰められた。

「師匠のツケは、弟子が払えってんだよ!」

―ヤバイ、避けれない!?―

するとアレンがジャスデロの影から私の所に走ってきた。そして私を胸に抱く。

「装填“青ボム”!」

デビットの叫びと共に、双子の銃に青い弾が装填された。
私とアレンは同時に神ノ道化を発動させた。
白いマントの中、アレンのぬくもりが私を包む。
ドンという爆発音と共に私たちの周りに青白い光が生まれる。
絶対零度の空気を圧縮したような銃弾が打ち出されたらしい。

「銃の威力が変わった!?」

執拗に狙われる私たちを見守ることしかできないラビが声を上げた。

「銃じゃねェよ。“弾”が変わったんだ!」

そこに凛とした声が響く。

「キミたち、師匠を追ってるノアですか?
僕らにウサ晴らしに来るってことは元気みたいですね、あの人。」

アレンの言葉に苦笑しながら私は叫ぶ。

『道化ノ帯!!』

鞭のようにしなり、ジャスデビを横殴りにした。
ようやく解放された私たちの所へ仲間たちが駆け寄ってくる。

「アレン!アヤ!!」
「何?あいつらお前ら狙い!?」
「どうやら…しかも“師匠”がらみの怨みらしい…」

私とアレンが冷や汗を流す後ろでジャスデビが立ち上がる。
さっきの攻撃で本棚にぶつかり落ちてきた本に埋もれていたのだ。

「なんか、楽しくなってきた…」
「ヒヒッ、暴れるの久しぶりだね!」

にんまり笑う双子。
本当にこの状況を楽しんでいるようだった。

「ヒッ!ひとつ聞くけど、お前ら人質にとったらクロスの奴おびき出せる?」
「『まさか』」
「…何も信じてない目さ…」
「ギャハ!信用ないんだね、クロスって。ヒヒッ!」
「じゃ、このゲームジャスデビ参戦〜♪
オレらのウサ晴らしになってもらうぜ、弟〜子♪」

こうして禁断の遊戯が幕を開けた。
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