黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第28夜
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アルマはただがむしゃらに走っていた。
その振動にユウが目を覚ます。

―アル…マ…―

「みんな…起きてないみんな…ごめんね。
見捨てていくわけじゃないんだ。
ただ…ユウが処分されたらぼく耐えられない。
ユウだけなんだ…ぼくらやっと…
やっと…友だちになれたんだ…っごめんよ…」

走るアルマは涙を流していた。
まだ目覚めぬ友を想いながら。

―バカヤロ…バカだろ、おまえ。
ただ会話する回数が増えただけじゃねーか…―

もうすぐで出口と思われた時、後ろからたくさんの針が飛んできて2人を襲った。

「が…っ」

ほとんどがアルマに刺さり、ユウの肩には1本だけ。

「アル…」

そんな2人を鴉の札が囲む。

「“禁羽”」
「鴉!?」
「お戻り頂きます、使徒さま。」
「…っ」

するとアルマが最後の力を振り絞ってユウを蹴った。
その所為でユウの身体は崖から落ちていく。

「!?アルマ…っ」
「うまくいけば外に出られるカモ?」
「かもってなんだよっ」
「逃げて!」
「バカだろ、おまえっ」

心優しい友人に向けて伸ばしたユウの右手は届かなかった。

「ひとり用水路に落ちたか。」
「あの使徒は本体の記憶を取り戻し始めている。
エクソシストと接触させてはマズイ。
我らふたりで追う。お前は“アルマ”を連れていけ。」
「はっ」

薄れゆく意識の中でアルマは気になる言葉を考えていた。

―本体の…記憶…?―

落ちていったユウは用水路の波に流され、ある場所に辿り着いていた。
そこにいたのは若きバクとマリ。
マリは前回の任務で視力を失っていた。
軽く腰かけイノセンスの弦をハープのように奏でるマリの元へバクが走ってきた。

「マリ!」
「その声は…えーと…」
「バク・チャンだっ!!」
「あっそうだ、バク班長殿。」

それを見ていた私とアレンは声を漏らす。

『あれってマリ…?』
「そうみたい。じゃあ、この前マリが言ってた“あいつは私を救ってくれたのにな…”ってこれに関係が…!?」
『そんなことをマリが…?』
「うん…」

私はその会話を聞いていなかったため初耳だ。
その間もバクとマリの会話は続く。

「救援部隊が全滅したと連絡が入った…
いつ…次の任務が入るか判らんのだ。頼むから休養を…」
「目が使えなくなっても弾けるものですね。
神の兵器(イノセンス)で奏でれば天国の仲間たちに届く気がして…レクイエムです。」

バクの言葉に答えず、マリは奏でる手を止めずに言葉を続ける。

「次できっと私も死ぬ…死ねる。
もう仲間の死臭を嗅いで戦わなくていいんだと、ほっとしてるんです。」
「使徒に縋る私たちが憎いか…?」

俯くバクを優しくマリは見上げた。
その瞳はガーゼと包帯で隠されていて何も映さない。
それらがなくても彼の目に再び光が灯されることはないが…

「いいえ、もう私には何も見えませんから。」

そんなマリが何かの音を聞き取った。

「今…子供の声がしませんでしたか?」
「えっ?い、今か?」
「咳き込むような…」
「ゲホッ」

マリの背後からユウが這い上がってきたのだ。
その様子にバクはびくっとし、マリは状況が分からず頭に?を浮かべる。

「…なにが“うまくいけば”だ、あの野郎。
死ぬほど冷てぇし…つか死んだし。
しかも全然…外じゃねぇ…」

そう言うとユウは倒れてしまった。

「「…」」
「おい…コレ抜いてくれ…」
「えっ、はっえ…いっ今すぐ医療班を!」
「いらない。抜いてくれれば治る。」

走り出そうとするバクの足をユウは掴み止める。
バクは顔面から転んだ。

「頼む…印が痺れてたまらねェんだ…」

鴉の針に印が光り、それがユウを苦しめていた。
その針に見覚えのあるバクが驚く。

―鴉部隊の式針…!!―

「お前一体…」

マリはユウの息遣いを頼りにユウを担ぎ上げる。
そして針を抜いた。

―!?この匂い…?―

「これで大丈夫か?」

ユウはマリを見て、小さな声で訊いた。

「おまえ…どっかで…?」

そしてそのまま力尽きて眠った。

「おいっ?あっ、寝た!?」
「なんなんだ、コイツは。」

そこに現れた鴉。

「その子供をお渡し下さい。」

抵抗できず、マリは鴉にユウを手渡した。

『…教団はバカよ。聖戦に勝つためって、ただの言い訳じゃない。』
「そうだねぇ。聖戦の為に奴らもたくさん殺してる…」
『…あれ?アレンは!?』
「さっきまでここにいたよぉ?」
『でも今はいないわよね…』
「迷子?」
『はぁ…勝手に動いたんだろうなぁ。』

アレンを探すべく私たちは神田の過去を眺めながら足を進めた。
眠ったユウはマリから漂った匂いを思い出す。

―この匂い…そうだ、血と死臭の…―

そして再びあの夢を見る。
蓮華と女性、謎の手…

「ねぇ、この花知ってる?」

女性が優しく“彼”に問う。

「天に…向か…っ」

“彼”の声は途中で途切れてしまった。

「蓮華の花…泥の中から天に向かって生まれて世界を芳しくする花なのよ。」

“彼”は死ぬ間際なのだろう。
愛しい彼女を想って高い空に手を伸ばした。
ユウも無意識のうちに手を伸ばす。

「愛してる、ずっと…」

その声を聴きつけたアクマがやってきた。

[まだ生きてやがる〜〜〜〜
とどめだ、エクソシスト!!]

