黒白Rhapsody(D.Gray-man)

□第30夜
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リンクの頭にテワクの言葉が蘇る。

「突然頭の中に変な映像が流れてきて。
兄様とトクサがアレン・ウォーカーに殺されてるところ…」

私はアレンを縛羽で捕える彼を呼ぶ。

『リンク!?』

だが彼はアレンを解放しようとしない。

―あの予言もどきを信じてた訳ではなかった…
だがこの数か月毎日24時間彼らを監視し、接触してきた私だからわかる。
外見だけじゃない。内側から滲むように感じる冷たく殺伐な気。
今までの彼とは決定的な違和感…
“14番目”への覚醒が始まったのは間違いない!
ウォーカーは危険だ!!―

するとリンクはアレンをトクサから離し地面に落とした。

「痛…っっ」

アレンは口に貼られた札を無理矢理剥がし叫ぶ。

「ムギッ、はなせ…っ
今なら助かるかもしれないんだ、リンク!!!」
『お願い、リンク!!』
「きくな!ウォーカーは暴走している。
締め上げてゲートを開かせなさい!!」
『ルベリエ…お前…』
「さぁ!リンク監査官ッ」

そのときリンクが抱いていたテワクの身体が変形し始めた。

「兄様…兄様はどこ…?」

身体に大きな口が現れ暴走を始める。

「殺したんですの…?兄様はッ」

そしてテワクはアレンに向かっていく。

「アレン・ウォーカー…!!」
『アレン!テワク、やめて!!』
「テワク!!止まれ!!くそっ、もう札が…」
「兄様はどこぉぉぉおおおおお」

私もリンクも間に合わずアレンが強く目を閉じたその瞬間…

ドカァン

黄色い巨体が私たちの前を通り過ぎテワクを突き飛ばした。

「『!?』」
「ギシャアアァァアアア」
「あれっ、えっ?」
「うそっ」
「『ティムキャンピィーーーー!?』」
「デカイ!!」
「そんなことは後で…」
『リンク、危ない!』

トクサの暴走は治まらず彼はリンクに向かって行っていた。

「ダメだ、よせーーーっ」

アレンの声も届かず、トクサの大きな手がリンクを掴む…寸前、その巨体が消えた。

【【え……?】】

―まさか、伯爵!?―

私ははっとして伯爵を見ると彼はアレンのベルトに巻きつかれたまま両手を開いて笑っていた。
気付くのが遅いですヨ♡とでも、言いたそうだ。

「消え…た?トクサ…?」

そのとき立ち上がったテワクの足元に伯爵の黒い方舟が現れる。

「兄様…トクサ…キレドリ…ゴウシ…」
「『!!!』」

―伯爵の方舟!!―

「みんなテワクをひとりにしないで…」

彼女はポロポロと涙を流す。

『そこから離れて、テワク!!!』
「早く離れろぉ!!」
「…テワク!」

リンクが駆け寄り伸ばした手はテワクを掴むことはなかった。

「リンにいさま…」

リンクの耳に微かに聞こえたのは昔テワクが自分を呼ぶ声だった。

「貴方方が計った“第三使徒計画”、実によく理解できマス。
生存を求める故のごく自然な行動ダ。
しかしながら我々にはルールがあるノデス♡
そしてアヤも言ったように人を傷つけているのはお互い様デス。
我々は自らが掲げた“神”で殺し合わねばナラナイ♡
その筋道からハズれる事は断じて許しマセン♡
力を欲するなら“ハート”を探すコトデスヨ♡」

ノアは方舟に気を失ったマダラオを引き連れて乗り込んでいく。

【マダラオまで…っ】
【くそっ…】

「第三使徒はこちらの駒にさせて頂きマスヨ、ルールに従ッテネ♡
あ、それからルールからハズれまくっテルそこの貴方。」

―アレンのことか…―

「近いうちにお迎えにあがりマスネ♡
そして歌姫、貴女も一緒ニ…
おまえたちはもう、その場所で生きられないでショウ…?♡」


『バクさん…もう大丈夫よね。』
「え、あぁ。」
『私、アレンの所に行くから。』

私はそれだけ告げるとアレンのもとへと急ぐ。

『アレン!!』

彼の横にいるティムを軽く撫でアレンを抱き起す。
そしてそっと抱きしめた。

『お疲れ様…』
「アヤ…僕は助けられなかった…」
『アレン…大丈夫だよ…独りじゃないからね…』

そこにリンクがやってくる。
アレンは彼に言った。

「リンク、あと少し…少しだけでよかったから僕を信じてほしかった…
トクサ、ごめん…ほんとにごめん…ごめん…」

アレンは私の肩口で涙を流した。
その後、アレンとティムは連行されていった。

『ルベリエ長官!!』
「やっと長官と呼びましたね、アヤ。」
『っ…』
「何でしょう?」
『アレンとティムをどうするおつもりで?』
「幽閉ですよ。何をされるかわからないのでね。」
『私は?』
「貴女は関係がありません。
ただノアに利用されている生贄なのですから。」
『…アレンとは会わせてくださるのでしょう?』
「いいえ、面会はなしです。」
『それでは約束と違います!
私を彼から離さないこと。
それがリンクを監視につける条件だったはず。』
「監視をつける条件はそのようなものでしたね。
ですが幽閉については何も言ってないはずですよ。」
『では今すぐ許可していただきたい。』
「何もやましいことはしませんね?」
『どうせ幽閉場所に鴉の札を貼るはず。
それならどうこうできるはずがないでしょう。』
「確かに。いいでしょう、監視はついていますが自由に彼と会うことは許しましょう。」
『どうも。』

