黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第30夜
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【誰の手も届かない果ての地へ…
方舟よ、ふたりをマテールへ…】

アレンの想いと共に方舟は神田とアルマをマテールへ運び、ララがグゾルの為に歌ったあの場所に2人を落とした。
神田が強くアルマを抱いたまま背中から落ちる。
すると頭上で方舟のゲートが散った。

「ゲートが崩れていく…」

方舟の欠片を手で受け止めると、それは燃えて消えた。
アルマを傍に寝かすと神田は方舟を見上げる。

「モヤシ…アヤ…」
「かわいそうな子…」

そのときアルマが小さく言った。

「ぼくにはわかる…千年伯爵の分身であるAKUMAには…感じ…るんだ…
アレンって子…ノアだよ…
それも…ひどく伯爵と……っ!」

そう言った瞬間、アルマの身体を電撃が襲う。

「もう喋んな、バカ。」
「ユ…ユウ…このまま見てて…イノセンスは使わないで…っ」
「わかってる。」
「ぼくの魂がダークマターに潰されるまで…」

アルマは神田に向けて手を伸ばしながら泣き叫んだ。
それを神田は優しく包み込むように抱きしめる。

「今でも教団が許せない…っ
憎くて…たまらないよ。
でも、ぼくは泥に沈むべきだ…
ぼくは殺した…たくさん…
伯爵にまで力を貸して…たくさん…」
「わかってる、わかってるから。」

そして優しく言った。

「ずっと見ててやる…」

タランチュラが柱の上を這い、方舟の欠片が舞う中、神田はアルマを抱いたまま近くの柱にもたれかかって座る。
そのまま目を閉じていると楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

くすくす…

はっと顔を上げると、長いスカートを穿いた女性と幼い頃のアルマが手を繋いで神田から歩み去っていた。
彼らの背中を神田はただ懐かしい想いで見つめる。
それは“ある人”と大切な親友の背中…遠ざかっていく。
そして神田と2人の周囲を黒い泥と、その上に咲く蓮が包んだ。
一面に咲く美しい蓮…神田とアルマにしか見えない思い出の花…

「ユウ、大好き…」

その声と共に2人は泥に沈んだ。
静かに…どこか嬉しそうに…
神田はその様子を見つめ優しく微笑んだ。
その目からは穏やかな涙が零れ落ちる、9年分の想いと共に…

「…あぁ」

彼が目を閉じて最後に聞いたのは泥の音だった。

チャプ…ン

神田の言葉に2人が応えたのかもしれない。


Russia・ジカルジャン

キレドリはアルマの怨念によって暴れていた。
それを容赦なくソカロ元帥が攻撃する。

「がぁあああああ」

そしてキレドリは破壊…殺された。

「もっとシビアになれや、アレイスター。
AKUMAになったら仲間じゃねぇ。ブチ殺すのみだろーがぁ。」

尻もちをつくクロウリーに向かってソカロが言い放つ。
ミランダは顔をふせて涙を流す。
ファインダーもただ立ちすくむだけ。

「キレドリさん…っ」
「な、なんてことだ…っ!」

クロウリーは頭から血を流しながら言う。
するとその言葉をデビットがマネした。

「なんてことだぁ〜
エクソシスト諸君、神田ユウが“14番目”を覚醒させちゃったってさ。」
「!」

その言葉の意味を理解したエクソシスト3人は驚いたような、悲しむような表情で顔を上げた。


Greece・レフカス

「アレン・ウォーカーは間もなくノアとなる。
そして羽蝶アヤも生贄としてノアの操り人形と化す。」

淡々と話すのは龍に変化したラストル…別名、ルル=ベル。
リナリーはAKUMAとなったゴウシを石柱に突き刺し殺していた。
その死体の前に膝をつきリナリーは涙を流し震える。
自分のしてしまったことに、そしてラストルの言葉に…

「お前達はさらに選択する。
“14番目”を信じるのか、サード共を破壊したようにアレン・ウォーカーを破壊するのか。
彼を破壊すれば羽蝶アヤだけは助かるかもしれないがな…」


