黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第25夜
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私の隣でアレンが体を起こす。
上着を着ないまま寝ていた彼は体中にガーゼや包帯が巻かれている。
剣が刺さった痕も痛々しい。
額に乗せていたタオルも落ち、私は彼が動くのを感じながらうっすらと目を開いた。

『ア…レン…?』

彼は私の声に反応しない。
彼が起き上がったことで一緒に寝ていたティムとリリーが目をこする。
トイレ?というようにティムは眠そうな顔をこちらに向ける。
私はその瞬間、月明かりに照らされたアレンの顔を見た。
冷たく暗い目、そして全身から放たれる黒いオーラ…

―剣に刺されたときと同じ…?14番目なのっ?―

彼はティムをギョロっと睨み、私をチラッと見て小さく微笑んだ。
どこか憐み、嘲笑うように…

「アレンくん…アヤ…」
『っ!』

私ははっとして隣のベッドを見る。
それは元々リンクのもの。
しかしそこには今起きたばかりのようなリナリーがいた。
団服を着ていることから任務帰りだとわかる。

「起きたの?やだ、私監査官のベッドでうたた寝しちゃった…」

彼女はむくっと体を起こしながら言う。

「任務帰りにお見舞い来るもんじゃないねぇ。あはは。
熱どう、ひいた?」
『おかえり、リナリー。
ほら、アレン!何ボーっとしてるの?』

私の言葉に漸くアレンが正気に戻る。
そこにいたのは目をパチクリさせる、いつもの優しい表情の彼だった。

「リナリ…?」

そこにリンクの怒声が響く。

「リナリー・リー、起きたのなら出てきたまえッ!!!」
「あ…」

リナリーが扉を開けに行く。

『アレン…』
「ん?」
『さっき…ちょっと…』
「どうしたの?」
『いや、いつものアレンじゃなかった気がして。』
「…またか。」
『見間違いかもしれないし、気にしないで。
それより、そのままだとまた風邪ひくよ?
上着ぐらい着てないと。』
「あっ、寒いと思った。」
『はぁ…』

そしてリナリーの後ろからひょこっと顔を出す。
扉の隙間に3人は顔を縦に並べるようにして、外にいるリンクを見る。

「何してんの、リンク?」
『寒そう…ブルブル震えてるじゃない。』
「えっ、まさかずっと廊下で待ってたの!?」
「いくら私でも婦女があられもなく寝た空間で仕事ができるか―――――!!」
『あれっ、私も女だけど?』
「貴女には慣れました。それにウォーカーがいます。」
『あぁ、なるほど…』

リンクは怒ったまま言葉を続ける。
ティムはその会話を聞きながら、さっきのアレンを思い出していた。
まぁ、そのまま再び眠ったけれど。

「今度私の仕事を妨害したら訴えるぞ、リナリー・リー!」
「そうだよ、リナリー。ラビだったら襲われてましたよ。」
「大丈夫よ、撃退できるもの。」
『絶対イノセンス使う気ね…』
「そんなこと言っているのではない――――!!」
「リンクもキンキン叫ばないでくださいよ。頭いたいっ」

ガチャン!!