それが“彼”の最期の記憶だった。
ユウはゆっくり目を開く。その目は涙を流していた。

「おまえを、あいしてる…」

それは誰に向けて発した言葉なのかもわからないまま、彼は愛しい人を想うのだった。


蓮華の花のようだと云われた
泥の中で咲き、世界を芳しくするその生き様が
まるでエクソシストの相(さが)を顕わしてるようで愛しいと
あの人は云った


「装置と点滴をはずせ。」

サーリンズの冷たい声で目を覚ましたユウは、ある円陣の中央のベッドに寝かされていた。

―そっか…そーゆうことだったのか…―

ユウから少し離れた場所でトゥイが壁に向かって話していた。
その壁にはフォーが眠っているのだ。

「…そうか、なら説得は伯父上に任せよう。
いや、今まで通りこの区域は封神で支部と遮断していてくれ。
バクが近づいても絶対開けるな。
ああ…何も変わらん。見張りだけ頼む。
板挟みにしてすまないな、フォー。」

“フォー”という名前にユウはアルマの笑顔を思い出す。

「精霊さんじゃないかなって…
フォーっていって会ったことあるんだ。
同調テストが辛くて泣いてた時…」

その声が彼の頭の中で響く。
そして彼は狂ったように笑った。

「は…はははは…っ」
「!ユウ…」
「はははははははは、あはははははははっ」
『神田…』

私とロードはその様子を少し離れた場所で見ていた。

「酷いことするよね、教団も。」
『…否定できないわ。』
「怖いのぉ?」

すると彼女は知らないうちに震えていた私の左手をその小さな手で握った。

『ロード…』

彼女は小さく微笑んでいた。

「ユウ、これからお前に術をかける。
少し苦しいだろうがすぐ終わる。
二度と目覚めることのない眠りだ。」

トゥイは静かにユウにそう告げた。
そんな彼女をユウはギロリと睨む。

「騙してたな?第二使徒計画?人造使徒?
ちがう、ちがうね。何もかも全部でたらめだ。」

―幻覚なんかじゃなかった。
封印したのか?消したのか?記憶を?―

「俺はAKUMAに殺されたんだろ?
今はいつだ…?あれから何年経ってんだよ…?」

蓮華の中にたたずむ女性は昔の想い人だろう。
彼女との記憶も消され今は断片的にしか残っていない。
彼女と過ごした時間から何年経っているのか。
彼女は生きているのか…?
そのことだけがユウの頭の中で蠢いていた。

「何しやがった、俺たちに何しやがった!?」

―殺される記憶…―

アクマに殺される残酷な記憶…

―あいつも?―

いつも笑顔のアルマも?

―あいつらも?―

まだ目覚めぬ水の中で眠る仲間たちも…?

―じゃああれは…あのイノセンスは…―

「始めるぞ、チャン。」

サーリンズの声と共にユウの身体を強い電撃が襲う。

「!!」

その痛みの中でもユウは叫び続けた、心の叫びを。

「が…っかお…
おまえら…“味方”じゃ…ないのかよ…?」
「イノセンスしかないのだ…!
この聖戦に勝つ為にはっ
お前たちエクソシストでなければ…世界を救えないんだ…!」

『アレン!』

そのとき強い電撃の向こうにアレンが見えた。
彼の顔から表情が消える。
私の声も届いていない。

―なんだそれ、なんだそれ…―

ユウの心の声が私たちに聞こえてくる。
それと同時にアレンが頭を抱え、悲鳴を上げ始めた。

「「あああぁぁぁぁああああああああ」」

ユウとアレンの叫びが響く。
彼らの目からは涙が溢れていた。

『アレン、アレン!!!』

私はアレンに駆け寄り抱きしめる、力の限り。

『しっかりして、アレン!我を忘れちゃダメよ!!』
「神田ユウの思念に飲まれちゃう。」

ロードもアレンの腰にしがみついている。

『自分を思い出して!』

やっと彼の目に正気が戻る。

『思い出して、アレン。
貴方はアレンなの。アレン…』
「アヤ…」

彼の濡れた瞳が私を捕える。

『はぁ〜』

私はどっと疲れて彼の胸に崩れ落ちた。
その背中を片手でさすりながら、もう一方の手で涙を拭う。
ロードはそんな彼の頬を引っ張った。

「もー、こんなところでも迷子になんの〜?」

私は苦笑するだけ。

「いーい?これは現実じゃないの。神田ユウの記憶なのぉ。
すでに過去で起こったことなんだから。」

私たちの横ではまだ苦しむユウの姿。
私はその苦しそうな姿を直視できず、アレンの背中に回した手に力を入れた。

『くっ…』
「…」

ふっ

すると突然周囲が暗くなり、光景が変わった。
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