黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第26夜
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London…午前2時53分

「あ…ああ…っ」

橋の下で1人のホームレスが苦しんでいた。

「はぁっはぁ…アタマが割れるぅ〜〜〜っ
ああ〜〜〜〜〜助けてぇ〜〜〜〜っ」
「オイ、あれ。」
「ほっとけ。ホームレスが拾い食いでもしたんだろーよ。」

そこを通りかかった2人の警察官。
初めは無視しようとした2人だったが、そのあまりの苦しみ様に足を止めたのだった。

「うぁぁああああぁぁぁあーーーーーっっ」

頭を抱えて叫んだかと思うと、ホームレスはばたっと倒れた。

「あーあ。」
「ったく。」
「おい、しっかりしろ。」
「金はあるかい?医者に運んでも金がなきゃ…」

そう言った警察官2人の顔が硬直する。
それは倒れたホームレスの額に3つの目があったから。

「!?な、なんだコイツは…?」
「わぁあぁっ、めっ目が5個あるぞ、オイ!
人間じゃねぇっ」

すると額の大きな目が2人を捕え、警察官の目と鼻から血が流れ出す。何の前触れもなく。

「…ぐふっ」
「え…なに…?」

パンッ

警察官はそのまま内側から殺された。
ホームレスはいつの間にかキリリとした表情になっていて、2つの死体を平然と眺める。

「…35年か…ずいぶん席を空けてしまったのう。」

そう呟いた彼の周りに黒い円形の水溜りのようなものが多数現れる。
そこから姿を現したのは千年伯爵とその他のノアだった。

「35年前…“14番目”に殺害された貴方たちはメモリーにダメージを受け、次の転生に大きなタイムラグが生じてしまったのでス♡」

伯爵の声を聞きながら、ホームレスだった男は服を他のノア同様胸元の開いた袖だけのコートに変えた。
そして長い髪を上げるため頭にターバンを巻く。

「ウフ♡おハヨウ、兄弟♡
よく戻ってきてくれましター♡」

伯爵に続き出てきたのは10人のノア。

「第1使徒“千年伯爵”
第2使徒“裁(トライド)”
第3使徒“快楽(ジョイド)”
第4使徒“欲(デザイアス)”
第6使徒“蝕(フィードラ)”
第7使徒“恤(マーシーマ)”
第9使徒“夢(ロード)”
第10・11使徒“絆(ボンドム)”
第12使徒“色(ラストル)”
第13使徒“能(マントラ)”
第8使徒“怒(ラースラ)”は転生したものの死んでしまったか。
むむう。第5使徒、この魔眼の“智(ワイズリー)”が遅れをとるとは悔しいのう!」

ワイズリーはそう言うと伯爵に抱き着いた。

「おお、このタプタプ感!!」
「まっ」

その光景を見つめながら頭に?を飛ばす人物が1人。

―第3使徒…“ジョイド”…?なんだ…?
初めて耳にする響きなのにすごく懐かしい気がする…―

「それがおぬしの所有するノアメモリーの本当の名だからだ。ティキ・ミック。」
「!」
「だから懐かしく思う。」

振り返ったワイズリーとティキは目が合った。

―コイツ、人の心読め…っ!?―

「イヤ、おぬしの顔がわかりやすいだけだのぅ。
魔眼でもちゃぁんとプライバシー守るぞ、ワタシはぁ。」

―ウソくせぇ…―

ワイズリーは当然のように手には“親しき仲にも礼儀あり”という立札を持ち、肩からは“大人のマナー”と書かれたタスキを下げている。
何ともわざとらしい。

「本当の名…?」

ワイズリーの言葉を聞いていたデザイアスが問う。

「ノアメモリーにそれぞれ人の名のようなものがあるのかい?
我々は七千年前現れた1人の使徒“ノア”のメモリーを分け持っているのだと思っていたんだが…」
「1人?
使徒“ノア”は13人出現したのだ。
ワタシらは第2から第13使徒までのメモリーを各々所有している。」
「七千年前…
奴…“ハート”との戦いで第1使徒の我輩が倒れた後、生き残った12使徒は大洪水で滅びた世界で第二のアダムとなり、現在の人類の祖先となりましタ♡
故に人間は皆“ノア”の遺伝子を持った子孫であり…
ひとつの時代に12人が遺伝子の覚醒でノア化するのは我輩を守る為12使徒のメモリーが転生するからなのでス。
七千年間、数多くの人間に転生し12使徒は我輩と共に憎きイノセンス共と戦ってきタ…♡」
「自覚がないのはおぬしらがメモリーを無意識に抑えとるからだ。
七千年生き続けとる“千年伯爵”や脳を覗ける魔眼のワタシと違い、“ノア”の使命を受諾はしても己の自我がメモリーに飲まれることは拒絶しておる…
人間らしい反応だがな…」

ティキはその言葉から最近の自分の異変について考えていた。

「…」

―自我がメモリーに飲まれる…
アレン・ウォーカー、そして羽蝶アヤから傷を受けて以来なんか調子悪ィのって…―

彼は自分の身体の傷をそっと指でなぞる。

―いや、まさかな…―

そんなティキをワイズリーはじーっと見つめていた。

―しかし驚いたのぅ…
ジョイドのあの姿…まるであの男に生き写しではないか…―

「ワイズリー、それナイショにしててぇ。」
「ロード…」

自分の手を握りながら寂しそうな顔で言うロードをワイズリーはそっと見る。

「35年前から転生してないのはもうボクだけだもん。
アイツの顔なんてもう誰も覚えてないんだしさ…」

2人の頭にはティキによく似たある“男”の姿が浮かんでいた。

「てか…おぬし35年前からその姿のままなんだのう…?」

ワイズリーはロードの頭にポンと手をおいて髪を撫でる。
それはまるで兄が妹にするようで。

「…気に入ってんのぉ。」

そうしているうちに伯爵がニッコニコで、歯をキラキラ輝かせ、ルンルンの状態で言った。

「さあ!残る使徒は“怒(ラースラ)”のみですヨ♡
スキン・ボリックの肉体から次はどこのダレちゃんに転生しますか〜〜〜
捜さなきゃ、捜さなキャ♡!!!
そしてこのクソ長き聖戦の終止符(ピリオド)をうつは我らの代とならんことヲ♡!!」

ビビッ
ズキンッ

ノリノリで言っていた伯爵の身体に突然異変が生じる。

「…ッ」

無理すんなよ…
オレはさ、何があっても味方だから…

伯爵の頭の中であの男の声がする。
彼は伯爵にそっと手を差し出していた。
伯爵は苦しみながら地面に膝を着いた。

「千年公っ?」
「アイツが…ッ」

頭を抱える伯爵にロードが駆け寄る。

「アイツの声がスル…ッ
我輩を…まタ…アイツの声が…ッ」

―!“14番目の声が…!?―

「もットダ…ッ♡」

伯爵は黒いオーラを放ちながらゆっくり立ち上がる。
背後の満月と重なり、彼の表情はわからない。
見えるのは何も移さない光った目だけ。

「もット闇ををを…広げマショウゥゥ♡」
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