黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第30夜
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自爆しながら神田に手を伸ばすアルマ。
その寂しそうな笑顔に神田は問いかける。

―なぜだ…なんでそんな苦しそうに笑ってんだよ…―

神田の手はアルマに届かない。
しかし自爆による光は彼とアルマを包みこんでいた。

「なんでなんだよ、アルマ!!」

【自爆する気だ!!】
【やめて!どうしてこんなことに…】

「わぁぁっ」
「ダメだ…っ」
「止めてくれぇええっ」

バクが泣きながら叫んだ瞬間、アルマは神田と共に爆発した。
その風に私とアレンも吹き飛ばされる。

『神田ぁぁあああ!!アルマァァアアアアアアア!!!!』

爆風の中、私の声だけが響いていた。


「がはっ…」

アレンは瓦礫の中、身体を起こした。

「アヤ…?」
『ぐぁっ…』

その近くで呻き声を漏らす私。
すると私たちの大きな鼓動が重なり褐色の肌が白く戻った。
神田に刺された部分だけがまだ少し褐色だ。

『アレン、大丈夫…?』
「…うん…くっそ!ふたりは…っ」

風が少しずつ止んでいき、その中に見慣れた背中を見つけた。

『神…っ』

しかしその身体は粉々に砕け始めていた。
腕や足は崩れ落ち、心臓となっていた球体も身体から転がり落ちる。

「『神田ッ!!』」

倒れた彼に私たちは駆け寄る。
その様子を見ていたデザイアスが伯爵に言った。

「ふん、スキン・ボリックのいい仇討ちになったんじゃない千年公?」
「…教団屈指の能力を誇る神田も…
アルマ=カルマの前ではなんと脆イモノカ…♡」

私とアレンは大粒の涙を零しながら神田の身体を揺する。

『ねぇ、神田…嘘よね?
貴方が死ぬなんて…嘘でしょ!!?』
「アヤ…」

私は神田を抱き締め、ただ泣いた。
そんな私を背後から抱き締めながらアレンも涙を流す。

「復讐でAKUMAになったんじゃない。
アルマの魂は神田が愛してた女性(あの人)だった!」
『…ノアの術で神田の真実を知ったアルマは自分の正体を永久に葬るためAKUMAになったのよ!!』
「どぉして…神田はどうなる…っ
なにも知らずこの9年間生きてきた神田はどうなるんだよぉッ!!」

