黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第25夜
6ページ/7ページ

その頃、コムイは指令室でたくさんの書類に囲まれていた。

ジリリリリリリ

鳴り響く電話を彼は勢いよく取る。

「しつこいですよ、ティエドール元帥!
ティモシーはクラウド元帥の弟子に決まったんですってばッ」
{俺様だ!!}
「バクちゃん?」

電話の相手はアジア支部のバク支部長だった。

{そっちにレニーは来たか!?}
「北米支部長のレニー・エプスタイン?」
{今からそっちへ行くっ
いいか、コムイ。俺様が行くまでまってろ!!}

その瞬間、指令室の扉がノックもなしに開かれた。
そこから入ってきたのはレニーと2人の緋装束の人物。

「あら、お電話中でしたかしら、室長?」

その後、慌てた様子のバクが指令室にやってきてコムイの隣に立った。
レニーはコムイの前でソファに座っている。
机の上にあったコーヒーカップはひっくり返り、コーヒーが書類にシミをつくっていく。
机の上で指を絡め、手を組んだコムイはレニーをまっすぐ見つめる。

「そんな怖いカオ、なさらないで室長。」

そして彼女の話は始まった。


その頃、修練場では…

「もう一本だ、じーさん。」

髪を背中にながし、くくっていない神田がそこにはいた。
相手はブックマン。
2人は中国風の服を着ていた。
神田の髪紐はブックマンの手の中。

「ほっほっほっほ、来るがいい神田。
組手ならまだまだ若いモンに負けはせんわ!」
『…やってるわね。』

彼らと同じくチャイナ・ドレスの下にラフなズボンを穿いた私はアレンとマリの元へ行く途中で神田とブックマンの戦い、そして山積みになった敗者たちを見つけた。
アレンとマリはこの山の向こう側だ。

『いい機会だし、ちょっと神田と話してみようかな。』
「すごいである、ブックマン!
鬼の神田に一歩も引けをとらんとは!」

燃えているブックマンに神田に負けてボロボロのクロウリーが言う。

「そろそろどっちが真のポニーテールか決めようぞ。」
「負かす。」
『いや、どっちでもいいから。
それよりすごいわね。鬼対パンダ…』
「アヤ嬢、何か言ったか?」
『いえ、何も。みんな大丈夫?』

周囲の山に声を掛けると、ラビ、クロウリー、チャオジー、そしてたくさんのファインダーが呻いていた。

「神田先輩、強いっス…」
「やれ、じじいっ。俺らとファインダーの敵とってくれさー」
『ちょっと悪いんだけど、ブックマン。私と代わってくれない?』
「どうしたのだ?」
『神田と話したいことがあるの。』
「…よかろう。」
『5分でいいわ。その後はどうぞご自由に真のポニーテールでも何でも決めてちょうだい。』

そして私は神田と対峙した。
彼は何も言わないまま私と手合せを始める。
何も訊かないでこっちが話すのを待つ、それだけのことに彼の優しさを感じる。
彼に近づいたとき、彼の手が私の腕を掴んだ。

「アヤ…」
『…あのとき、気付いたでしょ?
私とアレンの変化に神田が気付かないはずがない。』
「!!」

神田の足を蹴り飛ばしながら、再び体勢を立て直す。
彼はすぐに私に向かってきた。

「…あの時のモヤシが“14番目”になってたのか?」
『…そう。そして私がノアの意志を断片的に受け継いでしまった“14番目”の操り人形…』
「っ!!?」
『…アレンがノアになったら、私は表情を失った人形と化す。その名も、歌姫。』
「…そうか。髪が銀色になったのも歌姫の影響だな。」
『えぇ。』

神田は私の腹部を蹴る。
私はちょっと油断していた所為で、結構飛んで行ってしまった。

『っ…やったな、神田。』
「ふん、油断しすぎだ。バカ。」

私はいつものように彼に拳を向ける。
すると彼はその拳を受け止め、その手を引いた。

『うわっ』

彼の口が私の耳元に寄る。

「どうして俺に言う?」
『…気になってるかな、と思って。
あの銀色の髪、見たでしょ。』
「…」
『いいの、私が言いたかっただけだから。
言わないほうがよかったのかもしれないけど…ごめんね。』
「…気にするな。」

