黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第14夜
6ページ/8ページ

仲間の顔にくっきりと浮かぶ仮面のような紫のペイント
姿を消した敵、ジャスデビ
そして床一面に広がる鍵の山

絶体絶命の状況で、最悪のゲームが始まる…


「この目のペイントっ、全然取れねェさ!」

目の周囲にぺったりと何かが張り付いている感触がある。
不快なそれをラビは腕で拭おうとするが、まったく取れない。

「くそっ、面倒くさい敵だ!!」
「すみません、鍵を盗られるなんて一生の不覚です…」

自分の不注意が招いた事態に責任を感じて、アレンは肩を落としうなだれた。

『アレン、落ち込んでる暇はないわ。』
「そうだよ、アレンくん。」

私たちの優しさにウルっときそうになったアレンが見たのは2人の少女の真剣な顔。

『この床一面の鍵…ただの幻じゃないかな?』
「本当の現実は“鍵は床に1つしか落ちていない”!」
『私もそう思う。』
「…なるほど」

ラビが私たちの推理に頷く。

「ヒヒッ、その通りだよ!ヒッ」
「お前らは出口に辿り着く前にここで全滅だぜ!」

ジャスデビはあっさり床に広がる鍵が幻だと認めた。

「本物の鍵はホレ!そこにポトリと落ちてんだぜ!拾いたきゃ拾えっ」

ちゃりんと鍵が床に転がった音がした。
音だけではどこに転がっているのか分からない。

「お前らの目が騙されてる限り」
「騙してる側のジャスデビの姿は映らないよー!ヒヒッ」

ニヤニヤしている彼らの顔が浮かぶ。
そして“チャキッ”と銃を構える音が聞こえた。

「「死んでっちまえ!!」」

姿の見えない双子の声が響いた。
それと同時に私たちの頭上に出現した8つの炎の塊。
あまりに唐突の出来事…
だがその塊は待ってくれない。

「どわぁっ!!」

落下してくる炎の塊にエクソシストは息を飲む。
どうにか私やアレンはそれらを避けたが、一般人のチャオジーは背中に大火傷を負ってしまった。
その様子を見たアレンは怒って叫んだ。

「この部屋のどこかにはいるんでしょう…!?」

そして左手を構える。
白銀に輝く鋭い爪に宿る光が、煌めき、王冠の形をしたリングへと姿を変える。

「爪ノ王輪!!!(クラウン・エッジ)」

アレンが腕を振るうと、王輪型のエネルギー弾が四方八方へ飛ぶ。
部屋全体を次々に粉砕していくアレンの攻撃…
私はそれを途中で制した。

『アレン、やめて!扉や鍵に当たったらどうするの!?
それに、仲間も巻き込んじゃうわ!!』
「うっ…、そうか」

納得して手を下すアレンを嘲笑うように、ジャスデビが声を上げる。

「「当たるか、バァーカ!!緑ボム!!」」

その言葉の通り、背後から得体の知れない緑色の何かが飛んできた。

「アヤ、危ない!!」
『!!』

私を庇うように抱きしめるアレン。
だが緑色の物体にぶつかった途端、想像とは違う“ぼよん”とした弾力に包まれた。
そして私たちはその塊に閉じ込められた。
それはまるで水風船のよう。中は完全な水だった。

―い、息ができない…―

このままでは溺死してしまう。
慌て始めたところにラビが駆け寄ってきた。

「アヤ、アレン!!待ってろ、今出してやるさ!」

彼は私たちを捕らえた塊に槌を向ける。

―バカ、ラビ!!それは…―

それも既に遅く…

「火判!」

ラビが迷わず繰り出した直火判により緑色の塊は炎に包まれる。

「あちちちっ!!!」
『馬鹿!!少しは考えなさいよ!!!』

助かったものの、運が悪ければあのまま蒸発していただろう。
熱い身体を冷やそうとアレンは冷たい床に転がり、私はラビの頭を殴った。

「痛いさぁ…」

そう言いながら、ラビは私に不敵な笑みを送った。

「この騙しメガネはオレが解いてやるさ。」

床に散らばった鍵は本物にそっくりだが、ただ真似ただけの幻

「オレの本職さね!
傷や汚れ、メッキの剥げ模様まで、本物の鍵は1度見た時、頭に記録してある。
こんなメガネでブックマン後継者が騙されっかっつの!」

誇らしげに笑うラビに、アレンは頼もしそうに頷く。

「よし!じゃあ1分で探してください!」
「イヤ、それは無理!!」

あんまりな無茶を言うアレンにラビは盛大にツッコむ。

『量が多いのを忘れちゃ駄目よ、アレン。』
「そっか…」
『よろしくね、ラビ。』
「あぁ、任せとけって。」

口角を上げるラビに私も微笑みを向ける。
そして敵に向かって足を進めようとした時、アレンに腕を掴まれた。

「アヤ、あの双子は僕がいく。
だからアヤは本物の鍵が見つかるまでリナリーとチャオジーを守っててくれないかな?」
『えっ?どうして!?』
「少しでも戦力を残しておいたほうがいいでしょ?
この先にはまだ敵がいるんだから。
それに見えない敵との戦いで仲間を巻き込みたくない。」
「分かってやれよ、アヤ」
『…うん。気を付けてね、アレン。』

