黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第29夜
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アルマの放った光によって私たちは身体を強く瓦礫にぶつけ気を失っていた。
私より先に隣に倒れていたアレンが目を覚ます。

「う…」

すると私たちを庇うように血を流しながら立つトクサの姿が見えた。

「さっさと起きてもらえませんかね…」

トクサは札を咥え術を使って私たちを庇っていた。

「!」
「げふっ…」

トクサの身体がアレンに向かって倒れこむ。
それをアレンが抱き起こす。

「札で…!?僕らの盾になったんですか!!」
「ふ…“使徒さま”が減っては戦争に不利になりますからね…」
「……バカ…っ」

アレンは私を片手で揺する。

「アヤ…アヤ、起きて…」
『ぅん…?』

身体の揺れで目を覚ますと、アレンの辛そうな顔が目の前に広がっていた。
すると彼の目から涙が零れだす。

『アレン…?』
「…何です、そのカオは。」
『トクサ!私たちを庇って!?』
「貴女たち、同じ反応をするんですね。」
「…守れなかった。」

その言葉に私とトクサは会話をやめアレンを見る。

「ジョニーやリーバーさんたちを…支部のみんな…
僕は助けられなかった…
なんでこう僕は…いつも守れないんだ…」

それを聞いていたトクサが怒って膝でアレンの頭を蹴る。

ゴキィ

「ムカツク!」
『あらら…』

なんとなくトクサの表情から仲間たちが死んだとは思えなかった私はアレンのように泣くことはない。
それどころかトクサらしからぬ行動に呆れて笑みが零れた。

「うぬぼれないでください。
誰も死なない戦争なんてないんですよ。
それに使徒の力は人を守るものではない。」

彼はそっと身体を起こす。
それを私は手伝いながら彼の続きの言葉を待った。

「使徒にしか破壊できぬものを破壊するのが貴方方の使命!!
目の前の命をいくら守ったところで世界は救われないんですよ。」
『…目の前の命を守れないで世界を守れるの…?』

小さく呟いた私の声は誰にも届かなかった。

「!う…っ」
『トクサ!?』

―一瞬、トクサの目にペンタクルが…―

「なんでもない!」
『でも…っ』
「言わないでください、アヤ。」
『っ…』

息遣いが荒くなってきたトクサは姿を見せない仲間を思う。

―マダ…ラオ…早く来てくれ……
早く私を吸収してくれ、マダラオ…―

「それに…守りは元鴉(こちら)の専門分野です…」
『それって…』
「…え?」

私は微笑んで背後のアレンを振り返った。
彼はいまいち意味が分かっていないらしい。

「今の一言で分かってくれませんかね…」
『ふふっ、すぐに分かるわ。』

すると耳につけた無線からジョニーの声がした。

「アレン…?」
「!!ジョニー!?無事だったんですか!!」
「へ…へ、なんとか…」

ジョニーは道管に埋もれながらも生きていた。

「あの瞬間、サードが衛羽をとばしてくれてさ…ケホッ」

リーバーや他の班員の周りに札が飛んでいる。
守れる限りの人々をサードたちは札で助けてくれたのだ。

「多分…班長や支部長たちも助かってると思うよ〜」
「!!」

アレンは嬉しさのあまりトクサの背中を見つめ涙を一筋流した。

【アレン、泣き過ぎ…】
【だ、だって…】

『ありがとう、トクサ…』
「お礼を言われるようなことはしていません。」
『それでも…ありがとう、助かったわ。』
「ふんっ…」

私は無線を使って呼ぶ。

『リーバー班長、聞こえる?リーバー班長!?』
「お、おぅ…聞こえてるよ。」
『よかった…』
「バク支部長やズゥ様、他の人たちも俺が見える限り無事だ。」
『そう…アレン、みんな無事みたいよ。』
「そっか…」


その頃、神田と対峙したアルマは足を進めながら微笑んだ。

「ユメをみた。
ユウがどうしてぼくを裏切ったのか、やっとわかったよ…」

その言葉と比例するようにトクサの身体を強い鼓動が襲う。

ドクン…ドクン…ッ

「ぼくはぼくだけを破壊したユウを恨んだ。」

その憎しみが形となってトクサの左肩に現れる。
それは大きな口のようなもの。
異常に私とアレンも気付く。

「ユウが生きたせいで人間共は悔い改めなかった。
ユウのせいでぼくはAKUMAになっちゃった!!」

アルマの髪は黒く染まり、顔つきも無邪気なものではなく憎しみの笑みに変わった。
神田はそんなアルマの様子に一瞬顔をふせた。
それからすぐ彼は刀を構える。いつもの冷静な顔で。

「だったら破壊してやるよ。」

するとトクサの身体がアクマのように暴れはじめた。
既に彼の半身は怪しい口で埋もれている。
もう彼自身では制御できないのだ。

「トクサ!?」

アレンの声も届かない。
暴れた身体は勝手に私たちに攻撃を放つ。
それをもろに喰らった私たちは血を吐きながら壁に勢いよくぶつかった。

「がはっ」
『くぁ…』

トクサの苦しそうな顔が見える。
そうしていると彼の身体から声が漏れてきた。

[…セナイ…許セナイ…許セナイィィィ]
「!!」
『ア…アル…マ!?』

【しまった!サードの体内には卵核(ダークマター)の母胎にされたアルマの細胞が入ってる!!】
【アルマのAKUMA化に共鳴して暴走しているっていうの!?】

めきめきと音をたてながらトクサの身体は呑まれていく。

「がはっ、い!いやだ…っ」
『トクサ!!』
「いやだぁ、マダラオッ!助けてくれ、マダラオォーッ」
「フフフ…呼んでも無駄デスよ、第三使徒♡」
「伯爵…っ」
「お前達は皆、アルマ=カルマと共に葬られる運命なのデス♡」
『それって、まさか他のサードたちも…!?』
「フフッ、そうエクソシストの手によっテネ!!♡」

まだ座り込んだままの私の隣に、ふらふらと立ち上がったアレンをトクサは心配そうに見る。
私たちを攻撃しないだろう?と問いかけるように。
アレンは微笑んで言った。

「な…何言って…!?」

しかし身体はその言葉に反していた。

「破壊ノ爪!!!」
「ギャアアア」
「な…?」
『アレン!?』
「体が…勝手に発動した!?」
『イノセンスがアクマに反応してるんだわ!!』
「ウォ、ウォーカ…!?」

まだ神ノ道化はトクサに攻撃を仕掛けようとする。
その腕を必死に止めようとアレンももがく。

「やめろ、神ノ道化!!止まれ…止まるんだ!!ぐぎっ、と…っ」

あまりに力が強く止めようとするアレンの身体にも影響が出始める。
いつの間にか私の身体も神ノ道化のマントに包まれていた。

『どうして…』
「止ま…れぇえっ」

アレンは自分の鋭い爪を自身の首に向けた。

『やめて、アレン!!』
「止まらないと今すぐこの体ブッ壊して…っ」

すると背後に大きな黒い影が立った。

「私を…破壊するのですか…?」
『トクサ!!』
「ち、ちがうっトクサ!」
「神(イノセンス)は我々をッ、敵と見做したのですか?」

憎しみの深海に沈んだ彼の暴走を私たちはもう止められない。
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