私は小さく微笑んで神田を背負い投げる。
彼は空中で体勢を変え、上手く着地した。

「話は終わりか?」
『うん。他の人には聞かれたくなかったから、このタイミングしかなかったの。』
「もうそろそろ5分ぞ。」
『了解です、ブックマン。』

私は神田の背中に手を置いて、体勢を崩した彼の背中を飛び越える。

「っ!?」
『ありがとう、神田。』

そして驚いた表情でこっちを見た彼を振り返り、私は心の底から微笑んだ。

「アヤ…」
『ブックマンが待ってるわよ。』
「始めるぞ、神田。」

神田は立ち去って行く私の背中から目を背け、ブックマンと対峙した。
そして私の背中に向かって言う。

「アヤ、お前らしく生きろ!
くよくよしてんじゃねェ!!」
『!!』
「チッ…さっさと始めるぞ、じじぃ。」
「ふん、望むところじゃ。」
「ボコボコにしてくれ、ブックマン!」
「とくに顔を!!」
「潰れろ、神田ぁああ」

始まった戦いに…そして神田の優しく強い言葉に微笑んで私はアレンの元へと足を進める。

『…ありがとう。』

その頃、アレンとマリは私や神田とは違ってのんびり組手をしていた。

「流石アヤだね、神田と普通に戦りあってるよ…」
「それより、さっきの質問だが…
アクマをイノセンス以外で破壊する方法だったか?」
「うんっ」

アレンの右手の拳をマリの左手が受け止める。

「“自爆”と…“共喰い”だな。」
「“共喰い”!?」

その会話をリンクは少し離れた柱の影で眠るティムを頭に乗せて聞いていた。

「アクマがアクマを吸収するんだ。
江戸地区でそういう現象があった。」
「“共喰い”か…
でもあの緋装束の人、人間だったからそれは大丈夫か…」

その後、2人は腰を下ろして休み始めた。
マリにコップを渡し、やかんに入ったお茶を勧める。

「飲む?」
「ありがとう。
その緋装束の人、イノセンス適合者じゃなかったそうだな。気になるのか?」
「んー、アクマがね…」
「え?」

当然のように“アクマが心配”だと答えたアレンの横顔をマリは心配そうに見つめる。

「遠目だったけど、あの時アクマは確かに破壊されて消えたんですよ。」

【イノセンスでなければアクマに内蔵された魂は浄化できないのに…】
【アレン…?】

彼は自分が心で呟いたのにも気づかず、コップに口をつけながら切なさそうに言葉を続ける。

「魂は大丈夫だったのかな。
結界で左眼が利かなかったから、視えなかったんですよね…」
「…アクマを心配してるのか?」
「ご、ごめんっ。マリは今回指を失ったのに…」

あたふたするアレンを見て、マリは溜息を吐く。

「そこはいい。アレン、お前少しは自分を心配しろ。」
「へ?」
「あのな、ここにいる人間は大半がアクマを憎んでるんだぞっ
我々教団や中央庁にとって、アクマの材料になった魂のことなどどうでもいいことだ。
お前の…いや、アヤもなのか。
その戦い方は共感されない。
そんなんじゃいつかお前らが辛くなるぞ。」

アレンはマリの言葉を真っ直ぐ彼の目を見ながら聞く。

【魂のことなんてどうでもいい…か。】
【アレン…私はそんなこと…】
【僕もだよ、アヤ。】

アレンはそっと微笑んでマリに言った。

「ありがと、マリ。」

【やめるにはマナを忘れなくちゃならない。
それはできないんだ。】
【…私も、両親のことは忘れられない。
アクマの魂が視えるなら、助けたいもの。】

マリはそんなアレンを見て言葉を失う。
そしてマリはアレンに背中を向け歩み去ろうとした。

「お前と神田が衝突する理由がわかった…
似た者同士だからだ。」
「んなっ!?」

ショックを受けたアレンはムギーっとマリに食って掛かる。

「冗談でしょ!あんなバカと一緒にしないでくださいよっ」

そんなアレンの頭を片手で押さえて止めながら、マリは哀しそうに微笑む。

「いや、お前もバカまっしぐらだ。
…そのくせ、捕われてる闇が深すぎて、どうやって救い出してやればいいのかわからん。
もどかしいよ、あいつは私を救ってくれたのにな…」
「え?」

―今、なんて…―

するとマリがにっと笑った。

「スキありっ」
「げっ」

彼はアレンを突き飛ばす。
彼らの元へ歩いていた私からもその様子が見える。

【やられたわね、アレン。】
【マリ…!!】

私は彼の声を聞きながら、にっこり微笑んだ。
もうすぐ彼らの元へ辿り着く。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