叫ぶ私たちの耳にアルマの静かな声が届いた。

「いえないよ…」
「『!!』」
「ぼくが“あの人”だってわかったら…
ユウはもう探してくれない…」

アルマはボロボロの上半身だけを残し、腕も片方しかない状態で神田の隣に倒れていた。
今まで砂埃に隠れていたようだ。

「あの日の約束…
ユウが“あの人”との約束に縛られてる限り…
彼はずっと“あの人”のものなの…ずーっとね…」

崩れ始めているアルマの表情はとても優しく綺麗な微笑みだった。
どこか神田を思わせるその微笑みに私とアレンは言葉を失う。

「ユウの体、どこ…?どこにある…?」

そう言いながらアルマは神田とは反対の方向へ片腕で身体を引きずりながら這って行く。

「ユウのそばにいきたい…どこ…?ユウ…?ユ…」

その瞬間、彼の脳裏に神田の眠る顔が浮かぶ。
そして滝のように涙が零れる。
それはまるで幼い子供のよう。
彼は地面に拳を当て大泣きした。

「どうしても…この人だけは失いたくなかった…っ!!」

それを聞いたアレンが私から離れそっと立ち上がった。

【ア…レン…】

彼はアルマを背後から抱き上げ胸に抱いた。
涙を流しながら…

「…神田はこっちです…」

そのまま私の方へ帰ってくる。
アルマはアレンの胸に寄り添い、そっと呟く。

「優しいね…」

だがすぐにアルマの身体に異変が起きた。

ゴボッ

アルマの身体から黒い液体が溢れ出て彼の身体にヒビが入る。

『ダークマター!?』
「まだ残って…っ」
「これでいいんだよ…ありが…と…」

パァァアアアン

そしてアルマの器は砕け散った。
ダークマターで形作られたアルマが額に☆を描いたままブクブクとうねる液体の身体を引き連れ上空へと上がっていく。

「『アルマーッ』」

【くそっ、アルマの魂を食い尽くすつもりか!!】

『もう…やめて!!』

神田を抱きしめる手につい力を込めてしまう。
アレンはアルマを追おうとイノセンスを発動させる。

「アヤ…モヤシ…」
『っ!!』

その声に私は自分の腕の中をアレンは振り返って私の方を見た。
私は心臓の代わりを果たす球体を彼の身体に戻すと彼から刀を受け取った。

【アレン…行こう、2人の為に…】

伯爵とデザイアス、そして人形の姿をしたロードはアルマのダークマターを見上げる。

「アレ、どうなるんだい千年公?」
「どうにも。じきシャボン玉みたく弾けて消えるデショウ♡」

その瞬間、伯爵の身体を白い帯が捕える。
それは伯爵に巻きつくと強く引っ張られた。

「オヤ♡?」
「「千年公!?」」
「あっ」
「重い…」

重い伯爵を下に引きずり降ろし、その反動で神田を左腕で抱いたアレンが空高く飛んだ。
私は彼らを背後から追う。
アレンの伸ばしたクラウン・ベルトの上を軽やかに走ればいいため簡単だ。

「アルマ!!」

アルマは神田に呼ばれた気がして上を見る。
そこには輝く空が見えた。
それは現実か、夢か…それとも過去か。誰にもわからない。

―ユウ…?ユウの声が……―

その声に向かってアルマは手を伸ばす。

「俺たちが初めて行った任務先、憶えてるか…?」
「はい!」
「あそこなら当分見つからない。」
『神田、行って!!』

私の声に彼はアレンからアルマへと飛んだ。
私はアレンの肩に手を置いて共に上空に浮かぶ。

「神田!」

アレンの呼び声に神田はこちらを振り返った。

「レニーさんが言ってました。
アルマを助けられるとしたら神田だけだって。」
『私たちもそう思う。』

そう言って私たちは微笑む。
すると神田がいつもとは違う、とても優しく、それでいて強く笑った。

「…礼を言う、アレン・ウォーカー。
お前がいてくれて助かった。」

アレンが驚いた顔をしている隣で私は微笑んでいた。

「アヤ、ありがとな…」
『神田…』

―ユウの声…どうして天から…―

アルマがそう思ったその時、神田が空から降りてアルマを抱きしめた。強く、強く…

「ユ……ウ…?」
「一緒にここから逃げよう。
イノセンスも教団も無い場所へ…
今度こそ一緒に…っ」

その言葉にアルマはすべてを悟った。
神田が自分の正体を知ってしまったのだと。
彼は9年前と同じように泣き、神田も当時と同じく呆れたように笑った。

「…あ…話…聞いてたのかよぉ…?」
「丸聞こえだ、バカ。」

その声はとても優しかった。
私はアルマのダークマターが崩れ始めたのを見てアレンから飛んだ。
神田に渡された六幻でアルマのダークマターを粉々に砕く。
すると神田に抱かれた上半身だけが残った。
アレンは伯爵たちがいたであろう場所に降り立ち、私もその隣へ着地する。
そして真剣な顔で2人を見上げた。

【【方舟ゲート!!】】

私たちの頭上に方舟のゲートが開かれ、
そこに向かって神田とアルマは落ちて行く。

「しっかり捕まってろ、アルマ。」

返事をしないアルマに神田はもう一度声を掛ける。

「アル…」

そして彼が見たのは自分に寄り添い涙を流しながら幸せそうに微笑むアルマだった。
その横顔はどこか“あの人”に似ている。
神田の頬を涙が静かに伝った。

「さよならアルマ…」

アレンの声と共に2人は方舟に吸い込まれた。
アレンは右手をゲートに向け低い声で言う。

「ゲート、“破壊(アダラ)”。」
『さよなら、神田…』

こうして方舟のゲートは私たちの頭上で砕け消えた。

「ノアにも教団にももう手出しはさせない!」

そう言ったアレンの瞳はどこまでも真っ直ぐで決意に満ちていた。
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