黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第22夜・番外編1
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リナリーとジョニーは赤い人たちが見張る図書室に通された。

「!ジョニー!」
「リナリー、これ何?なんで長官が…?」
「内密で中央庁から直接こっちに来てたみたいなの。私何も聞いてなくて。
アレンくんとアヤは!?」
「腕を拘束されて連れて行かれた。
オレ…ついてくの止められて…
リナリー、2人大丈夫かな。
アヤは“大丈夫”って言ったけど。
なんか…イヤな予感がすんだけど。
あいつら…ちゃんと戻ってくるかな?」

リナリーは私たちの身を案じ涙を流しそうな顔をした。
そして何も出来ない自分の無力さに溺れるのだった。


長官と共に通された部屋で私たちは着替えをするよう言われた。
女である私は別室で。
だが拘束は解かれないまま。

「身体が少々重いでしょうが、害はありません。
腕を拘束するためだけの術ですので。」

私の右腕、そしてアレンの左腕には術がかかった白い帯が巻かれている。
発動はおろか動かすのも一苦労だ。

『“少々”じゃないわ。“とてつもなく”重いんだけど!!』
「着替えがあるならその後にかけても…」
「できんことはないでしょう。」

私たちは白い袖のない服に着替えていた。
だがそれだけで汗だくで息も上がっている。
ルベリエはそんな私たちに目もくれず、のんびり紅茶を啜っている。
赤い人は私たちの腕の拘束を続け、まるで手錠を付けられたかのような体制になる。

【仲間なのに、ここまでするなんて。】
【違うわ、アレン。仲間かどうかこの人たちには疑われてるのよ。】
【そっか…でもここまでくるとさすがに…】
【えぇ。この任務、表向きはゲートの設置だったけど、本当の目的はこれだったみたいね。】
【僕らを尋問にかける気かな。】
【さぁ。どうにかするしかないでしょ。】

私たちはその後、暗い廊下を赤い人々に連れられて進んだ。


部屋に残されたルベリエ、コムイ、ラビ、そしてブックマンは話を進める。

「長官、彼らの命に危険が及ぶことはありませんね?」
「もちろんです、室長。
いい子にしていてくれれば“何も”しません。」

冷たい視線が交わされる。
その様子を見ながらブックマンが小さな声でラビに伝えた。

「ラビ、お前には小僧たちの方を任せる。」
「え、いいのか?」
「ワシにはみておくものがある。
くれぐれも規約を忘れるなよ。
今宵ワシらはブックマンとしてここにいるのだからな。」

ラビはその言葉を胸に秘めると部屋を出て私たちが向かう部屋に先回りした。
黒い服のフードをかぶり、部屋の隅に立つ。他の赤い人々もいた。
そこに立つラビはいつものチャラいラビではない。
次期ブックマンとしてのラビだった。

私たちはラビが入った部屋の前で足を止めた。
そこに彼がいることを私たちは知らない。
私の肩にリリーが乗り、そっと頬ずりする。

『平気よ、リリー…』

アレンの肩にも同じようにティムが乗っている。
赤い人々はドアの両端に避ける。そして静かに言った。

「クロス・マリアン元帥がこの扉の先におられます。入られよ。」
「『!!!』」



「死んでんの?」

犬の死体を前にしたピエロに左腕の赤い茶髪の少年が言う。
犬は埋められ、その土でできた山の上には生前にピエロとして身に付けていた星柄のボールが置かれる。

「死んでたんです。」
「…痣だらけだね。」

少年はポケットに手を突っ込んでただ見つめるだけ。

「コジモが殺ったんだ、ゼッタイ。
あんたアイツより客のウケよかったからさ。
自分より上手い芸人が来ると嫌がらせすんだよ。
芸はクソなのに、こーゆうのは上手いんだ、アイツ。」

少年の言葉を聞いてもピエロは諦めた様子のまま。

「もう随分な老犬でしたし、そう長くは生きられなかったでしょう。もういいです。」
「…ふーん、仇をうちたくないわけ?」
「そんなことしたら座長に追い出されてタダ働きになってしまいます。」

―ケッ―

少年がつまらなそうな顔をする隣でピエロは愛犬のために両手を合わせた。

「僕は所詮余所者ですから、明日のクリスマスが終わればまた別の土地に移りますので…」
「あっそ」

すると今更ながらピエロが首を傾げた。

「おや?ところでキミ、誰でしたっけ?」

面倒くさそうに少年は答える。

「ここの雑用係だよ…あんたにもメシ配りにきただろ。」
「僕、人の顔覚えるの苦手で。」

そしてピエロは少年の顔をじっと見る。

「あらっ、よく見るとキミも痣だらけじゃないですか!?」

ピエロは突然自分の唾を少年の傷につけた。

「どわっ!!汚ねッ唾つけんな、バカ!!」
「消毒れす。コジモさんに殴られたんですか?」
「うっさいな」
「キミ、友達はいます?」
「うっさい!」 

表情の分からないピエロの言葉に少年は苛立ち始める。

「こんなトコ…
大人になって強くなったら出てってやるんだから友達なんていらねェんだよ。」 

そんな少年を笑わせようとピエロは頬を両手で押しつぶし変な顔をした。

「なにしてんだ」
「面白くなかったですか?」
「悪いけどオレ、ピエロとか好きじゃねェから。ていうか、キライ?」
「あらら…僕も笑わない客と子供はキライですねェ。」
「フン」

ピエロの言葉に少年は鼻を鳴らす。

「あんた…なんで泣かねェんだよ。
こいつと一緒に暮らしてたんだろ。
悲しくないワケ?」

ピエロは近くの木にロープをかけて首吊りの真似をする。

「死ぬ程悲しいです。」
「やめろよッ!!」

コイツ、ヤバイ…?と思いながら、少年はピエロに注意する。
するとピエロはロープを片付けながら小さく呟いた。

「僕ね、泣けないんですよ。
涙が枯れちゃってるのかな。
どうにも出ないものでして。」
「なんだよ、それ。」

少年は前日の出来事を思い出しながら悲しそうに口を開いた。

「こいつなんて名前だったの?
昨日なでてやったら、オレのこと舐めたんだ。
あったかいベロしてた。」

そう言う少年の顔はいつの間にか涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「だから今日も…
なんでそんだけのオレが泣くんだよ。
わぁ〜〜〜〜〜〜」

少年は声を上げて泣いた。

「そうでしたか。」
「わぁ〜〜〜〜〜〜ん」
「キミはアレンのお友達だったんですね…」
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