China・黄山

「奴は必ず貴様らにとって破滅の種子となるぞ。」

ノアのフィードラはそう言い残して去っていった。
取り残されたチャオジーは目を見開き息を荒くする。
彼は倒れたまま返事もしない。

「しっかりしろ、チャオジー。」
「何があった!?」
「様子がおかしい…」
「何をされた、チャオジー!?」

マリはチャオジーを抱き起こしながら呼びかけるが反応はない。
するともう1人のファインダーが気付いた。
あの2人がいないことに…

「ラビとブックマンがどこにもいない!!」

そう、2人はノアに連れ去られたのだ…


彼らが各地で涙を流している頃、バクの持っていた玉が割れた。
それと同時にフォーも消える。

「!精霊石が割れた…第三使徒の呪縛が解けるぞッ」
「憎い、憎い、教団が憎いぃぃ!!」

解放されたトクサは力尽き膝をつくバクに襲いかかろうとする。

【バクさん!!】
【アヤ、行くよ!】

「「!!」」
「アルマの怨念が…」
「消えて…ない…っ」

そのときバクの前に私とアレンが降り立った。

「ウォーカー…アヤ…」

バクが私たちを心配そうに呼ぶ。
私はしゃがみ彼と同じ高さになると小さく微笑んだ。
そんな私とバクの前でアレンは真っ直ぐ前を見据える。

「アレン・ウォーカー!!重大な背信行為だ。
自分が何をしたかわかってるのかね!?
アルマ=カルマを神田ユウと共に逃がすとは…っ」

ルベリエがアレンに向かって叫ぶ。
私はいくら歌姫とはいえ、方舟のゲートを造ることはないため、すべての攻撃はアレンへと向く。
そのことは2人共理解しているため、お互いを責めることはなくただ支え合うだけ。

「アルマを破壊せねば第三使徒の暴走は止められんというのに。
キミはみすみす救える命を…第三使徒計画を潰すつもりかね!!」
『話にならないわね、ルベリエ…』
「うん…」
「ウォーカー…?」
「アヤ、バクさんと一緒にいて。」

そして彼はトクサを止めるべく地面を蹴り跳んだ。
その様子を見ながら未だアレンのベルトで縛られた状態の伯爵は帽子も被らずに言う。

「愚かナ…アルマ=カルマはとっくに死んでマスヨ♡
あれはもはや怨念だけで彷徨っているノデス♡
アルマ=カルマの悲しみはそれ程までに深かったということデショウ♡」

バクは私の腕にしがみつく。

『バクさん…?』

彼の手の力が強くなっていく。
それは悔しさと後悔と悲しみによるものか…?

「我々の因果を現したということか…
第三使徒はもはや助からん…」
「人事みたいに言いやがって…っ
千年伯爵(あんた)さえいなければ、私たちは…っ」

レニーが怒りから涙を一筋流し、叫んだ。
そんななか、アレンはトクサを攻撃する。
殺さないように注意しながら…

「…トクサ!」

だがそれをルベリエは許さなかった。

「伯爵の言葉など信じるものか…っ
第三使徒計画はなんとしても必要なのだ…!!
これは命令だ、ウォーカー。
直ちにゲートでアルマを破壊しに行くのです!!
行かねば貴様はもうエクソシストではない!!」
『黙れ!!』
「アヤ…!?」
『黙れよ、ルベリエ…
第二・三使徒計画によってどれだけの命が消えたと思ってんだ!?
伯爵がいなければこの戦争はなかった、それは確かだ。
でもお前のその人を戦う駒としか思っていないことでたくさんの人が犠牲になったのも事実だろ!!
人を半AKUMA化なんかにしたお前の所為でトクサたちは破壊の対象になっているんだぞ!
聖戦のためにと、お前はどれだけの人を傷つけたら気が済むんだ!!!』
「アヤ…」
『戦争を捻じ曲げ悪化させたのはお前達だろぉ!!!』
「……」

ルベリエは私の言葉に応えずレニーも顔を俯かせた。

「イノセンスめ、憎い!憎い!」
「トクサ、目を…目を覚ませ!!」

アレンは必死にトクサに声を掛ける。

「キミはアルマじゃない。
これはただのアルマ細胞だ。キミの身体なんだよ。
きっと制御できる。キミは僕なんかよりずっと優れた戦士じゃないか。
しっかりしろ!!」

すると“トクサ”の声がした。

「わたしを…破壊しない…のか…?」
『トクサ!!』
「なぜ…?キミこそなぜ諦めるんです?」
「そのまま…イノセンスでアルマ細胞を弱め…ろ。
アルマの怨念を抑えこむ…っ」
「はい!」

やっと光が見えてきた、そう思った瞬間…

「縛羽!!」
「な…っ!?」
『えっ…!?』

見上げた先にいたのは術で抑えこんだテワクを横抱きにし、
アレンに術を繰り出すリンクだった。

『リンク!!』
「発動を解きたまえ、アレン・ウォーカー!!」

彼の登場で、事態は大きく変わってしまう。
トクサの運命も、テワクの進む道も…
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