黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第25夜
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ティモシーは回復した院長と共に教団の中庭にあるベンチに腰かけていた。

「マシューとエヴァの熱がやっと下がったの。
これでみんなもう心配ないってお医者さまも言ってくださったわ。」
「オレがみんなを元気にしねェと承知しねぇぞって、ビシッとかましてやったからね。」
「まぁそうなの?ビシッと?」

院長は優しくティモシーに語りかける。

「うんっ、ビシ〜〜〜〜ッて!
エクソシストってエライんだぜっ。
みてホラ!この服も!すっごい金かかってんだよっ」

ティモシーは自分の来ているエクソシストの団服を見せながら言う。

「メシも豪華で食い放題だしさ。
風呂なんかメッチャでかいんだぜっ」

そんな彼に院長は笑顔で言う。
寂しくて、いつかくると分かっていた現実を…

「明日ね、ここを発つわ。
新居が決まるまでロンドンのフェデリコ司祭のところでお世話になることになったの。
安全なんですって。」

そのうちに院長とティモシーの目から大粒の涙が流れ始める。

「そっか。それもオレがビシッとかましたからね。当たり前じゃん。」

2人は互いを見つめてただ涙を流す。

「ハナミズでてるよ、せんせい。」
「そう?」
「でてるよ、すごい。超でてる。」

そう言うティモシーの顔も涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

「顔を洗えばダイジョブよ。」
「…うん。」

院長はティモシーを胸に抱く。
沈んでいく太陽が優しく2人を包み込んだ。


そんな2人を見つめて微笑む2人の人物がいた。

「院長先生ってさ、天然ポイとこがマナとちょっと似てんだよね…」
『ふふっ、私のお母さんにも似てるわ。』

自室の窓から2人を見る私とアレン。
私たちの背後には机に向かって仕事をするメガネを掛けたリンク。
私とリンクの頭には包帯が巻かれ、アレンには冷えピタが張られている。
私とアレンの顔には絆創膏。
熱っぽいアレンは頭に氷袋も乗せている。
私の足には簡単なギプスがされ、動くのに支障はない。あと数日で完治するらしい。
椅子に座って窓の外を眺めるアレンはティムを抱き、
私はアレンの座る椅子の横の床にリリーを頭に乗せたまま座っている。
そのまま窓の外を見て、ただただ優しく微笑む。
窓に映る彼の顔は穏やかだった。

「ティモシーは昔の僕にちょっと似てる。だからわかるよ、あの子の気持ち。」

リンクは立ち上がって私たちを見る。

「…キミからマナの話をするのははじめてですね。」
「へ?」
『…いわれてみると、』
「そうかもしれない…」

驚いた表情だったアレンはすぐに口角を上げて椅子から立ち上がる。

―今の笑みは心からのもの…本物のアレンの笑顔だわ…―

私はそれを見て嬉しくなって笑う。

【アヤ…】
【どうしたの、優しく笑ってるアレンくん?】
【アレンって呼んでよ(苦笑)
…僕って笑って語れるんだね、マナのこと。】
【マナのこと好きだったんでしょ?それなら当然よ。】
【そっか…】

アレンはベッドに倒れこむ。
その勢いでティムが転がり、ボタンを止めていないシャツの前が開く。
そこから剣の刺さった痕と大きなガーゼが現れる。
私はアレンの胸に飛び込む。
彼は私を受け止めて背中に手を回す。
そして私たちは笑った。

「リンクが空気になってきたってことかなぁ」
「空気!?」
「『ははっ』」

【つらかったことも笑って話せるようになるのよ、アレン…】
【アヤ?】
【私が日本での悲劇を思い出したように、家族のことを話せるように。
笑って語れる…そんな日がいつか来るって、信じていれば…】
【…そうすれば、必ず…】
【だからさ、頑張ろう?】
【…一緒にね。】



私はその夜、アレンの隣で彼の見ている夢を傍観していた。
心で会話ができるようになってから、お互いに同じ夢を見ることが増えたため、この日も特に気にすることはなかった。

アレンは自分の剣で瓦礫を背に突き刺されていた。
口の端から血が流れ、瓦礫には血が飛び散っている。
私はそんな彼を遠くから眺めているだけ。
彼は私の存在に気付いていないかもしれない。
そんな私に彼が聞いている声や、彼の心の声が聞こえてくる。

[じゃあくなものだけを…?
じゃあおまえはなぜくるしんでいる?]

怪盗Gの任務のとき、アレンがレベル4に言われた言葉。
それが聞こえた瞬間、刺された状態でアレンは目を開いた。

「憐れな子、14番目に憑かれたその身に罪がないわけないだろう。」

空から聞こえてくる不思議な声。それはまだ続く。

「数多の汚れた魂を救済したのはおまえではなく神の左手。
おまえもまた救済されるべきひとつなのだよ。
おまえも、あの女も…」

―私のことだ…―

そのときアレンは自分の周囲を見渡した。
空に続く3本の雲。飛行機雲だろうか?
そして周囲に広がる建物の残骸。

―ここは、どこだ…
あぁ、なんだ。これ、夢か…
しかも嫌な夢だな。起きろ、起きろ〜―

彼は遠い目で早く目覚めることを願う。
そこに私でもアレンでもない人物が現れた。

「“アレン”!」

それはピエロ。アレンが私と旅をするときによく扮していたピエロと同じ…

「そんなトコで、何刺さってんですか。“アレン”てばっ」

きょとんとした顔でアレンはピエロを見つめる。

「ほらほら、“アレ●”、はやくッ。お客が待ってます。」

―マ…ナ?―

「ずっと待ってたんですよ、“ア●●”!ほら〜〜〜〜っ」

―前言撤回…―

アレンはゆっくりマナに向かって手を伸ばす。
その手はマナに触れる前には、彼に出会ったころの幼い手に変わっていた。

―いい夢だ…―

イノセンスを宿した赤い手をマナと繋いで、2人は瓦礫の中を走る。
…私の前を通り過ぎて行った。

「急げ、急げ“●●●”〜〜〜〜〜っ」
「ちょっ、おいマナっ」

アレンは小さな体でマナの背中を必死に追う。

「僕は“●●●”じゃないよ。
アレンてちゃんと呼んでよ。呼ンデ…」

そして私は彼と共に目を覚ました…
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