黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第22夜・番外編1
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アレンと共に扉を越え部屋に足を踏み入れる。
そこは応接室のような場所で窓際にクロス・マリアンは立っていた。
私たちが入ると男たちによって術が張られた。

【見張りか…】
【コイツらは確か…“鴉”と呼ばれる人たち…】

アレンが真っ直ぐクロスを見つめるなか、私は壁にもたれかかって立っている黒いフードを被った人物に目を止めた。

―ラビ…ブックマンとしてここにいるのね…―

彼はそこで考えを巡らせていた。

―中央庁の暗部で活動する特殊戦闘部隊“鴉”
コムイが中央庁を脅威に感じるのはこの部隊の影響が大きい。
その戦闘力はズバ抜けてると聞く。
ここまで3人…いや、アレンと元帥か。
警戒する中央の意図はやっぱ…―

すると彼と私は目があった。
私は小さく微笑むとクロスに視線を戻すのだった。

―アヤ…―

ティムはクロスの頭に乗り、私はアレンの寂しそうな横顔を見つめる。

「…マナは“14番目”と関わりがあったんですね。」
「ああ。“14番目”には血を分けた実の兄がいた。
“14番目”がノアを裏切り、千年伯爵に殺される瞬間までずっと側にいた、ただひとりの人物。
それがマナ・ウォーカーだ。」
『ウソ…』
「兄弟…マナと“14番目”が…」
『マリアン…貴方はずっと知ってたのね?』
「知ってたさ、ずっと。
オレは“14番目”が死ぬ時、マナを見張り続けることを奴と約束した。
そうしていればいつか必ずマナの元に帰ってくると、お前がオレに約束したからだ、アレン。」

クロスはこっちをゆっくりと振り返る。

「いや?“14番目”。」

その場の空気が一瞬凍りつき、すべての人物が言葉を失う。

―“14番目”がマナの弟…!?
そしてマリアンはずっとマナを見張っていた?
それなら私がアレンと出逢ったのも偶然では…ない?
すべては決められていたことなの?―

冷静な顔をしていたラビも同じように自身の中で奮闘していた。

―今、何て言いやがった!?
待て、アレンと“14番目”の繋がりはあったとして…アヤは?―

そんな私たちにクロスは冷たく言い放つ。

「覚醒はまだだろうが、自分の内に“14番目”の存在を感じ始めてるんじゃないのか、アレン。」
「は?何をいって…」
「そしてアヤ…
その右目に呪いを受けた時、お前にも“14番目”の記憶が流れ込んだはずだ。
自分の内に覚えもない存在があることに気付いているだろう?」
『そんなこと…』
「とぼけるな。
お前らは奏者の唄を知っていた。それは奴の記憶だ。
アレン、お前は“14番目”の“記憶(メモリー)”を移植された人間。
“14番目”が現世に復活するための宿主だ。
…アヤ、お前は巻き添えを喰らった生贄となる惨めな子羊なのさ。」


その頃、リナリーとジョニーは図書室で静かな時を過ごしていた。
見張りはいない。窓の外は大雨だ。

「あ―――――っ、気になって本なんて全然読めねェ!!」

読もうとしていた本をジョニーが破り捨てる。

「雨…やまないね。」
「そ、そだね。オレ、雨嫌いだよ。
なんだかウジウジしちゃって。」
「…うん。」
「「…」」

そしてまた無言。
時計は午前2時過ぎを指している。
その時計の針が時間を告げる音だけが図書室に響いている。

「2人が戻ってくるまで起きてよーなっ、リナリー。」
「うん!」

2人はソファの上に体育座りをして決意するのだった。


アレンはクロスの言葉に硬直した。
それでもクロスの言葉は続く。

「方舟で奏者の唄を知っていたのも、弾けないはずのピアノが弾けたのも、“アレン(お前)”じゃない、
全部“14番目”のメモリーだ。
アヤも唄のメモリーだけ入れられていたから歌えたんだろう。
お前ら、あン時、あそこで何か見ただろ。」
『…』