そして私は軽くルベリエに頭を下げると、治療を受けるため歩き出したズゥの背中を追った。

『ズゥ様!』
「アヤ…」
『これを預かってもらえませんか?』

私は持ち主を失った六幻を彼に渡す。
それを受け取りながらズゥは私を見上げる。

「何を考えているんだい?」
『…これから何が起こるかわからないから。
自分のことで精一杯なのに彼はみんな守ろうとする。
私は彼の心が折れないように支えるだけ。
神田やトクサを救うことができなかった。
そのことを彼は後悔してるはずよ。
六幻は神田の大切な刀だったでしょ?私なんかが持ってちゃダメ。
だから預かっててあげてください。
もしかしたら神田がひょっこり帰ってくるかもしれないし。』
「そんなことは…」
『あの神田よ?死んだとは思えないの。』
「…わかった。預かっておくよ。」
『ありがとう、ズゥ様。』

そして私は笑う。

―どうしてこの状況で笑える…?―

私が教団に帰ろうとするとリーバーに上着を掛けられた。

「そんな格好で帰れないだろ?」
『…ありがとう、リーバー班長。』

すると彼は私の頭を撫でてくれた。

『っ…』
「泣きたければ泣け。俺たちは味方だからな。」

俯いた顔を上げると優しいリーバーの笑顔とジョニーの苦笑ぎみの顔、そして科学班の人たちがいた。

『リーバ…班ちょ…』
「おぅ。」

彼はそっと私を抱き背中をさする。

「アヤが背負うには重すぎる十字架だな…」

戦いの疲れにプラスして泣き疲れた私はそのまま倒れこむようにリーバーの胸で眠った。
そんな私を彼はおんぶして帰って行った。


私が目を覚ますと、そこは病室だった。

「アヤちゃん!」
『婦長…』
「大変だったわね…」
『うん…』

近くの病室から叫び声が聞こえてくる。

「治せないってどうゆうことだよ、ドクター!!」
「落ち着け!治療法がないんだ!
まったく未知の病原体で、しかもノアが関係してるとなるとヘタに手が出せない。
二班と連携して努力はする…」
『婦長…?』
「チャオジーよ。ラビとブックマンは姿を消したらしいわ。」
『っ!!』

私は婦長が止めるのも気にせず病室を飛び出す。
そこにはマリとキエ、マオサ、そしてちょうどやってきたリナリーがいた。

「アレンくんや神田が…ラビたちまで…?」
『リナリー…』
「アヤ、何があったの…?」
『ごめん…』
「アヤの所為じゃないでしょ。」

彼女はそう言って涙を流した。

『…ごめんね、リナリー。私たちの所為なのかもしれないの。
でも私たちもわからないのよ。
責められても仕方ないけど…何もわからないの…』
「アヤ…」

ただ私とリナリーは互いを強く抱き締めて涙を流した。
病室を出ることが許され、私は自室から最低限必要なものを持ち出した。

『ここにいたら寂しくなるからね、リリー…
やっぱり独りではこの部屋も広いわ。
この前まで3人いたのに…』

ここにアレンとリンクがいない…それだけのはずなのに。
私は母の形見であるSAKURAと持っていたお金、アニタに貰った髪留め、家族や仲間の写真、そして服を少しだけ鞄に詰めて部屋を閉めた。

『アレンの所へ行こう、リリー。』

だがリリーはアレンのもととは別方向へ向かう。

『何処行くの?』

リリーについていくとそこはクロスが撃たれたあの部屋だった。

『ここに何があるのよ?』

リリーが中に入りたがっていたため扉を開けると、リリーは部屋の奥にある箪笥の小さな引き出しを指した。

『この引き出し?』

開けてみると何もない。
だが何もないところにリリーが案内するはずもなく、私は引き出しの底をいじった。
すると板が2枚重なっていた。

『これって…』

板の下には写真が1枚入っていた。

『マリアン…』

そこにはクロスと幼い私、マザーとバーバ、そしてアレンの姿。
裏にはクロスの字で“アヤが笑った”と書いてある。

『こんな写真…まだ持ってたのね。』

それはアレンが回復してマザーの提案で写真を撮ったもの。

『私が初めて笑って写真を撮ったんだっけ?』

リリーが肯定するように羽を羽ばたかせる。

『懐かしい…この日に戻りたいよ…』

肩に止まるリリーを撫で私は一筋の涙を流す。

『どうしてこういうときに傍にいてくれないの、マリアン…』

私は涙を拭うと部屋を出た。

『…いつまでも逃げてるわけにはいかないわね。
でもリリー…いつマリアンからあの場所を?』

リリーが見せてくれた記録によると、新しい本部に引っ越ししたときの面会でティムと同様メッセージを受け取っていたという。

『“アレンが捕われアヤが独りになったとき案内してやれ”…
ホント自分勝手なんだから…』

小さく微笑むと私はみんなの思い出と共に歩き出した。
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