そしてアレンは私たちを室内に引き込むと扉を閉めた。

「あっ、コラ!開けなさい、ウォーカー!!
コラッ、これは立派な職務妨害だぞ!」
『叫んでる貴方は近所迷惑よ!!』

ギャーギャー言いながらリンクは扉を叩く。
その扉をアレンは内側から両手で押さえていた。

【そーいや、なんか夢見てた気がすんだけど。なんの夢だったかな…】
【同じく…何か夢見てたような…】

これも日常茶飯事。
同じ夢を見て、覚えていることもあれば忘れることもある。
後者のほうが断然多いが。
そうしているうちに私とアレンの間にいるリナリーが言う。

「…アレンくん、大丈夫?」
「ん、何が?」

彼女はにこっと笑うと何事もなかったかのように言った。

「ううん、なんでもない。」

【あっ、熱のことか…】
【…たぶん。】

「うん、大丈夫だよ。」

すると突然扉を叩く音が止まった。

「わかりました。キミがそのつもりならリナリー・リーと密室で2人きりだとコムイ室長に言ってきます。」
「『えっ…』」

そして私たちは勢いよく扉を開ける。

「ごめん、リンク!!」
『ていうか、私もいるでしょ?』
「2人きりのほうが室長が慌てるでしょう。」
『そりゃそうだけど、嘘吐くってことだよね…』

私たちが出て行った部屋でリナリーは目を覚ました瞬間のことを思った。

―見間違い…?アレンくんじゃない人に見えた…―

彼女は14番目と化していたアレンを見ていたのだった…



その頃、街のどこかで…

ガシャン

窓ガラスがすべて割れた中、椅子に座った長髪の男がいた。
彼の体にはアレンと同じ刺された傷痕。
彼は頭を抱えていた。

「どうしたの、ティッキー。」

そんな彼にガラスの破片を避けて、壁にもたれて床に座る少女、ロードが話しかける。
彼女は無表情で持っていたキャンディをなめていた。
彼女の頬や足にはガラスで切れた傷があり、そこから血がゆっくりと流れている。

「傷が…疼くんだよ。教えてくれよ、ロード…」

ティキが割ったガラスの破片1つ1つには
白い口だけののっぺらぼうが、ニヤッと笑らい、白い歯を見せていた。

「この感情はなんなんだ…?」



その日の昼間、雨が降っていた。
私とアレン、そして神田はジジのところにいた。
あの中央庁の謎の男について訊くためだ。
マリは手のケガのため医療室にいる。
私は長めのスカートにワイシャツを着て、アレンはワイシャツの上にセーターを着て、ネクタイを締めている。
神田はチャイナ服だ。
私たちの頭上ではティムと神田のゴーレムがバチバチと火花を散らしている。

「んあ?新入りのエクソシスト?」

科学班は総動員で結界を張っていたテントウムシについて調べていた。
みんなやつれている。

「ティモシーならそこ。」

ジジが勉強中のティモシーを指さす。
そこには頭を抱えるティモシーとビシバシやってるエミリア、そして彼の師匠となったクラウド元帥がいた。

『いや、ティモシーのことは知ってるわ。』
「じゃなくて、孤児院で助太刀してくれたエクソシストですよ。」

私とアレンの後ろにいるリンクが顔を背ける。
彼はその正体を知っているから。

「あれから全然姿見ないし、名前もわかんないし、報告書おわんないし〜」
「お前らと一緒にいたろ!赤いのが!」
『いや、マジで報告書…どうにかして…』

ジジは薬をそーっと混ぜながら言う。

「あ―――、班長の護衛だった奴か…名前なんて知らねェよ。」
「『え――――、なんでっ』」

ボンッ

「あっ…」
『ジジ、それ薬違う…』
「先に言えよ…」
『ごめん、今気付いた。』
「とりあえず、ありゃエクソシストじゃねェって。
フェイ補佐官が呼んだ中央の衛兵だ。」
「「『衛兵ぇ?』」」

そして私たち3人はあの男がアクマを手に吸い込む瞬間を思い出す。

「え、でも…」
「レベル3、倒してたよな…?」
『えぇ…3人揃って見間違いなんてありえないわよ…?』

そして同時に言った。

「「『ちがう!衛兵じゃない!』」」
「はいはいっ、俺ぁあん時の天道虫の解析で忙しいの!」

ジジはしっしっと手で私たちを追い払う。

「あっち行け!!」
「「『衛兵じゃないっ』」」
「だぁ、うるせぇーっ」

するとジジは私たちの方を振り返り苛立ちを露わにする。

「うせねぇと抱きしめるぞっ
連チャン徹夜ノン風呂オヤジの体臭、なめんじゃねぇぞ!」

そして私たちをまとめて抱きしめる。

「「『ぎゃ〜〜〜〜〜〜っ』」」
「「アヤから離れろ、エロオヤジ!!」」
『苦しっ…』
「ほら、押しつぶされてるじゃないですか!」
『いや、臭すぎて息できない…』
「「そっちか…」」

―まぁ、同感だがな。―

そんな私たちの背後でリンクもまたあの男、マダラオのことを思い出していた。

―マダラオ?“鴉”のお前がなぜアクマを…?―
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