黒白Rhapsody(D.Gray-man)
□第15夜
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ティキと向き合うように私とアレンが座る。
私の左側にリナリーとラビ。
右側にアレン、そして彼の隣にチャオジーが座る。
全員が座ったのを確認し、ティキが皮肉たっぷりの笑顔を浮かべた。
「さて、やっとゆっくり話せるようになったな、少年。
お嬢ちゃんとも話したかったんだ。」
私たちは警戒を解かずに睨み続ける。
「そんなカオすんなって…
罠なんて仕掛けてねェよ。イカサマはしないって言ったろ?」
そんななか、ロードがゆっくりアレンに近付き抱きつく。
私は溜息を吐いてそれを見過ごす。
「大丈夫だよぉ、アレン♪
ボクの扉はこの塔の最上階にちゃんと用意してあるから。」
「…ちゃんと外に通じてればいいんですが。」
「ふふ♪」
『はぁ…早く話を終わらせましょ。』
「話したいことって何ですか、ティキ・ミック卿?
それとも“手癖の悪い孤児の流れもの”さん?」
飄々とした態度を崩さないティキに私たちは感情を押し殺したような声で問う。
「そうツンツンするなよ。
ノアをパンツ一丁にしたエクソシストなんてお前らが初だぜ?オレらって縁あると思わん?」
「『別に。』」
「カードでパンツ一丁にした人なんていっぱいいますから。」
「おおう、黒い発言!」
なかなか本題に入らないティキに私から声をかけた。
私は右手を、アレンは左手をテーブルの上に出し見せつける。
『このイノセンスのことでしょ?』
そう尋ねれば、ティキが話は早いというようにニッと笑った。
「実はけっこー衝撃的だったんだよね。
確かに壊したハズなんだけどな。」
「壊せてなかったんでしょう?ここに在るんだから。」
火花が散りそうな視線の応酬
私もその激しさに恐怖を抱く。
「あっ?イノセンスに興味出てきたぁ?ティッキー?」
「ちょっと出てきた、
じゃさティーズに心臓喰われても生きてたのは、そのイノセンスのせいなワケか?」
『あっ、ティキ!』
分析するように言ったティキの言葉に、ラビとリナリーががたんと音を立てて椅子から腰を浮かせる。
「心臓って…っ!!?」
「聞いてねェぞ、おいアレン、アヤ!
お前らそんな傷負ってんのか!?」
『心配させたくないから黙ってたのに…』
「イノセンスの一部が心臓の一部になってくれてます。問題ありませんよ。」
―…ッアレンも…そのうえアヤまで…ッ!?―
イノセンスが適合者を救う…これは〈異例〉だ
師であるブックマンの言葉を思い出す。
ブックマンはリナリーのイノセンスが適合者である彼女を救った時、彼女のイノセンスがハートかもしれないと疑った。
しかし今ラビの目の前にはアレンにアヤ…3人の異例が揃っている。
―マジか…リナリーだけじゃなかった…!
アレンとアヤもイノセンスに助けられてる。
異例が3人…“リナリー・リー”、“アレン・ウォーカー”と“羽蝶アヤ”
リナリーの「異例」=「ハートの可能性」ってのは安易すぎたのかもしれんさ!
ハートはひとつとされている。―
ハートはひとつ…
なのに師が記録している数百年の歴史の中で、ほぼ同時に起きた3つの異例…
偶然とは考えにくい。
何かの引き金になっているのではないか?
―この〈異例〉には他の意味があるんじゃないのか…?―
ラビの表情は一瞬消えた。自我を失ったかのように。
その表情はブックマンが人から“歴史書”になる時に見せるもの…
キロクしたぁ、ブックマン?
そんなラビの脳に直接届いた声。
無邪気で暗い闇の声…
顔を上げるとにっこり笑い、「シィー♪」と言うロードがいた。
初めての彼女との対峙にラビの背を冷や汗が流れる。
ラビは自分の奥にある暗い場所を見られた気がした。
「ロード、そろそろ少年から離れてくんない?」
不意にティキが言った。
「えー愛してるのにぃッ」
「あの…」
『いい加減にして、ロード…』
私が嫉妬していることにアレンが喜ぶ余裕なんてない。
「コラコラ、エクソシストとノアの恋は実らねェぞ。」
―恋とか言うな!―
アレンがティキを睨む中、彼は立ち上がった。
『ティキ…アレン、もう冗談を言ってられる状況じゃなくなったわね。』
「…うん。」
空気が変わった。
煙草を吸うティキは人間らしいが、そこから放たれる気はノアのものだった。
「オレね、千年公の終焉のシナリオっての?遊び半分で参加してたんだけどさ…
退治?本気でやんねぇとなってのが分かったわ。」
ノアとしての自覚が生まれたティキ・ミック。
私たちが死んだ夜より強い殺気を感じる。
その時、ティキの蝶、ティーズがリナリーの肩に止まろうとした。
私はすぐに彼女に抱きつき神ノ道化を発動させて庇う。
アレンは立ち上がり左手で蝶を壊した。
そんな彼の目は私と共に歩むと約束したあの日の面影があった。
未来を見つめる真っ直ぐな瞳…
私の大好きな光…
『アレン…』
私の胸にいるリナリーもアレンを見つめる。
『ティキ・ミック…私たちも1つ言いたいことがあるわ。』
「これ以上僕らの仲間に手を掛けたら…
僕らは貴方を殺してしまうかもしれません。」
“殺す”という私たちらしくない言葉にリナリーは目を見開く。
アレンはリナリーを私に任せると、長いテーブルを一気に飛び越え敵との間合いを詰める。
「少年の事は嫌いじゃないんだがな…」
ティキとアレンがぶつかりあい大きな音が響く。
「アレンくん…」
『リナリー…アイツは私たちが殺る。信じてて…』
「アヤ!!」
『行ってきます、リナリー』
微笑めば何も言わないリナリー。
私はアレンの元へ走った。
方舟消滅まで 刻限間近…
「ラストダンスと行こうぜ、少年」
ノアとの血の饗宴が始まった。