彼は優しく微笑み私の頭に手を乗せる。

「ラビ、鍵を見つけたらすぐにアヤとリナリー、チャオジーを連れて逃げてください。
クロウリーもすぐに投げ込みますから。」
『アレン!まさか1人で戦うつもり!?』

彼を止めようと手を伸ばした瞬間、アレンに突き飛ばされた。
それと同時にアレンはジャスデビの攻撃によって弾き飛ばされる。

「アレンッ!!」

ラビが叫びながら倒れそうになった私を支えた。

『自分勝手にも程があるよ、アレン…』
「…そういう奴さ、アレンは。」
『お願いね、ラビ。』
「あぁ。」

私はその答えを聞くとリナリーとチャオジーの所へ走った。
アレンはクロウリーと共にジャスデビと戦っている。
クロウリーは双子の居場所が分かるらしい。

『チャオジー、背中の火傷を見せてくれる?』
「え…?」
『簡単にだけど、手当てするから。』

そう言いながら腰にあるポーチを探る。
そこには薬、包帯、ガーゼなど手当てをするための道具が入っている。
チャオジーの背中の傷を消毒すると、彼が小さく呻き声をあげる。

『ごめん、ちょっと痛むけど我慢して…』
「どうってことないッスよ…」

そして包帯を巻いて、手当てを終えた。
すると部屋の真ん中にあるオブジェの上に、人影が降り立った。…ラビだ。
彼は木判を発動させ、風を起こす。

「木判!…風よ!!」

強烈な風が部屋を駆け抜け、鍵が音を立てながらラビの周りに集まっていく。
繭のようになった鍵の渦の中、ラビは自分の記録した本物の鍵と、その他の幻を照らし合わせていく。

―さて…と、左眼だけでメッチャ速!とはいかねぇけど…
愛しの彼女にいいトコ見せますか!―

小さく微笑み、彼の瞳が闇の中で輝いた。

『ラビ…頑張って。』

アレンはクロウリーの指示に従いジャスデビを捕らえた。
しかし捕まえていたはずの2人がいつの間にか気持ちの悪いものに変わっていた。
いくらもがいても逃げられない人間の臓器のような物体。
ソレにアレンとクロウリーは捕らわれてしまった。

「アレンくん!」

チャオジーを近くの壁にもたれさせていると、リナリーがアレンたちに向かって走り出した。
彼女の脚は今、イノセンス開放の影響で思い通りに動かない。
だから途中で転んでしまった。

『リナリー!!』

彼女に走り寄る途中で感じる違和感。
近くに2つの気配がある。
私はリナリーをムリヤリ立たせると目を閉じてその気配に集中した。

「アヤ?」
『ちょっと黙ってて?』

そしてイノセンスを発動させた右腕を振るうと近くでジャスデロの声がした。

「うわっ!」
「どうした、ジャスデロ!!」
「この女、僕らの居場所が分かるみたい!ヒヒッ」
「あの吸血鬼のおっさんと一緒か!?」
『気配だよ…あんたたちの気配って分かりやすいわ。』

そのまま気配を追って攻撃を繰り返す。

「面白いね、ヒヒッ」
「こっちだよ、クロスの弟子!」
『呼んでくれるから助かる!!』

見えない敵との戦いに視覚は必要ない。だから目を閉じる。
身体に感じるイノセンスの力に任せて、腕を振るう。
だから気配を追うことだけに集中する。

「でも、いいの?こっちの女は?」
『っ!!』

リナリーのことを言われ私は目を開く。
そして集中力も切れてしまう。

―しまった!!罠か…―

彼女は何事もなかったかのように先程と同じ場所にしゃがんでいる。

「バァーカ!!」

デビットの声が近くでして頭を殴られた。
銃のグリップで強く殴られたため、痛みよりも先に視界がブラックアウトした。
瞬間的な痛みで意識が一瞬飛び、地面に身体を強く叩きつける。

「アヤ!!」
『来たら…ダメ…リナリー…』

その後、見えない敵に数発殴られ血が飛んだ。
頭から生ぬるい血液が顔に流れていく。
右目の前にも血が流れてきて、視界がぼやける。

「アヤ!」

動かない脚を引きずってリナリーが私の身体を抱き起こす。
ジャスデビはそんな私たちを一瞬でゴムのようなものでできたボールに閉じ込めた。

「「お姫さまゲット〜!!」」
「アヤ!大丈夫!?」
『…ぅ…ん』

意識が朦朧としてきちんと言葉にならない。
リナリーが私の名前を呼ぶ声が響く。
それを聞いたアレンの中で何かがキレた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