クロスがチラッとこちらを見る。
私はその目を真っ直ぐ見つめ返したが、アレンは固まったまま反応しない。
私の目を見つめたクロスは一瞬哀しそうな表情をしたが、すぐに元の顔に戻った。

「オイ。」
『ア、アレン!!』

しかし時既に遅し。
クロスはアレンの前に立つと、右手を高く振り上げていた。

「はっ」

バチィン
ドタタッ
ゴンッ

スピーカーを通して聞いていたルベリエやコムイ、ブックマンがその物音に呆然とする。

「とまんじゃねェよ。話が進まんだろが。」
『マリアン、やり過ぎ…』
「イッッタ…」

アレンの左頬が赤く腫れ、口の端から血が流れる。
床に倒れたままアレンは師に問う。

「い、移植って…いつ…?」
「あ?あ―――――
ワルイが、そこはまったく知らん。」
「『はぁあッ?』」
「まて、大体はわかる。多分アレだ。
“14番目”が死ぬ前だ。」
「それわかんないんじゃん!!」
「ああ?ンだテメェ。ワルイつってんだろが。トバせッ、そこは。」
『アッバウト…』
「アヤにメモリーが流れたのはあの時で間違いねェ。」
『まぁ、他に接点ないものね。』
「あぁ。…俺だって半信半疑だったんだ。
お前が現れるまではな。」

アレンを見つめるクロスの声は少し哀しそうだった。

「伯爵を殺そうとした奴の有様は地獄だった。
マナとふたりでノアの一族と殺し合いの逃亡生活。」

その言葉をアレンは床に座り、私は彼に寄り添うようにしゃがみ込み聞く。

「“14番目”にとって“いつ”“ダレ”になんて構っちゃいられなかったんだろ。
チャンスがあったときにたまた手近にいた奴を宿主に選んだ。」
「それが…僕…?」
「運がなかったな。
移植された“メモリー”は徐々に宿主を侵食し、お前を“14番目”に変えるだろう。
そしてその時、アヤの身体は消える。
アレン、お前とメモリーが1つになるからだ。」
『そんな…』
「兆しはあっただろ?」

私とアレンの頭に2人にしか見えないあの人物が浮かぶ。
私はアレンの肩に額を当てる。
そこから彼のぬくもりが伝わってくる。

「そうゆう…こと…」
『ア…レン…?』
「なんだ、それ…」

彼が俯いていつもより低い声で言う。

「マナが愛してるっていったのは…僕か、それとも…どっちに…」

マナの最期の言葉、“愛してる”。
それは私も聞いたもの。

「マナは“14番目”が死んだ日におかしくなった。」

クロスが私たちの前で膝を折り、身体を低くし目線を合わせながら言う。

「過去を覚えていたかどうかもわからん。
ただ外野で見てた俺にはな。」

クロスはピエロにおんぶされて行く少年の後ろ姿を思い出していた。

「…皮肉だな。」

―こんなガキだったとは…
それだけじゃねェな。この2人の出逢いは偶然ではなかったのかもしれない…
俺がアヤを拾って、そのままマナを追い掛けた…
だからアレンと出逢ったのだから。―

クロスは私をすっぽり胸に包み込み、続いてアレンの頭を抱く。
私は2人に挟まれるようにして、クロスの胸に身体を預けていた。

「宿主なんざ、もっとくだらない奴がなってりゃよかったのに。」
『マリアン…』
「ガキを2人も巻き込むなんて神も酷いものだ。」

―結局何かを守るためには何かが犠牲になるってことか…―

彼は吸っていた煙草をティムに食べさせる。

「ティエドールのことも笑えんな、まったく…」

次に彼が放った言葉は私とアレンの胸に突き刺さった。

「“14番目”に為ったら、お前は大事な人間を殺さなきゃならなくなる…って言ったらどうする…?」
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